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*写真はイメージです

 WHO(世界保健機関)の不妊に関する調査(1998年)では、男性に原因がある場合は48%で約半数に上る。不妊の原因は女性にあるというのは、勝手な思い込みにすぎない。

「(夫に)検査をお願いしても忙しいからとなかなか病院に行ってくれないとか、恥ずかしいと断るとか、予約を入れていたのに、お酒を飲みに行ってしまったり、という話をよく聞きます」

 不妊に関する相談や啓発活動を行うNPO法人Fineの女性会員は、不妊に悩む女性が口にする非協力的な夫の姿を、そのように明かす。

 晩婚化に伴い、高齢出産が増えると同時に、不妊に悩む夫婦も少なくない。卵子が老化することが、数年前に衝撃的に報じられたが、不妊の原因の半分が男性にもあることは、あまり報じられていない。

 男性不妊専門の東邦大学医学部の永尾光一教授は、検査への敷居の高さを指摘する。

「男性の検査は、病院でマスターベーションをしなければなりません。それだけ繊細なもので、恥ずかしい気持ちや、検査に対する怖さがあります。そもそも病院に来ないことも」

 もし自宅で精子の状態をチェックすることができたらどうだろう? それを可能にするキットが先月、発売された。

 アダルトグッズで一躍有名になった『TENGA』が開発した『TENGA MEN'S LOUPE』はスマートフォンのカメラを使い精子を観察することができる。550倍のレンズと付属のシールで4回まで使用可能だ。

 実際に『週刊女性』記者(30)が試したところ、スマートフォンのビデオモードに映る精子の動きを確認することができた。だが、数が少ない……。

 TENGAの取締役・佐藤雅信さんも、「少ない……気がします。体調や環境で変化もしますし、何度か観察して気になるようでしたら病院で検査をしてみてください」と促す。

「この製品は医学的な判断をするものではありません。あれ? 少ないぞと思ったら病院で検査していただきたい。自分の精子の状態や、結婚や妊活について考えるきっかけになればと思っています」

 創立当初から医療やヘルスケア分野への進出は計画にあり、今回の商品もその一環。

「獨協医科大学越谷病院の小堀善友先生から、病院で精液所見を検査した数値とボールレンズで見た精液の状態に、相関関係が認められるとのお話をいただきました。そこで、スマートフォンで簡単に観察できるものを商品化できないか、と開発へつなげました」(佐藤取締役)

 今後は男性不妊に関する認知のための啓発活動に取り組む予定だ。

「まじめな部分だけでは広がらないと思い、まずは楽しくというところも大事にしています。高校生の性教育で使用したり、カップルで見ることでお互いに考えるきっかけのひとつになれば」(佐藤取締役)

 日々の暮らしにサービスや情報を提供する『リクルートライフスタイル』も、精子検査キット『seem』を手がけている。

 販売しているキットと無料で提供されるスマートフォンのアプリを連動させ、精子の運動率、濃度などを計測する仕組み。今度は後輩記者(26)がさっそく試してみると「精子濃度2480万パーミリリットル、運動率0%」という結果に……。

 つまり精子そのものは濃いが、まったく動いていない? 信じたくないという思いを抑え『seem』の開発を担当したネットビジネス本部の入澤諒さんに聞いてみた。

「計測された精液においては、精子の活動が認められなかったということですね。医療機関の検査のかわりになるものではありません。何度か計測しても数値が変わらず不安であれば病院での検査をおすすめします」

 今年4月末から、都内の一部クリニックや薬局で限定500セットをテスト販売している。1箱で使用回数は2回。

「実際に自宅で使用して“夫が病院に行ってくれた”、“協力的になった”というアンケート結果をいただいています。男性の行動に変化を与えることを目的にしていますから、いい結果が出ていますね」(入澤さん)

 好感触のようだ。年度内には本格的な販売を目指すが、こんな懸念もあるという。

「たまたま精子の状態がよく安心してしまう人が出てしまうのではないか。それだけは絶対に避けたい。だから『seem』のアプリ画面には、病院での検査を促すメッセージが何度も表示されます。あくまでセルフチェックであり、医療機関での検査のかわりとなるものではありません。

 男性も女性と一緒に妊活をスタートする際に、自身の精子の状態を知ることのハードルを下げ、男性不妊症の啓発につながればと思っています」

 永尾教授は精子検査キットの手軽さに期待を寄せている。

「自宅で確認できることによって、夫婦間のコミュニケーションのきっかけになったり、病院を受診することにもつながるんじゃないでしょうか」

 さらに、こうつけ加えた。

「結婚前に判別がつくこともメリットのひとつです。ただ病院で検査するものとは、精度も検査項目も違いますからあくまで病院に行くきっかけとしてとらえてほしい」

 男性不妊の原因は精子をつくる機能が働かない特発性造精機能障がい(原因不明)が全体の約4割。2番目に多いのは、血液が精巣の静脈に流れ込み静脈瘤ができ「簡単にいえば精子の質が劣化する」(永尾教授)精索静脈瘤で全体の約3割を占める。3番目はEDや射精障がいで約2割。

「『2人目不妊』の原因は、精索静脈瘤がほとんど。手術をすればかなり回復します」

 永尾教授は、早めの手当てを訴える。

 不妊治療経験があるという冒頭の女性は、4歳児の母(48)。3年間、自身の不妊治療を続けた後に夫が精索静脈瘤とわかったという。

「レディースクリニックなどで、夫の精子を検査してもらっていましたけど、夫を診察することはありませんでした。でも泌尿器科で検査をしたら、その日に精索静脈瘤が見つかったのです」

 最後に、こう話した。

「婦人科では男性を診なくても、精液があれば顕微授精までできるため、男性の不妊に気づきにくいところも。男性不妊症は治療で改善するものが多い。女性の負担を減らすためにも、男性は泌尿器科を受診してほしいです」(永尾教授)