20160621_izonsho_2

 '13年に厚生労働省の研究班が発表した調査によると、日本全国のアルコール依存症患者は109万人。パチンコなどのギャンブル依存症の疑いがある人は536万人、スマホやSNSなどインターネット依存症の疑いのある人は421万人にのぼるという。

 そこで知っているようで知らない「依存症」のリアルについて、榎本クリニック理事長で医学博士の榎本稔医師に教えてもらった。

【Q1】『大酒飲み』と『アルコール依存症』の違いは?

 ほとんど毎晩のようにお酒を飲むし、飲み始めたら酔っぱらうまで……。お酒は大好きだし、誘われたらつい飲んでしまう。これはアルコール依存症なのだろうか?

「実は、アルコール依存症であるかどうかの診断基準は、明確にはありません」

 さまざまな依存症に関する著書が多数ある榎本稔医師はそう話す。

「お酒が好きで毎晩飲んでも、翌日ちゃんと仕事に行くなら問題ないでしょう。ただし、飲みすぎて仕事に行けなかったり、酔っぱらって暴行や痴漢などの問題を起こしたり、身体を壊して入院したり、家族に迷惑をかけるようになったらアルコール依存症と言えます」(榎本医師)

 お酒をいっぱい飲んで「酒豪ですね」と言われているうちはいいが、勝手に仕事を休んだり、周りから「ちょっと、おかしい」と思われ始めたら危険信号。

「ほどほどの量であれば、昔から言われるように“酒は百薬の長”。ほんの憂さ晴らしのつもりで飲み始めたのが、いつしかハマり、習慣になって、飲む量が増える。やがて“今日はこれくらいでやめておこう”と思っても、歯止めがきかなくなる。つまり、自分で自分の行動を抑えることができなくなる。これが依存症の典型的なプロセスです」(榎本医師)

 わかっちゃいるけどやめられない、という状態がつまり、依存症なのである。

【Q2】依存症になっているかどうかを見分ける境界線は?

 ここまでやると、もはや依存症かも……なんて、自分で依存症に気づくことはできないものか。

「そもそも依存症の人は自覚がまったくありません。依存症とは現代社会が作り出した病気ですが、本人は病気だなんて思っていない。悪いのはお酒を売っている店だし、パチンコを営業している社会だし、自分をこうしたのは教育のせいだと思っています。

 ただ、何か問題を起こす前に、その人が依存症であると見分けるのは難しいし、区切り方もわかりません。ケガや病気で苦しくなれば病院へ行きますが、依存症の人は自ら病院やクリニックに来ることはありませんから」(榎本医師)

【Q3】女性がなりやすい依存症ってあるの?

 多様化し、細分化される依存症。その中でも、特に女性が陥りやすいものとは?

「食べ物系の依存症は女性に多いです。女性はスイーツが好きですよね。甘いものに依存する女性はいます。ダイエットや過食も、女性が依存しやすい。買い物依存症も若い女性に多いです」(榎本医師)

 買うといっても、別にその品物が必要というわけではなく、ただ「いいなあ」と思って衝動的に買ってしまう。その「買う」行為そのものが快感で、自分を抑制することができない。

 大金持ちであれば特に問題にはならないが、そうでなければ親に泣きついたり、借金を重ねて、周囲を困らせる問題を引き起こす。

「リストカットも圧倒的に女性のほうが多いです。ストーカーも女性の『性依存症』と言えます。最近は女性もお酒を飲む機会が増えましたので、女性のアルコール依存症も増えています」(榎本医師)

 男女同権や女性の社会進出も、女性特有の依存症に大きな影を落としているという。

【Q4】依存症の原因に遺伝は関係あるの?

 親が昔からお酒をよく飲んでいたから、体質を受け継いで、子どもがアルコール依存症になることはあるのか。

「親から体質を受け継ぐというと、依存症は遺伝的な要素があるのかとよく聞かれますが、アルコール依存症については、DNAの配列などの観点から研究が行われているようですが、まだ明確な結論は出ていません」(榎本医師)

【Q5】依存症の原因は実は本人ではなくて家族にあるの?

 アルコールやギャンブルで問題を起こしても、泣きながら反省すれば家族は許してしまう。ひきこもりであっても家族は家族。そっと見守ってあげるのが大事……と思っていたら大間違い。

「依存症は、実は患者の家族に大きな問題があるのではないかと気づきました。重要なのは、目の前の症状ではなく、背後にある家族病理に目を向けること。依存症患者自身が自分の病気を認識するのはもちろん、その家族も患者を生み出した自分たち家族全体の病理に気づかないといけません」(榎本医師)

 家族はどうしてもかばってしまう。苦しむ子どもを目の前にした母親なら、それはなおさら。

「家族も病気なのです。治療をする立場からすると、本人をかばう家族はいないほうがいい。家族は面倒をみようとしますが、それをすると依存症の治療は挫折します」(榎本医師)

【Q6】依存症という病気は昔からあったの?

「依存症とは、現代社会が作り出した現代病です。終戦直後の日本は食べるものがなかったので、糖尿病はありませんでした。幼いころの私のように、6畳ひと間に家族5人で住んでいれば、ひきこもりもできません。

 お酒も昔は今ほど大量生産していなかったし、貧乏な人はそんなにたくさん飲めなかった。つまり、社会が豊かになるほど、心が歪んで満たされなくなり、何かの依存症になるのです」(榎本医師)

【Q7】国によって依存症の種類は違うの?

「イタリアには『性依存症』の痴漢や盗撮はないそうです。欧米人は挨拶でハグをしながら頬を合わせたり、女性と一緒に歩くと男性が腰に手を回したりするのは当たり前ですよね。文化や社会によって依存症に違いはあります。ただし、欧米に痴漢はありませんが、レイプが深刻な問題になっています」(榎本医師)

【Q8】依存症はどうやって治療するの?

 自分の力では、どうしようもないのが依存症。そもそも心の病気であり、それが身体の病気も引き起こして、さらに家族も巻き込んで、社会的な問題に悪化してしまう。

「依存症には、飲んだら治る薬とか、こういった手術をすればいいという治療方法がありません。徹底的な治療法がないのです。そもそも本人には病気である意識はありませんから。

 自ら進んで病院やクリニックにやってくる依存症の人もいません。家族も最初は面倒をみますが、見続けられなくなる。どうにかしてと、家族が本人を病院やクリニックに連れて来て、ささやかながら精神科が医療として支えているのが現状です」(榎本医師)