全国の大学、会社から「講義をやって」とひっぱりだこの芸人・キングコング西野亮廣さん。“仕事の広げ方”“エンタメの仕掛け方”“イベント集客”などのノウハウを型破りな視点で語り、聴衆の度肝を抜いている。
「テレビの仕事をやめる」と宣言してから10年――。漫才師、絵本作家、イベンター、校長、村長など肩書を自由に飛び越え、上場企業の顧問にも就任しちゃった西野さん。どうやって“好きな仕事だけが舞い込む働き方”を手に入れたのか。その秘密を綴った異色のビジネス書『魔法のコンパス 道なき道の歩き方』8月12日、発売になりました。この本の一部を特別掲載します。(毎週更新)
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 先生が話すのは、いつだって『夢』の話で、次第に『お金』の話をすることが、なんだか下品なことのように扱われて、ゆるやかに洗脳され、ついには「今、夢の話をしているんだから、お金の話なんかするなよ!」と切り離される。

 ここ最近は大学の講義の依頼が毎月2~3件ほど入るようになって、スケジュールが上手くハマれば、なるべく行かせてもらっている。

 今の学生が何を知っていて、何を知らないのかを、知ることが楽しい。

「クラウドファンディングを知っている人いますか?」と学生に訊くと、今から3年前の段階で、経済を学んでいる大学では4割ほど手が挙がり、アート系の大学では、ほぼ0人。アート系の大学生のお金に関する知識は壊滅的だった。

 ちなみに説明しておくと『クラウドファンディング』というのは、インターネット上で企画をプレゼンし、一般の方から支援金を募る仕組み。

 一人の大富豪ではなく、インターネットを介して大勢の方に少額のパトロンになっていただくというわけ。

 本来、「パトロン」という言葉に近い距離に立っているのは、経済を学んでいる学生よりも、むしろアート系の学生のハズ。

 ダ・ヴィンチもミケランジェロもラファエロも皆、パトロンがいた。

 アート活動は、何をするにも活動資金が必要になってくる。

 大学卒業後のグループ展開催費用、個展開催費用、アートフェアへの参加費用、制作に数か月を要する作品と向き合った時の生活費ウンヌンカンヌン。

 これらのお金を工面しなきゃ活動できないわけで、「そのお金はどうやって用意するの?」と学生に訊いたら、「カラオケ店のアルバイト」と返ってきた。

 たとえば、クラウドファンディングで支援してくださった方へのリターン(お礼の品)に、絵を1枚でも描けば昨日よりも画力がつくし、なにより世の中に自分の作品が残る。

 そういう資金調達の選択肢があった上で、それでもカラオケ店のアルバイトを選んでいるのなら、それは好きにすればいいんだけど、その生徒達の頭の中には「資金調達=アルバイト」という発想しかない。

 そこで「どうして学校で教えないのですか?」と先生に訊いてみたところ、「クラウドファンディング?何ソレ?美味しいの?」と先生もろとも死んでいた。

 先生が知らないのだから、教えようがない。

ゆるやかな洗脳

 いつだってそうだ。学校の先生は『お金』の話をしてくれない。してくれないわけじゃなくて、「できない」と表現したほうがいいかもしれない。

 こんなことを書いちゃうとバチクソに怒られるけど、“ほとんどの先生”は社会経験がない。

 もっとシビアなことを言うと、アートの大学の場合、アート作家として飯が食えない人が先生になっているケースが多い。

 だから先生が話すのは、いつだって『夢』の話で、次第に『お金』の話をすることが、なんだか下品なことのように扱われて、ゆるやかに洗脳され、ついには「今、夢の話をしているんだから、お金の話なんかするなよ!」と切り離される。

 切り離して、夢の話だけを続けた結果が、アート大学卒業後の「作品を作りたくて、作る技術はあるんだけど、作るのに必要なお金が……」に繋がるわけだ。

 いやいや、テメエの手で切り捨てたのだ。

 でも、この気持ちはとてもよく分かる。

 なんてったって、僕自身が“お金のことはいいから、夢を追いかけようぜ教育”のモーレツな被害者だから。

 やっぱりお金の話は下品だと思っていたし、だからお金をなるべく遠ざけて生きて、気がつけば、お金に興味がなくなっていた。

「ウソでしょ?」と言われるんだけど、いやいやホントの話で、僕は今でも自分の給料を知らない。

 収入の増減に一喜一憂するのが嫌で、デビュー当時から給料も給料明細も実家に送ってもらっていて、母の判断で「おそらく、今月使うであろう分」だけを僕の銀行口座に振り込んでもらっていたのだ。震えるほどのマザコンである。

 19歳の頃から、ずっとそうで、いつしか、給料の一部だけが僕の口座に振り込まれている“実家経由システム”をすっかり忘れてしまい、コンビニATMで残高を見て「ああ、今月の給料は、これぐらいなのね」といった無頓着ぶり。

 子供の頃から、「夢だけを追うことが素晴らしい」と育てられたから、こうなった。

 そんな中、東日本大震災が起きて、日本中が沈んでいる時に、同じように僕も沈んでいたんだけれど、天災に気分を振り回されていることにだんだん腹が立ってきて、「今、何をすれば震災があったことがプラスになるだろう?」と考え、「そういえば、今、家、全然売れてねーんじゃねえの? 買うなら今でしょ」という気持ちになった。

 しかし銀行の残高が20万円しかなかったので、「母ちゃん。俺、家を買いたいんだけど、貯金が20万円しかなくて……」と相談したら、「何言ってんのアンタ。19歳の時からの貯金があるじゃない」「え?そうなん?」といった調子で、家を買った。これマジで。

 それぐらい、お金と距離をとっていたのだ。

 しかし、好きなコトで生きていこうと考えて、「面白い」を追求する人ほど、お金と真摯に向き合うべきだ。

 というのも、お金とキチンと向き合い、お金の正体を把握することで、「面白い」の選択肢が増えるから。

 僕自身、ある時から「お金の正体」について真剣に考えるようになり、そこから一気に選択肢が増え、可能性が広がった。

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《プロフィール》
西野亮廣(にしの・あきひろ) 1980年、兵庫県生まれ。1999年、梶原雄太と漫才コンビ「キングコング」を結成。活動はお笑いだけにとどまらず、3冊の絵本執筆、ソロトークライブや舞台の脚本執筆を手がけ、海外でも個展やライブ活動を行う。また、2015年には“世界の恥”と言われた渋谷のハロウィン翌日のゴミ問題の娯楽化を提案。区長や一部企業、約500人の一般人を巻き込む異例の課題解決法が評価され、広告賞を受賞した。その他、クリエーター顔負けの「街づくり企画」、「世界一楽しい学校作り」など未来を見据えたエンタメを生み出し、注目を集めている。2016年、東証マザーズ上場企業『株式会社クラウドワークス』の“デタラメ顧問”に就任。

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(8月12日発売 1389円+税/主婦と生活社)