突然の離婚通告、料亭倒産による多額の負債、夫の愛人との奇妙な駆け引き……。次々と降りかかる困難を切り抜けていくヒロインを演じる観月ありさ。一筋縄ではいかない男女の機微を丹念に描いた作品で、これまでのイメージを払拭する熱演の舞台裏とは―。

しっとりと大人の女性“引き算”の演技

観月ありさが波乱に満ちた女性の日々を描いたサスペンスフルなドラマで、迫真の演技を見せる

 観月ありさが25年連続で連続ドラマに主演し、自身の持つ記録を更新した。今回の『隠れ菊』(NHKBSプレミアム 日曜夜10時~)は、連城三紀彦原作の同名小説。ヒロインの上島通子は、これまでの観月が演じてきた女性たちとは一線を画している。

「連続ドラマをやるときは、快活な役(『ナースのお仕事』『斉藤さん』など)が多いのですが、今回は本当に大人の女性の役。しっとりとした感じでお芝居をさせていただいています。女将という役どころでもあるので、大人の女性のたおやかさを出していけたらいいなと思っております。

 演じるうえで心がけているのは“引き算”です。コメディータッチのドラマではリアクションのお芝居を求められることが多かったけれど、通子は自分の感情を表に出すタイプの女性ではないので、(表情や動作など)いろんなものを引いてお芝居をしていこうと思っています」(観月)

 通子は結婚以来、姑・キク(松原智恵子)の言いつけどおり専業主婦として家庭を守ってきた。キクは静岡・浜名湖畔の料亭「花ずみ」を名店にした女将だったが、通子を疎んじ、店の手伝いを拒んでいた。 

 そんなキクの死後、通子の身の回りは一変。夫・旬平(前川泰之)の愛人を名乗る多衣(緒川たまき)の出現、夫からの離婚通告、姑に代わって通子が女将になると宣言した料亭は倒産の危機に………。

 1人の男をめぐって、2人の女の戦いが繰り広げられる愛憎劇に、観月は、共演の緒川や前川との距離感を図りかねていたという。

「金沢ロケが撮影開始早々にあったんです。そこで食事をしたり日本酒を飲んだりして仲よくなれたんです。お芝居ではいがみ合ったりするけれど、普段はこうやって仲よくしていいんだ、と思いました」

一筋縄ではいかない奇妙な人間関係

 良好な撮影現場の雰囲気は、制作統括の玉江唯プロデューサーも実感している。

「素の観月さんと緒川さんが台本を読んで“旬平、ひどいよね”と言いながら、盛り上がっていることもあります。女優ではなく、ひとりの女性として、意外性のあるストーリーを楽しんでいらっしゃるようです」(玉江P、以下同)

 映画を手がけるスタッフが結集し、カメラワークや照明など、ドラマより映画に近い手法で丁寧に撮影している。

「連城作品の世界観が魅力ある映像になっています。金沢の景色なども美しく、小旅行をしている気分になれたとのご意見もいただいています。どのシーンも非常にこだわって撮っているので、新たなドラマファンが生まれてくれるとうれしいですね」

 見事な調度品や見た目にも美味しい数々の料理、そして旬平の板長ぶりにも注目だ。

「前川さんは撮影前に、料理人の道場六三郎さんの一番弟子で、本作の料理監修の舘野雄二さんに、包丁さばきや料理人の所作などを学びました。プライベートでも、お料理をする前川さんは1回で刺身のさばき方を習得され、舘野さんも驚かれていました」

 料亭の女将として奮闘する通子が直面していく、夫の不倫、愛人・多衣との対立、嫁姑問題などの関係性を簡略化せずに、深く描くことにこだわったという。

 一筋縄ではいかない奇妙な人間模様の面白さに加えて、見どころのひとつは、観月の迫真の演技。

「ふだんは感情をあらわにしない通子ですが、時折、内に秘めていた気持ちが放出されることもあります。その両方を観月さんが見事に演じています。逆境をバネにして成長していくヒロインの力強さに、ぜひご期待ください」

女将の気品・風格が漂う着物美

京都の呉服店から取り寄せた美しい着物は必見(NHK提供)

 物語の舞台は料亭。女将の通子はじめ、着物姿の女性が多く登場する。山田洋次監督の映画でも衣装を手がけた松田和夫が京都の呉服店から取り寄せた美しいものばかりで一見の価値あり。

 注目は、新生「花ずみ」を興したときの通子の着物。亡き姑、キクの着物を仕立て直したという設定だが、実際にきちんと仕立て直したそう。

「反物から2着の着物は作れませんし、似たようなものというのもないんです。そこで、松原さんがお召しになったものをほどいて、観月さんの着物に作り変えました」(玉江P)