パートの時給はちょっとだけ上がった。会社の倒産も減っている。それでも暮らしは楽にならないし、中小企業は青息吐息だし、老後への不安は募るばかり。どうしてこんな事態になっているの? アベノミクスがもたらした「今」と「これから」を徹底検証。主婦目線で読み解きます!

 スーパーの野菜売り場を歩くと、家計を預かる主婦のため息が漏れ聞こえるようだ。タマネギもジャガイモも驚くような価格が並ぶ。商品を見るより先に、値札に目がいってしまう。

 相次ぐ台風の影響ならばあきらめもつく。しかし、家計への負担は天災によるものばかりでなく、食料品だけに限らない。水道料金は各地で値上げ。10月には北海道、関西、沖縄などの電力大手6社が電気料金を引き上げる。塾代から大学授業料まで、子どもの教育費も高騰し続けている。

 厚生労働省の国民生活基礎調査('15年)によれば、6割超の世帯が「生活が苦しい」と回答。アベノミクス開始から3年半─これが庶民の偽らざる実感だ。

安倍首相の巧妙な言い換え

 立教大学の郭洋春教授(開発経済学)が指摘する。

「安倍首相は参院選で“アベノミクスは道なかば”と訴えましたが、これは目標を達成できていないということを巧妙に言い換えただけ。3年半たってうまくいかない政策は、基本的に失敗と言わざるをえません」

 企業の収益は高水準、求人倍率も高く、雇用者報酬は昨年よりアップした、と政府はアベノミクスの成果を強調するが、

「企業収益が上がったのは円安株高の影響で、為替の利益が出たから。例えば、トヨタは1円の円安で400億円の利益が出ると言われていますが、販売台数は、ほぼ横ばいです。正社員を非正規雇用に替えてコストカットしたことも大きい」

 求人倍率も同様のレトリックだ、と郭教授。

「生産活動人口そのものが減っているのと、団塊世代の退職に伴い、大量採用しなければ企業はやっていけない。それで一見、倍率が上がったように見える」

 労働者の実質賃金は5年連続減少。物価も給料も下がり続けるデフレから脱却し、物価上昇率を2%上げて、賃金も引き上げるというアベノミクスの目標は依然達成できていない。

問題は大企業や富裕層を優遇したこと

異次元の金融緩和こと“黒田バズーカ”を炸裂させてきた日銀の黒田東彦総裁だが、その威力に対し疑問視する声も

「パイを大きくするのには成功しました」

 そう話すのは経済アナリストの森永卓郎さんだ。

「2013年度は『金融緩和』の効果で経済が劇的に改善された。お金を市場にたくさん出して円の供給を増やし、円安に誘導したのです。円安になると物価が上がり、製造業の競争力が高まる。株価は上昇、製造業の海外流出も止まった」

 問題は、大企業や富裕層にばかりパイを集中させて、庶民には分配しないで、消費税を上げるなどして負担を押しつけたことにある。

「金融緩和でボロもうけした企業は史上最高額の内部留保をため込んで、社員の給料に回さない。内部留保を吐き出させなければならないのに、安倍政権がとった政策は真逆でした。消費税を8%に引き上げる一方、それを原資にして企業の法人税をものすごい勢いで下げたのです」(森永さん)

 給料が上がらず、使えるお金がなければ消費が冷え込むのは当然だろう。景気対策として、さらなる金融緩和、公共事業などへ投資する『財政出動』が繰り返されたが奏功していない。

マイナス金利と都心マンションバブル

「最後の手段が、今年2月に導入された『マイナス金利』。民間銀行が日本銀行に預けている預金の金利をマイナスにすることで、預けっぱなしでは損をするから、企業や個人への融資に回すのではないかという目論見でした。でも実際は景気がよくないので、まともな借り手がいなかった。単なる銀行いじめです」

 と森永さんはバッサリ。融資へと促す目的は果たせず、地方銀行、信用金庫などにしわ寄せが……。

「マイナス金利で国債の利回りが大きく低下し、金融商品の運用益も減っています。そのため、ゆうちょ銀行では、口座を持つ人同士の送金手数料を月4回目から有料に変えました。

 国債を買い付けてもマイナス金利で目減りしてしまうので、三菱東京UFJ銀行のように、国債入札の特別資格の返上をするところも現れた。普通預金の金利もさらに下がり、ほとんどタンス貯金に近い状況に陥っています」(郭教授)

 銀行の住宅ローン金利も過去最低の水準に。借り換えが進んでいたが、長期金利が上昇傾向を見せているとして三井住友銀行ほか大手銀行は今月から、5か月ぶりに金利を引き上げる。

 森永さんが警告する。

「今から都心近辺の物件に手を出すのは絶対にやめておいたほうがいい。前述したとおり、マイナス金利で融資に回そうとしても貸し付ける相手がいなかった大手銀行は、事実上、そのお金を都心の不動産投機に回しています。結果として十数億のマンションがどんどん建ったり、銀座4丁目の路線価は約1億にまで跳ね上がったりしている」

 このバブル崩壊へのカウントダウンはすでに始まっている、と森永さん。

「東京五輪後の不況が懸念されていますが、それ以前に、2018年にはバブルがはじけるのではないか」

物作りによる経済成長を目指す時代錯誤

 日銀は今月、追加金融緩和を行う方針を打ち出しており、安倍首相も積極的な財政出動による景気へのテコ入れを明言している。

「追加金融緩和も財政出動も、やればやるほど企業への圧迫、家計への負担が増える一方です」

 と郭教授。そうでなくても今秋以降、表のように、社会保障で負担の嵐が吹き荒れる恐れが高い。

 

 あの手この手で打開を試みるも、行き詰まっている日本経済。その背景には、時代を読み違えている政府の認識不足があるという。

「国際ニュース通信社『ロイター』が日本企業400社に行った調査で、回答した企業の6割が安倍政権による金融緩和の拡大は経済を不安定にさせると回答。また、財政出動で公共事業に投資するよりも、ITや人口知能といった知識創造型産業への支援を拡大すべきだと指摘しています」

 しかし、アベノミクスが目指すのは、いまだに物作りを中心とした経済成長だ。

「物が売れない成熟社会の日本なのに、自動車や大手ゼネコンを発展させれば豊かになるかもしれないと相変わらず錯覚している。経済でも、古きよき強かった日本を取り戻す。そんな時代錯誤な思いがあるのではないでしょうか」(郭教授)