高齢化が進む日本は、まさに『老眼大国』。老眼は自然現象と放置しがちですが、進行すると、さまざまな病を引き起こすおそれがあります。独自の視力回復法を研究・開発している中川和宏先生によると、

「もともと『近視大国』でもある日本は、近視から老眼になる人が圧倒的に多い。その場合、緑内障、白内障、加齢黄斑変性、網膜剥離などの合併症になる可能性が高いのです」

 また、「目と脳」は密接にかかわっていて、目の老化が、脳の老化を引き起こすとも考えられているほど。

「まさにピンボケはボケの始まり。老眼が進むと、もの忘れがひどくなったり、認知症になるリスクも高まるのです」

 一方で、「老眼が治らないというのは誤解」と指摘する中川先生に、詳しく解説してもらった。

老眼は「治らない」と誤解されている

■要注意! 小学生も「スマホ老眼」に

 日本の老眼人口が急増しているのは、高齢化が進んでいるだけでなく、老眼の「低年齢化」も一因と言えます。

 現代人は、長時間にわたりパソコン、スマホ、ゲーム機などの情報端末とにらめっこ。過剰な情報の入力で、目と脳は悲鳴を上げています。

 中でも、現代の子どもたちは生まれたときからスマホがある世代。「目の老化」が加速し、当サロンでも、小学生~中学生の約10%が近見視力0・4以下の、いわゆる「スマホ老眼」になっています。

 スマホなどの長時間使用が目に悪いのは、画面が小さく一点を見続けるからです。目を動かさないので、目の運動量も減る。すると外眼筋(眼球の向きを変える筋肉)はカチカチに硬くなり、血流障害や神経障害を起こします。

 また、これら情報端末から発せられるブルーライトも、目の組織を濁らせ、交感神経を興奮させます。子どもでは、学力や運動能力の低下、大人では、思考停止といった症状が出やすくなるのです。

■そもそもなぜ老眼になるのか

 老眼の大きな原因は、「目のピントの調節力の低下」です。年齢を重ねると水晶体が硬くなり、毛様体筋も衰えていきます。目のピントが合いづらく、新聞の文字など近くが見えない老眼の症状が現れるのです。

 また、「近視は老眼にならない」と思われがちですが、これはウソ。「近視×老眼」は、遠くも近くも見えづらく、不自由このうえない状況になりがちなのです。

 このように、老眼、あるいは近視×老眼になると、メガネなどで対処します。しかし、矯正器具で見えるようになっても、一時しのぎ。水晶体と毛様体筋の衰えが進めば、メガネの度が合わなくなり、再び見えにくくなる。だからこそ、鍛えることで水晶体と毛様体筋の柔軟性を取り戻すことが肝心なのです。

毎日の「眼トレ」で「脳」も若返る

 もはや現代人は、情報端末ありきの生活を避けられません。目を健康に保つためにも、「目のメンテナンス」という、新しい発想が必要なのです。

 老眼のカウンセリングをしていても、現代人の目の運動機能の乏しさを痛感します。

 目を寄せたり、離したり、上下左右に素早く動かせない。あるいは、両目でものを見ていないなど、「視野が狭くなっている」のも特徴です。

 もっとも、これらの症状は、眼筋を鍛えれば回復します。

 当サロンに通う80代の男性も、訓練で徐々に視力が回復し、緑内障の進行も止まっています。ですから何歳から始めても遅くはないのです。

 眼筋を鍛えれば、目だけでなく、脳も若返ります。

 40代を迎え、老眼が始まるころから、「あの人の名前、なんだっけ?」など、もの忘れがひどくなったと実感するものです。これは、認知力・記憶力の低下が、老眼に比例しているからです。

 そもそも“見る”行為は、目から入った光(情報)を脳が受け取り、判断・解釈をして行動に移すこと。目と脳は密接に連携しているので、目から入る情報があやふやになると、脳の認知機能も低下してしまうのです。

 裏を返せば、「目力」がアップすれば、脳が活性化し、記憶力・集中力・行動力もアップ。生きる意欲も飛躍的に高まるワケです。

実践! 老眼回復トレーニング

 次は、中川先生の老眼回復トレーニングをいくつかご紹介します。

■目のパチパチ体操

 目の老化現象すべてに効く簡単・万能ストレッチ。目をギューッと閉じて、パッと開く。これを上下左右を見ながら繰り返します。肩の力を抜いてリラックスして行いましょう。

ギザギザシフティング

 目をキョロキョロと動かして外眼筋を柔軟にし、脳を刺激するトレーニング。顔を動かさず、図1のようなギザギザの線を目だけで追います。上→下の次は、下→上へ。右→左の次は、左→右へ。正面だけでなく本誌を左や右、上や下に寄せ、さまざまに角度を変えてチャレンジしてみましょう。

図1 ギザギザシフティング

数字探し

 図2のように、1から50までの大小ある数字を順番に、顔は動かさずに目で追っていくトレーニングです。距離感をつかむ深視力や、白黒反転した数字を追うことでコントラスト視力(明るいところ、暗いところに順応する視力)もアップ。1→50、50→1など順番を変えたり、奇数のみ、偶数のみなど、アレンジしてやってみましょう。

図2 数字探し

逆さ読み

 図3のように、後ろから書いた縦書きの文章を、後ろから前に、下から上に読んでみましょう。普段はなかなか体験できない読み方を通じて、目力と脳力を鍛えるトレーニングです。脳をシャッフルして衰えがちな脳の機能を呼び覚ますことで、目力を一緒に高めることができるのです。

図3 逆さ読み

渦巻き読み

 図4のように渦巻き状に書いた文章を、外から内へ(逆に渦巻きの内側から書いた文章は内から外へ)と読んでみましょう。上の「逆さ読み」と同様、目力と脳力を鍛えるトレーニングです。渦巻き読みでは、老眼になると衰える周辺視野力(周囲の状況を広範囲に把握する力)や集中力を高めることができます。

図4 渦巻き読み

スピード遠近法

 遠くの対象物と近くの対象物を交互に見るトレーニングです。老眼になると、毛様体筋が硬くなり、ピントの調節力が低下しますが、このトレーニングをすることでピントを合わせる力がアップします。

老眼を予防・改善する生活習慣

 老眼の回復には眼トレが重要ですが、日常生活での工夫で、さらなる視力回復効果が期待できます。

■活性酸素を減らし目と脳を若返らせる

「内側から目と脳を若返らせるには、老化の原因である『活性酸素』を除去して、血流をアップさせることが肝心です」(中川和宏先生)

 中川先生が提案するのが、発生した活性酸素を積極的に“解毒”すること。

「食生活の見直しはもちろん、推奨したいのがワイルドブルーベリーや、イチョウ葉エキス、ルテインを摂取することです。ブルーベリーやイチョウ葉エキスは、ヨーロッパでは医薬品として扱われるほど、血管を若返らせ、血流をよくする効果が認められています」

 日本でもサプリメントとして気軽に購入できるが、気をつけたい点もある。

「特にブルーベリーは、数々の商品が発売されていますが、安価なものに飛びつかないでほしいですね。目に有効なのは、北欧産野生種(アントシアニン100%)のブルーベリー。生産地や含有量を必ず確認してください」

老眼再生力をUPさせる『3つの心得』

 眼筋トレーニングの効果をさらにアップさせるには、メンタル面での『3つの心得』も見逃せません。

 1つ目は、“リラックス”して行うこと。

「深呼吸などをして、できるだけストレスから自分を解放しましょう。目と脳、全身をリラックスさせれば、トレーニング効果がより高まります」

 さらに、トレーニング中は、『身体に意識を向ける』。これが2つ目の心得。

「老眼、もの忘れなど目や脳に出ている症状は、身体からのサイン。身体の声に耳を傾け、自分の状態に『気づく』ことが肝心です。うまくできないトレーニングがあれば、その機能が低下している証拠。自分の弱点に意識を集中させ、トレーニングを続けていれば改善されます」

 そして、3つ目が“若返る”と信じて毎日行うこと。

「目と脳は協力し合い、片方を鍛えれば互いが回復し合える関係です。ですから“もう年だから”とあきらめず、“見える自分”をイメージすることが大切です。脳の前頭葉には、これまで長年にわたり蓄えてきた情報や、見えていたころの記憶が残されています。“見える”というイメージを描けば、脳はこれらの記憶を引っ張りだすよう司令を出し見えなかったものが見えるように働き始めるのです」

 また、“若い自分”をイメージして、目標を持つことで、目と脳が若返ると中川先生。

「登山家の三浦雄一郎さんが80歳にしてエベレストに登頂したのも、セルフイメージを若々しく保っていたから。明るい色の服や小物を身につけるなど、ちょっと図々しいくらいに『若返った自分』をイメージしてください。メンタル面がカラダに及ぼす影響は計り知れないのです」

<プロフィール>
中川和宏先生/株式会社ビジョン代表。ボルチモア視力眼科アカデミー研究員。早稲田大学卒業後、米国に留学し、視力回復法を研究。脳を刺激して視力を回復する「中川式ビジョン・セラピー」を開発する。1度で効果が実感できる独自の視力回復法は、テレビや雑誌など、多くのメディアから注目されている。

※参考資料『目と脳がみるみる若返る!老眼再生トレーニング』(世界文化社)、『目を動かすだけで記憶力と視力が一気によくなる!』(青春出版社) ともに中川和宏著