熊本地震から約半年、地元住民が復旧に尽力している最中に阿蘇山が噴いた。噴煙1万1000メートルを記録する爆発的噴火だった。次は何が起こるのか。昨年春から九州の異変を察知していた専門家は“2つの可能性”を語る。

高橋教授のメールから約3週間後、阿蘇山が噴火

《薩摩半島南端(鹿児島)、大隅半島南端(鹿児島)、足摺岬(高知)、室戸岬(高知)、紀伊半島南端(和歌山)、伊豆半島南端(静岡)、奄美大島(鹿児島)など琉球諸島(沖縄)の地震が確実に増えています。ユーラシアプレート内部に圧迫をかけているフィリピン海プレートや太平洋プレートの歪みが南海トラフや琉球海溝、沖縄トラフにもかなりの負荷をかけており、地震として動きだしています。琉球列島―南海トラフ地震は確実に近づいていると言えるでしょう》

 立命館大学の高橋学教授から「週刊女性」記者あてにそんなメールが届いたのは、9月14日未明のことだった。

《さらに、太平洋プレートの影響は北米プレートやユーラシアプレートの火山活動に間もなく到達し、巨大噴火につながると思っています》

 と続いていた。

 その約3週間後─。熊本の阿蘇山・第1火口で10月8日午前1時46分ごろ、36年ぶりとなる爆発的噴火が発生した。噴煙の高さは1万1000メートルに達した。風に乗った火山灰は高知、香川など四国にまで降りそそぎ、なによりも熊本地震の復旧を急ぐ被災者を打ちのめした。

 噴火を引き起こした詳細なメカニズムはわからず、気象庁は4月の熊本地震との関連性について不明としている。噴火原因はともかく、高橋教授がメールで指摘した「火山活動」が発生したことは間違いない。同じメールで書いていた「巨大噴火」とは、阿蘇山の爆発的噴火を指すのか。

 高橋教授は「いいえ。巨大噴火とは数週間から数か月にわたって噴煙を上げ続ける規模です。その規模につながるかどうかはまだわかりません」として次のように話す。

「阿蘇山が噴火した理由は2つ考えられます。まず、ユーラシアプレートのマグマ溜まりがフィリピン海プレートに押され、圧迫に耐えきれずに噴火したパターンです。そもそも、阿蘇山は歴史的にみて35〜50年に1度のスパンで爆発的噴火を起こしてきました。それが発生しただけともとれます。8日の噴火以降、火山活動は落ち着いていますからね。2回目の爆発的噴火がないまま2週間が過ぎれば“巨大噴火”はないとみていいでしょう」(高橋教授)

 つまり、22日ごろまでに爆発的噴火がなければ阿蘇山が巨大噴火する可能性は小さくなるということ。高橋教授が説明を続ける。

「大地震と巨大噴火はワンセット」

「しかし、もうひとつの可能性は最悪です。フィリピン海プレートの背後の太平洋プレートが“黒幕”として西日本を押していると考えた場合、太平洋プレートはもぐり込むように溶けながらどんどんマグマをつくり出すので、マグマが供給され続ける火山は大爆発します。阿蘇に限らず、西日本から東日本の火山まで次々と巨大噴火する可能性が出てきます」(高橋教授)

 下の図をご覧いただきたい。日本列島周辺には4枚のプレートが重なり合う。

九州の火山の噴火は太平洋プレートが黒幕だった!?(高橋教授の取材などに基づく)作図/スヤマミズホ

 高橋教授の説明によると、東日本では太平洋プレートが北米プレートにもぐり込もうとし、西日本ではフィリピン海プレートがユーラシアプレートにもぐり込もうとしている(※図の黒矢印)。従来考えられてきた定説だ。

 そのうえで高橋教授は、西日本では太平洋プレートがフィリピン海プレートを押す(※図の白矢印)ことで間接的にユーラシアプレートに影響を与えていると考えるようになったという。西日本全域はユーラシアプレートにのっており、地震・噴火のリスクはそのぶん高まることになる。

マグニチュード8・5以上の大地震のあとに巨大噴火が起きていないケースは、世界でみても3・11の東日本大震災だけです。大地震と巨大噴火はワンセットなんです。

 震災後、太平洋プレートは北米プレートにもぐり込むスピードが3〜4倍に加速しており、東日本の栗駒山(岩手・宮城県境)や草津白根山(群馬・長野県境)などおよそ10火山にマグマを供給し続けていることが考えられます。いつ大爆発してもおかしくない状況ですが、これに西日本の火山も加えて考えたほうがいいかもしれません」(高橋教授)

阿蘇山の中岳第1火口からもうもうと噴き上がる煙=10月8日、共同通信ヘリから空撮

「噴煙の高さが1万メートルを超えると…」

 ここ約1年を振り返っても、九州では口永良部島、桜島が爆発的噴火をしている。気象庁は8日の爆発的噴火で阿蘇山の警戒レベルを5段階の2(火口周辺規制)から3(入山規制)に引き上げ、会見した同庁担当者は「噴煙が1万メートルを超える噴火は非常に珍しい。今後、同程度の噴火が起こる可能性もある」と話した。

 高橋教授は「巨大噴火につながった場合は大変な事態を招きます」と指摘する。

噴煙の高さが1万メートルを超えると、火山灰は大気圏を突き抜けて成層圏まで飛びます。雨にまじって落ちてくることはなくなり、地球全体を覆う“パラソル効果”によって太陽の光を遮り、寒冷化をもたらします。地球全体の気温は2〜5度低くなる。アジアでは中国の北部や北朝鮮、北海道や東北地方で農作物の収穫に影響します。食料自給率の低い日本と韓国は大ピンチです」(高橋教授)

 阿蘇山は昨年9月も噴火しているが、噴煙の高さは2000メートルにすぎなかった。今回の噴煙は成層圏まで届いたとも考えられ、さらなる爆発的噴火が続いた場合は深刻な状況を招きかねない。

30年以内には、きょうも明日も含まれます

 高橋教授は「現時点では阿蘇山は巨大噴火につながらない可能性のほうが高いとみています」と話す。

「ただし、今回の阿蘇山噴火によって、南海トラフ地震がまた1歩近づいたということは言えるでしょう。30年以内に70%の確率で起こると予測されながら、なぜか“30年後は危ないかも”程度にしかとらえていない人が多い。30年以内には、きょうも明日も含まれます。被害を最小限に抑えるため、防災対策を怠らないでください」(高橋教授)

 冒頭で紹介した高橋教授のメールにあるように、九州沖から東海沖にのびる南海トラフに近いエリアで地震が頻発している事実は動かない。

 阿蘇山の爆発的噴火は真夜中だったこともあり、死者やケガ人など目立った人的被害はなかった。高橋教授は言う。

「昨年の噴火や熊本地震で地元住民は十分警戒していた。天災を封じることはできませんが、減災はできるんです」

<プロフィール>
立命館大学歴史都市防災研究所・高橋学教授
1954年、愛知県生まれ。環境考古学(環境史、土地開発史、災害史)が専門。京都大学防災研究所巨大災害センター講師、ロンドン大学考古学研究所客員教授、チリ国環境省客員研究員などを歴任。著書『平野の環境考古学』(古今書院)など多数。災害リスクマネージメント博士