いまや、子どものいる家庭よりも、ペットを飼っている家庭のほうが多くなっている日本。家族の一員であるワンちゃん、ネコちゃんも悲しいことに年をとっていくのが運命。老犬・老猫はどんな病気になる可能性があるのだろうか。

犬や猫にも認知症がある! 原因は〇〇不足

柴犬などの日本犬系は、高齢になるとボケの症状が多発する傾向がある(写真はイメージです)

 犬も猫も高齢になると、ボケの症状がみられることがある。“とくに、柴犬などの日本犬系に多く発症する傾向が。その原因は食にあるともいわれている”と、語る専門家も。

 もともと犬は、日本人の暮らし同様にタンパク質を魚からとっていたが、食の欧米化によって鶏や牛など陸上動物を主とする動物性タンパク質中心のドライフードを食べるようになった。

「その結果、不飽和脂肪酸のDHAやEPAが不足し、認知症になるのではないかと考えられています。実際に認知症の犬とそうでない犬の血液を比べてみると、DHAとEPAの濃度が違うことがわかっています」

 と、獣医師の若山正之先生。DHAとEPAは、ヒトの認知症予防として考えられている成分。これをドッグフードに入れる、サプリメントで与えるなどの予防法が行われている。

がんの最先端医療とは? 選択枝が増えた治療法

 老齢になると、犬も猫もかかる率が増えてくるがん。避妊していないメスがかかりやすい乳腺腫瘍、オスの精巣にできる精巣腫瘍、口の中にできる口腔腫瘍、肛門の周囲にできる肛門周囲腺腫などがある。がんの治療も行っている若山先生に聞くと、

「人間と同様に、犬や猫も皮膚、内臓、血液、骨など、身体のあらゆる部分にがんができます。治療は抗がん剤などの薬物療法、手術や放射線治療などが主になります」

 注目されているのが免疫療法。体内の免疫細胞を増やして免疫力を強化することで、自己の免疫力を高めて、がんを治療する。ただし、全国の限られた病院でしか行われていない。

「当院でも行っていますが、効き目があるがんと、そうでないがん、また個体差によっても違います。1回6万~8万円と高額な治療のため十分説明をしてから行います」

シニア犬・猫が気を付けたい病気と予防法

 元気に長生き! “介護知らず”で暮らすための病気の種類と予防法をマスターしましょう。

■歯の病気

 歯肉炎と歯周病が歯の病気の代表。歯周病は、全身の健康状態に悪影響を及ぼします。口から腐敗臭がする、歯がグラグラする、抜ける、食事に時間がかかる、固いものを食べなくなる、歯ぐきがやせて、歯が長く見えるなどが見られたら歯周病のサイン。

◎予防法:歯ブラシなどのデンタルケアを行い、水を頻繁に飲ませる。若いころから大きめのドライフードを食べさせ、噛む習慣をつけさせることも重要。

■目の病気

 眼球の中のレンズの役割をする水晶体が白濁する白内障などが老齢になると起こりやすくなります。物にぶつかるなど視力低下を感じたら検査へ。

◎予防法:病気そのものの予防は難しいが、早期発見をして失明させないことが大事。

■ホルモンの病気

 身体のさまざまな働きを調節するホルモンを分泌する内分泌腺と呼ばれる組織が老化したり、内分泌腺の働きを制御する器官に不具合が生じることで起こります。

 犬、猫ともに起こるのは甲状腺ホルモンの病気。犬は甲状腺ホルモンが少なくなる甲状腺ホルモン低下症、猫は逆に多くでてしまう甲状腺機能亢進症にかかりやすいとされています。ほかに糖尿病、副腎皮質機能亢進症などが。治療は投薬がメインで糖尿病は食事制限などを行います。

◎予防法:糖尿病は肥満に注意。食事のコントロールと運動がポイント。

高齢になると関節の病気が増える

■関節の病気

犬も猫も高齢になったら関節の病気に注意(写真はイメージです)

 犬も猫も加齢とともに骨はもろくなり、関節の軟骨もすり減ってきます。肥満になることで、関節への負担が増えて障害がでてくることも。

 想像以上に多いのが、関節の病気です。椎間板に異常が起こる椎間板ヘルニア、背骨の変形で痛みが生じる変形性脊椎症、骨密度が減少して骨がもろくなる骨粗しょう症がシニアに多い病気。痛みがでているサインがあれば獣医師の指導に従いましょう。

◎予防法:年だからといって運動を控えず、できるだけ散歩を。

■心臓の病気

 小型犬に多いといわれている、心臓の病気。心臓の左心房と左心室の間にある薄い弁に変形が起こる僧帽弁閉鎖不全症が、とくに多い病気です。咳や呼吸困難が主な症状で、治療は投薬が中心になります。

◎予防法:見た目に症状がなくても心臓に問題があることも。老齢犬では半年に1度、胸部X線、心電図検査などを行う心臓病検診を。

■腎臓の病気

 猫に多い腎臓の病気。老齢になると腎炎や慢性腎不全が増えてきます。腎臓機能が低下すると、ろ過システムが劣化し、老廃物が取り除けなくなっていきます。軽度の場合は、症状が表れにくく検査でしか見つけられません。重症化すると尿毒症を起こし昏睡状態となります。

◎予防法:普段からオシッコの回数や色に注意を払い、定期的に血液や尿の検査を。

■生殖器の病気

 オスもメスも老いてくると性ホルモンのバランスが崩れ、生殖器の病気にかかりやすくなってきます。オスがかかりやすい病気は、前立腺肥大、メスは子宮蓄膿症です。

◎予防法:犬、猫ともに不妊・去勢手術が予防になるが、老齢になってからの手術は慎重に。

愛犬&愛猫の老化のサインをチェック!

「うちの子は大丈夫?」と思ったら、犬は7歳、猫は10歳から、老化のサインが出ていないかチェックしましょう。

■白髪が目立つ

鼻、口、眉あたりから白髪に。全身の毛の退色も老化のひとつ。もともと毛が白い犬は、ツヤやパサつきをチェック。

■呼ばれても反応しない

聴力が衰え、飼い主の声などが聞き取れないことがある。関心の低下から面倒になって応えないことも。

■物にぶつかる

視力が低下すると物にぶつかりやすい。筋力の低下や、脳神経の異常が原因のこともある。

■口が臭い

歯に歯垢がつく、歯ぐきが腫れるなどの歯周病の症状がでてくる。

■抜け毛が増える

換毛期がある犬は、ダラダラと長期にわたり毛が抜ける。新陳代謝が悪くなってきた証拠。

■お尻が小さくなってくる

筋肉が落ちて、お尻が四角い印象に。真上から見ると上半身に比べて、お尻だけが小さく見える。

■体形が変わってくる

新陳代謝が悪くなり肥満になる。逆に栄養の吸収が悪くなり、やせることも。

■息が切れる

散歩中、息が切れたら体力が衰えてきた兆し。安静時の息切れは循環器系の病気の可能性も。

■イボができる

イボは皮膚の老化のしるし。顔、足先を中心にできる。

■触れられるのを嫌がる

気難しくなったのが原因。痛みがある場合も同様の反応を。

■おもらしをする

オシッコがたまる感覚がわからなくなる。排尿をコントロールできなくなる。

■目が白くにごる

瞳孔の奥が白くにごる白内障などの症状がでる。

■フケがでる

皮膚が乾燥してうるおいがなくなってきたため。甲状腺の機能低下のことも。

■あまり遊ばなくなる

好奇心がなくなる、無関心になるなど心の老化のサイン。身体の機能に不調があることも。

■後ろ足だけ歩幅が狭くなる

歩行中、後ろ足だけ歩幅が狭い場合は、腰や後ろ足の老化による異常かも。

■立ったり座ったりに時間がかかる

背骨まわり、股関節、ひざなど関節に痛みがあるかも。関節は老化により異常をきたしやすい。

<プロフィール>
若山正之先生
獣医師。若山動物病院院長(千葉県佐倉市)。酪農学園大学獣医学科卒。小動物診療40年以上。犬と猫の老齢管理に力を入れ、病気や介護方法などをわかりやすく説明することで定評がある。著書に『老犬生活 完全ガイド』(高橋書店)