事故の検証をする捜査員。児童は電柱の辺りにいた
10月下旬から今月にかけて、登下校中の児童の交通事故が相次ぎ、死者が出る痛ましい事故も目立つ。車は便利な道具の反面、ふとしたことで殺人の道具に変わってしまう。子どもたちを護るために何ができるのか? ドライバーが知っておくべきことは? 専門家に話を聞いた―。

最初は寝ているのかと思った。でも、友達が事故に遭って悲しかったです。(目撃した友達は)夜、眠れないって話していました

 登校中の児童が道路に倒れ子どもたちの泣き声やパトカーや救急車のサイレンの音が響く事故後の様子を、小学3年生の男児はそう振り返る。

 今月2日午前7時10分ごろ千葉県八街市の国道で、2トントラックが集団登校中の児童11人の列に突っ込み、児童4人が重軽傷を負った。

 現場は、道幅が狭く交通量の多い交差点付近。車は歩道に寄りすぎてしまい、慌ててハンドルを切ると対向車と衝突しかけたため、さらに逆に切ったところ、児童が歩く歩道へ乗り上げてしまった。

 運転手は19歳の少年。免許を取得し、まだ1年もたっていないという初心者だ。

「助手席の同僚と話をしていて、前方注意がおろそかになったようです」

 と捜査関係者。事故後、学校や八街市教育委員会は、再発防止に乗り出した。

「職員がポイントに立ち、指導を行っています。全体集会などで下校時にも十分注意をするよう指導をしています」

 事故に遭った児童が通う小学校の校長は、そう話す。

 同市教育委員会は、

「10日に関係者で現場診断を行い、それぞれ何ができるのかを確認しました。今後、情報を共有し、具体的な防止策について検討していきます」

 事故の傷痕が癒えない現場では今、朝7時台に警察官6人が、児童や行き交う車に交通安全の注意喚起をしている。

 先月28日には、神奈川県横浜市港南区で、87歳の男性が運転する軽トラックが痛ましい事故を起こした。

事故現場には花が供えられ、訪れる人が絶えない

 停車中の軽自動車に衝突した反動で集団登校中の児童の列に突っ込み……、小学1年生の田代優くん(6)が死亡し、7人が重軽傷を負った。

 現場に居合わせた70代の男性が伝える。

優! 優! って、お母さんが叫んでいてね。お父さんも駆けつけて“優、しっかりしろ!”って呼びかけて……。子ども2人が倒れた軽トラの下敷きになって、近くにいた人が車体を起こして助けていました。

 ケガをした子どもは、毛布にくるまって近くの駐車場に座っていたけど、ひとりの子はゲーゲー吐いてしまってね。本当に気の毒で……。亡くなった子のことを考えると孫と重なって、夜も眠れません」

 容疑者は、事故前日の早朝から丸一昼夜、運転し続けていた疑いがあり「ゴミを捨てようと家を出たが、帰れなくなった」と供述している。

 現在は、横浜地裁に鑑定留置が認められ、認知症かどうか、事故当時の精神状態などを調べている状態。3か月で結論が出るという。

 港南区で登下校の見守り活動をしている80代の男性は、

「私たちがいくら頑張ったって、車が突っ込んできたらどうにもできないよね。こうして毎日、現場で手を合わせているけど、不憫でね」

 と声を震わせる。

 運転中に『ポケモンGO』で遊んでいたばかりに、2人が死傷した事故では、先月31日、徳島地裁が、運転手に対し禁固刑の実刑判決を出した。

 歩行者に落ち度はない。運転手の不注意や身勝手な行為が人の命を一方的に奪う事故が、各地で多発している。

 交通事故に関する総合的な調査研究を行っている『交通事故総合分析センター』の主任研究員・山口朗さんは、

交通事故総合分析センターの山口朗さん

最近の事故はたまたま児童に突っ込んだものですが、誰が被害に遭ってもおかしくないものです。防ぎようがない

 と、暴走する運転者を止める手立てがないと嘆く。

 交通事故総合分析センターの統計によれば、0歳から15歳までの歩行中の交通事故死傷者数は、1995年の2万6557件から2015年には8486件と大幅に減少しているが、それでも多くの子どもが犠牲になっている。

 子どもの事故には『7歳の山』があると山口さんは話す。

歩行中の死傷者でみると、7歳の事故が非常に多い。

 就学前は通園バスや保護者の送迎などがある。しかし小学校では登下校があり、学校から帰った後に友達の家に遊びに行くこともある。ひとりで行動する機会が急に増えることで、小学1年生の事故が一気に増加するんです

 前出の2015年の統計によれば、6歳1057件→7歳1462件→8歳1104件と、事故件数は推移し、7歳をピークに年齢が上がるにつれ山なりに減少する。その理由を山口さんは、

経験を積むことで、注意力や判断力が向上します。でも子どもは、突然走り出すとか、突飛な行動を取ることが多い

八街市の事故現場では、警察や市職員などが現場診断を行っていた

 取材中、ヒヤリとすることがあった。集団下校中の児童が突然、交通量の多い国道に飛び出して何かを拾ったのだ。車が停車し、事なきを得たが、大事故につながりかねない。

 女子児童が「あぶないよ」と注意したが「これが落ちてたからしょうがないじゃん」と手のひらのボルトを見せた。事故の怖さを伝える交通安全指導が重要になってくる。

 山口さんの話に耳を傾ける。

小学校入学前に子どもと一緒に通学路を歩いて危険な場所を教えること。子どもの交通事故の81%は自宅1キロ圏内で起きていますから、危ない場所を一緒に歩いて、ここはなぜ危ないのか、具体的な指導をすることで効果があるはずです。

 学校側は、通学路の危険な場所をマークした地図を保護者に配布するなど工夫はいくらでもできます」

 子どもの人生を奪い、家族を悲しみに突き落とし、加害者も自分の人生を棒に振ってしまう交通事故。運転する側が「通学時間帯の7時台、14時〜18時台は通学路や住宅街では徐行、子どもを見かけたら距離をとるなど当たり前のことをやるだけで事故は確実に減らせる」という。