『週刊朝日』に連載中の、東海林さだおさん(79)のエッセイ『あれも食いたい これも食いたい』は、1987年の新年合併号で始まって以来、今年で丸30年を迎える。連載回数は1400回超。軽妙な語り口のユーモアあふれる文章で、さまざまな食べ物のツボを押さえるエッセイは、老若男女を問わず多くの人々を魅了してきた。

「周りから“やめろ”と言われるまでガンバリます(笑)」と言う東海林さんに話を伺った。

東海林さだおさん

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 それにしても、なぜ食べ物をテーマに選んだのか。

「週刊誌の連載エッセイは何を書いてもいいのが大半で、毎回テーマをどうするか考えるのにいちばん苦しむんです。だからかえってテーマを絞ったほうが書きやすいと思って。週刊誌は3、4年で連載が終わるのが普通だから、食べ物なら3年分ぐらい大丈夫だろうと。始めたら、もう食べ物図鑑の索引が全部入るほど取り上げて、ほぼテーマは尽きてます

 と笑う東海林さん。

 とはいえ、ほかの作品でも食べ物を取り上げ、もとから料理好きというだけあって、現在も食をおもしろおかしく語り続けている。

「ひとつのテーマでも、角度を変えると全然違う話になるんです。天丼なら丼物としての魅力や、衣の“カラッと系”“しなっと系”についてとか。僕はしなっと系のほうが好きですね。ラーメンはもう10回ぐらい取り上げてます。毎週月曜が締め切りで、夕方に原稿を渡したらすぐに次のテーマを検討して火曜にはこれをこういう角度で書こうと決める。話がダブらないようにこれまでの記事のスクラップを調べるんですが、すでにそのとおりに書いていたなんてことも、しょっちゅうありますよ(笑)

 これぞ、長期連載を掛け持ちしている東海林さんらしいお悩みかも!? 新聞連載していた4コママンガでは、1から4まですべてのコマをまったく同じ展開で掲載してしまったこともあったとか。

小学4、5年生の女の子が、そのマンガが好きでスクラップしていて投書で教えてくれたんです。新聞の担当者も何代も代わっているし、気づかなかった。1万3000回を超えた連載だったから、そういうことが3回ほどありましたね

 食のテーマ探しのために、いつもアンテナを張って情報をチェックして、目新しい商品やブームの食材も取り上げる。

「いまで言えばパクチーとか。すぐにブームが去ってしまうようなものは困るけど、流行ものは救いです。取り上げるときは必ず自分で食べますが、作る現場も見ないし、店の人の話なども聞きません。普通の読者はそういう話題に全然興味がないんですよ。やっぱり現物の話がいちばん

 一般の人にあまり縁がなさそうな高級食材も、「味を知らずに読んでもつまらないでしょう」と取り上げない。東海林さん自身も食指が動かないそうで、誰もが親しみのある食べ物にいつも熱い視線を送っている。

本物の職人みたいに見事な手さばき

 プライベートでは、昼と夜の1日2食で、嫌いな食べ物は一切なし。ただ、この30年間に好みは変わって、以前は肉を中心にこってり系が好きだったが、年齢とともにあっさりしたものを好むように。ぬか漬けや塩辛に目がないそうだ。

最近はお酒が飲めなくなって、甘いものに目覚めつつあります。なかでも、あずきが好きで羊かんやもなか、鯛焼き、あずきアイスもいいですね。あとアイスキャンディーの『ガリガリ君』はおいしいですよ。エッセイでもコーンスープ味を取り上げました」

 近ごろは、料理は電子レンジを活用して簡単にすませることも増えたが、10年ほど前までは寿司をにぎるのが趣味だったとか!?

「寿司屋で教えてもらったり、職人向けの教科書をボロボロになるまで読み込んで覚えたんです。合羽橋で買ったガラス製の小さなショーケースと前日に下ごしらえしたネタを持って、あちらこちらに出かけて寿司パーティーを開きました。もちろん白衣と帽子もそろえ、寿司職人の格好で行きます」

 寿司をにぎる仕草を少し見せてもらったが、本物の職人みたいに見事な手さばき! 東海林さんは趣味にも仕事にも全力投球なのだ。

長期連載の掛け持ちは遅刻ゼロの努力の証?

『シウマイの丸かじり』(朝日新聞社刊)。あるデパートの駅弁大会。牛肉弁当の到着を待っていたが、なぜか手にしてしまったのはシウマイ弁当で……。丸かじりシリーズとしては39冊目

 現在、マンガとエッセイを合わせた連載数は、週刊誌3本と月刊誌1本

 この中で、もっとも連載期間が短いのが『あれも食いたい これも食いたい』だが、それでも30年続いている

 東海林さんほど長期連載を多く持つ作家は、ほかにいないのでは?

やめてくれって言われないから、続けてるんです仕事は毎日11時ごろから始めて19時ぐらいに終わる。サラリーマンと同じで、ほぼ決まった時間で働いてます。残業はなし。締め切りに遅れたことは1度もないです。誰にも表彰してもらったことはないけど(笑)。焦るのがイヤなんですよ。時間が迫ってきて慌てて書くことになって、編集者が半狂乱で待っているなんて場面は避けたい。仕事は楽しくやりたいですから、そのための努力です。好きで始めた商売ですから、つらいことはないですね。食べ物のことを書いていても楽しいですよ」

 そんな楽しさが、そのまま読者に伝わってくるからこそのロングセラーだ。

多少早い、遅いはあっても、誰だって年がいくにしたがっておじいさん、おばあさんになって才能が枯れてくる(笑)。いずれ“もうやめてくれ”と言われるまで頑張りますよ

<Profile>
しょうじ・さだお マンガ家、エッセイスト。1967年に『新漫画文学全集』で連載デビュー。1974~2014年にかけて毎日新聞朝刊に描いた4コママンガ『アサッテ君』は、一般全国紙の最多掲載記録となった。ほかに『週刊文春』の『タンマ君』、『週刊現代』の『サラリーマン専科』など長期連載を複数抱える。紫綬褒章、旭日小綬章受章。