「これまでいろいろなドラマや映画に出させていただきましたが、朝ドラは半年間という時間を使って、子どもから大人になり親になり、という時間をたどるドラマだから大変な仕事だと思います」
キアリス4人組のひとり、良子(百田夏菜子)の夫・小澤勝二を演じている田中要次(53)。朝ドラへの出演は『ゲゲゲの女房』『あまちゃん』など6作目。レギュラーでは『純と愛』でホテル“里や”の板前・藍田忍を演じて以来の2作目となる。
今回の『べっぴんさん』では、家庭と仕事の両方で良子を支え、厳しい父親として龍一(森永悠希)を育ててきた。
「息子の森永くんは龍ちゃんとして3代目ですけど、それまでの子役さんのやんちゃな感じを引き継ぎながら出してくれているので、僕も自然に接することができています」
先週放送(第20週)で、龍ちゃんは世界を旅したいと言い出し、最初は猛反対していたけど最終的に良子と勝二も彼の夢を認めて送り出したけど?
「あの時代の親ならやっぱり反対するでしょうね。今となっては夢を持ってどこへ行こうが止められないけど、僕もサラリーマンから映画の世界に行くと言ったとき、親は泣くわキレるわ、物を投げるわという反応でしたから(笑)」
そう語る田中自身も、異色の経歴の持ち主。高校を卒業後、国鉄そしてJR東海の職員として働いていた田中が、8年間在籍した職場を離れ俳優を志したのは'90年のこと。
やっぱり龍ちゃんのような“夢”にあふれていた?
「そんな夢といえるほど、強気なものじゃなかった気がします。最後のひと勝負というか、賭けというか……。そうするしか自分の心の救いがないというかね。これでダメならしょうがないや、という気持ちのほうが強かったですね」
役者だけでは食べていけず、初めは腰かけのつもりで裏方の照明の仕事をしていた。そんな生活が3年──。
「役者として遠回りしている気もしていたけど、ひとつの作品で40〜50人と知り合いになれ、撮影現場にはこれから監督になる人もいました。いろいろな部署の人間に自分が役者志望だと知ってもらえたし、普通の役者と違って同僚意識みたいな感じで見てもらえたのは大きかったかもしれません。いろいろ特殊だったと思いますよ。サラリーマン上がりだわ、スタッフもやっているわ、顔も特徴的だわみたいな(笑)」
さまざまな作品にバイプレーヤーとして参加してきた田中に、ついに転機が訪れる。2001年に放送され、平均視聴率34%を超えたキムタク主演のドラマ『HERO』だ。“あるよ!”の決めゼリフのバーテンダーを演じ、一気に注目されるようになったのだ。
「僕のイメージは、あのキャラなんでしょうね。無口そうで取っつきにくくて。意外と近づきにくいと思われているみたいですね。寡黙なイメージを持たれているみたい。でも、実際話すと……(笑)。そのギャップで安心してもらえるのか、がっかりされるのかはわかりませんけど」
『べっぴんさん』の共演者で、そんな素顔を知る人は?
「撮影後に飲みに行ったりするのは、ほとんど平岡(裕太)くんとばかり。年齢で20歳くらい違うんですけど、僕は同期の気分でいます(笑)。平岡くんは若いのに博学でいろいろなことを知っていて、本番中はキリッとしているけど、オフのときは愛すべきイジられキャラで(笑)。
飲んでいるときの話題は、演技論というより愚痴かな。結局、飲んでいるとそうなっちゃうじゃないですか。『べっぴんさん』で男たちが作った男会“タノシカ”も、会社の女子に対してのそういう空間だし。平岡くんとは“リアル”タノシカですね」
若手俳優の相談に乗ることも?
「(高良)健吾くんに“酔っ払いの芝居ってどうされてます?”と聞かれたことがありまして。彼は経験値が高いし、僕に聞くまでもないと思ったんですけど(笑)、“顔なり言葉なり、力を抜くこと”的なことを話したのですが……。
“ほほぉ”という感じで聞いてくれたのは覚えていますが、そんなことを聞きたかったわけじゃなかったのかな(苦笑)。聞いてもらえたのはうれしかったんですけど、ちゃんと答えられていたかが、あとになって不安になってしまいました」
ドラマや映画を合わせると、出演300本超えの経歴を持つ。これからの“いぶし銀”の活躍が期待されるけど?
「本数が多いだけですよ(笑)。年齢も見た目、僕は60歳くらいかもしれないけど、中身は20〜30代ですから(笑)」