佐藤みゆき 撮影/森田晃博

『真白の恋』が“泣ける”と、ツイッターなどネットを中心に話題になっている。軽度の知的障がいをもつ女の子・真白(ましろ)の初恋を描く映画で、舞台となった富山県で2月11日(土)から先行公開されているが、「号泣した」「まさか3回目でも泣くとは思わなかった」など、早くもリピーターが出現。2月25日(土)から渋谷アップリンクで、その他各地でも順次公開が始まり、これからこの熱気は全国に広まっていきそうだ。

 真白を演じた佐藤みゆきは、これまで舞台を中心にキャリアを積んできた女優。澄んだ白い肌とまっすぐな瞳がまさに「真白」のイメージと重なる女性だ。この作品が映画初主演となる佐藤に話を聞いた。

「自分が所属する劇団(こゆび侍)で年に2、3本、ほとんど主演かヒロインでずっとやってきていました。でも映像での主演は初めてだったので。準備はたくさんしなくちゃいけないし、緊張するなと思っていました」

 プレッシャーは大きかったようだが、一方で、

「富山は日本で一番行きたい県だったんです。お水がおいしくて、お酒がおいしくて、お魚がおいしくて、日本海で、雪なんでしょう⁉︎ 行きたい! って。ずっと言ってたらかなうかなと思っていたら、かないました(笑)」

 日本のベニスともたたえられる富山県射水(いみず)市は、雄大な立山連峰をのぞむ静かな港町。映画に映し出される美しい風景に心が癒される。

 佐藤が演じる真白は軽度の知的障がい者だが、一見普通の女の子と変わらないという難しい役どころ。佐藤は撮影前に障がい者施設を訪問し、ふれあう経験を通じて役作りを深めていった。演じる上で心がけたことは、

単純にものごとを理解するよう心がけるとか、なるべく素直に、身体と心に力を入れずに。あごをテーブルにのせて自転車屋で店番してるシーンって、ほんとにどこにも力が入っていないんですけど、ああいう状態ですね。あったかいな、いい天気だな、この石はなぜ丸いんだ? みたいな、目に映るものに素直に従いました

 子どもの心のまま成長した真白という女性が、佐藤の身体を通じて生き生きと画面を動き回る。ブサカワな笑顔や泣き顔など、くるくる変わる表情にも心をつかまれる。

「いわゆる知的障がいがないってされている大人だったら、誰かにこう見られたいとか、こうあらねばならないという状態で過ごすと思うんです。でも彼女は誰かに気を使って服を選んでいるわけじゃなくて、好きなものを好きなように着ていて。こだわりがあって、それは好きだからしている。で、働いているわけでもないってなったときに、すごく楽な状態で過ごしている人なんじゃないかなと思いました」

 しかし、ただ純粋なだけではない。真白はいたずらもするし、サボるし、いじわるも言うし、人を小馬鹿にもする。

きれいに演じないようには心がけました。脚本の北川(亜矢子)さんが、“いわゆる障がい者ってこういうこと、みたいな映画って、すごくきれいに、天使みたいにきれいに描くけど、そうじゃない。すごく人間らしい”って。人間臭さは丁寧に台本にも書かれてますし。だからキュートとか、チャーミング、ユニークっていうふうには映りたいけど、つるんつるんでピカピカで美しいものにはならないようにしました」

佐藤みゆき 撮影/森田晃博

不器用な真白の初恋に胸キュン!

 真白は東京からやってきたカメラマンの油井景一(福地祐介)に偶然出会い、恋に落ちる。甘酸っぱく不器用な初恋模様が、あたたかく描かれ、胸がキュンとするシーンがたくさん。

 現場では佐藤をはじめ、相手役の福地、監督の坂本欣弘、脚本の北川が、男女双方の立場から意見交換しながら、納得のいくリアルなシーンに整えていったのだという。特に美しい富山の海を前に、カメラを構えた真白と油井の手が重なり合うシーンは、ドキドキが止まらない! 佐藤自身が一番キュンとする場面を聞くと、

「私は自転車の二人乗りの、微妙な距離の詰め方です。最初から(油井に)つかまれよって言われているのに真白さんはつかまらない。つかまっちゃったけど、つかみすぎな気がするとか。すごい真白さんっぽい。あのときはまだ恋までは発展してないと思うんですけど、完全に男の人と認識しているから。“ちょいドキ”がいいですね(笑)」

 初めて恋をしたことで自分の障がいに悩み、「普通になりたい」と苦しむ真白の姿は共感と感動を呼ぶ。『真白の恋』は、「なら国際映画祭2016」のインターナショナルコンペティション部門で約1700作品の中から観客賞を受賞。その後も「福井映画祭11th」で長編部門のグランプリを受賞するなど、多くの映画祭で賞を受け評価されている。

映画祭では『真白の恋』を見た方がたくさんいらっしゃって。私が真白だとすぐわかったみたいで、泣いて握手を求めてくる方や、“思い出すと泣いちゃうんです”っておっしゃってくれる方もいました。こんな喜んでもらえたことってあるのかしらって、すごくびっくりしました」

 撮影は大変だったが、佐藤自身に返ってくるものも大きかったという。

「今までお世話になった人全員にお知らせしたい! 出会った人全員に見てほしいと思ってるんです。一番最初に試写を見たときは、自分のお芝居のアラが目についてしまって客観的に見れなかったんです。十何回も見て、撮影から2年もたった今、私の中では真白さんは真白さんになりました。とっても共感できる知り合いみたいな感じで、普通にかわいらしいなって思えるんですね

佐藤みゆき 撮影/森田晃博

 最近はCMやドラマなど、映像の世界でも活躍を広げている佐藤。また、ロバート・秋山竜次がさまざまなクリエイターになりきってインタビューを受けるYouTube動画『クリエイターズ・ファイル』の「天才子役・上杉みちくん」編に出演して注目を集めた。『真白の恋』でさらに女優としてステップアップした彼女の、今後の活躍が期待される。

「この役もこの映画に関わることも夢にも思っていなかったです。私が持っている才能があるとすれば、いろいろな作品ですとか、いろんな人に出会える才能があるってだけは自負していて。私が想像できないようなことも何でもやってみたいなと思うので、これからもたくさん出会えるといいなと。『真白の恋』をいろいろな方に見てほしいですね」

〈プロフィール〉
佐藤みゆき◎1984年生まれ。福島県出身。学生時代に知り合ったメンバーと劇団「こゆび侍」にて活動。上京後、学校栄養士の職に就くが、女優業を選択し3年で退職。本格始動から多くの観客の支持を得て、近年では大きな劇場での活躍も目覚ましい。テレビ出演作に、ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』、NHK連続テレビ小説『花子とアン』など。

(取材・文/小新井知子 撮影/森田晃博)