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 身体が冷えていつまでも寝つけない。目覚めたらまだ夜明け前。寝不足の日って無性にお腹がすく。日中もついウトウト……。心当たり、ありませんか? 睡眠は心身の健康を保つ要。

「子どもからお年寄りまで男女問わず、睡眠の悩みを抱える人がどんどん増えてきていると感じます。来院者数は増加傾向にあり、最近は小学生の患者さんを診察することもしばしばです」

『スリープクリニック銀座』の院長で睡眠障害に詳しい渋井佳代先生は、診察に訪れる患者を振り返り、不眠などの睡眠ストレスが“国民病”と実感している。

「実際、日本人の睡眠時間は年ごとに減っています」

 と渋井先生が言うとおり、厚生労働省の『国民健康・栄養調査(2015年)』によると、20歳以上の日本人のうち、睡眠時間が「6時間未満」の人の割合は39・5%。調査開始以降、最多となった。

 実は、日本は世界きっての“眠らない国”でもある。OECD(経済協力開発機構)が’14 年に発表したデータによると、15〜64歳の日本国民の平均睡眠時間は7時間43分。7時間41分の韓国に次いでワースト2位。女性に限っていえば、なんとワースト1位の7時間36分。もっとも長い中国の9時間4分に比べて、1時間半近くもの差があった!(詳しくは下のグラフ参照)

※OECDの調査結果をもとに『週刊女性』作成(日本以外の国は女性の睡眠時間)

不眠が続くと生きていられない

 しかし、言うまでもなく睡眠は健康の要。1日の活動で疲れた身体を休息させ、必要なメンテナンスを行い、さらに翌日の活動に必要な力を準備するという大切な役割がある。

「睡眠には2種類あります。ひとつは“レム睡眠”という浅い眠りで主に身体を休息させるタイプ。もうひとつは“ノンレム睡眠”という深い眠りで主に脳を休息させます。睡眠の前半でノンレム睡眠がしっかりと現れたあと、レム睡眠とノンレム睡眠が交互に現れる眠りが質のよい眠りです」(渋井先生)

眠りにつくと、まず長くて深いノンレム睡眠が現れ、続いて約60~120分ほどで浅いレム睡眠が生じる。その後はレム睡眠とノンレム睡眠が1組となり、約90~120分の周期で4~6回繰り返され、目覚めに至る

 質のよい眠りが十分にとれれば身体は元気になり、脳の機能も高まる。反対に、睡眠をおろそかにすれば、最悪、死に至ることも。

 東洋羽毛工業株式会社の睡眠健康指導士・金子勝明さんによると、

「世界記録では、最長11日間強、眠らずにいた英国の少年がいますが、途中から幻覚症状や指先の震えが出て、まともに話もできなくなったとか。人は無理やり眠らせずにおくと、最後には死んでしまいます」

脳が緊張すると寝つけなくなる

 それほどまでに重要な睡眠をいちばん削っているのは、40~50代の女性だ。NHKが行った『国民生活時間調査(’15 )』では、平日の平均睡眠時間は50代女性が最短で6時間31分、次いで40代女性が6時間41分という結果になった。

「クリニックにも、この年代の女性が不眠を訴えて訪れる率は高いです。例えば、高校生くらいの子を持つ女性って、意外と大変なんですよね。朝早くからお弁当作りで、土日も部活の試合があったりして早起きしなきゃならなかったり。夫も働き盛りだから夜遅く、それに付き合うのもひと苦労。仕事をしていたり、介護などの問題も抱えていたらもう、ゆっくり眠る時間などありません」(渋井先生、以下同)

 こなすタスクが多く、ストレスも大きくなりがち。

ストレスによって脳が過緊張状態になると、眠りたくても寝つけなくなります。“明日も早起きなのにこんな時間だ”“仕事があるのにどうしよう”と思えば思うほど、緊張が高まり、リラックスの延長にある眠りとは真逆の方向に」

 さらにこの季節、女性に多い冷えも「足が冷たくて寝つけない」「トイレが近くなり夜中に何度も目覚めてしまう」などと睡眠ストレスの原因になる。

 渋井先生のもとを訪れる患者の中には、睡眠ストレスを自覚して診察に来るケースもあれば、職場などでつい居眠りをしてしまうことが続き、上司から受診をすすめられて訪れるケースもあるという。

女性ホルモンも睡眠を乱す要因

 40~50代の女性に睡眠ストレスが多いのは外的な環境のせいだけではない。女性の身体特有のメカニズムも関係する。大きな要因となっているのが、女性ホルモンの影響だ。

「女性は10代から一生を通して、男性よりも睡眠ストレスを抱えがちです。まず思春期に、女性ホルモンの分泌が急激に高まって月経が始まる。さらに妊娠・出産・授乳を経験しながら、女性ホルモンの激しい変動にさらされる。睡眠もその影響を受け、リズムが乱れたり熟睡することが難しくなったりするのです」

 さらに40代以降になると、閉経に向かって女性ホルモンの分泌リズムが変調をきたし、いわゆる更年期障害が生じる。

「自律神経が乱れ、火照りなどの症状が生じるので、この時期から“なかなか寝つけない(入眠障害)”“夜中に目が覚める(中途覚醒)”“必要な睡眠時間がとれず日中眠い(睡眠不足症候群)”ほか、さらに症状が出てくることも少なくありません」

 また、自律神経の乱れは身体だけでなく、心にも影響を与えるため、

「“不安感や焦燥感から眠れなくなった”という女性も多いですね」

基礎体温が下がる月経後に早く寝る

 月経のリズムはホルモン量だけでなく、基礎体温をも変動させる。基礎体温を計った経験のある人ならおわかりだろうが、月経後の排卵の準備期間である「卵胞期」には基礎体温は下がり、排卵後の「黄体期」には上がる。

 リハビリテーションの専門職である作業療法士として、患者に睡眠指導も行う菅原洋平さんは、

「睡眠には、体温が下がったときに深い眠りが得られるというメカニズムがあります。女性は黄体期、つまり月の半分は基礎体温が高く、深く眠りにくいということになりますね」

 菅原さんによれば、人の身体はいい状態のときによりよい状態にもっていくと、悪い状態のときの症状が軽くなるという。

月経後、基礎体温が低めで深い眠りが得やすいときにこそ、たっぷり眠っておく。元気なときって、つい無理しがちですが、そういうときほど早く寝ることで、月経前のつらさが軽減されます」

 現代女性は、家庭でも社会でも求められる役割が多い。まじめで頑張り屋の女性ほど、睡眠時間を削ってまでこなそうとするが、それで健康を害しては元も子もない。まずは自分の睡眠の質を確かめ、“ダメ睡眠”がもたらす弊害を知ることから。下のチェックリストで自分の抱える睡眠ストレスを把握して、良質で快適な睡眠に向けての一歩を踏み出そう!

思わぬ不眠症状がみつかるかも? “睡眠ストレス”セルフチェック

よくある:3点 ときどきある:2点 たまにある:1点 ほとんどない:0点

●床についてから寝るまでに30分以上かかる
●夜中、何度も目が覚める
●予定時刻より早く目覚め、2度寝ができない
●朝、目覚まし音に気がつかず寝過ごしてしまう
●ランチの後は、眠くてたまらない
●デスクワークや人との会話中、思わぬ居眠りで注意された
●日中、作業や家事をしていても一瞬、意識が飛ぶ
●イライラや不安感、疲労感、無気力感に襲われる
●日常生活で小さなミスや物忘れが発生しがち
●電車などでは、座った途端に寝る
●休日には昼過ぎまで寝ている
●睡眠時間や睡眠の質に不満を感じている

合計点数が
0~4点:心配なし。グッドスリーパーの素質十分◎
5~9点:黄色信号。気を抜かず生活リズムを整えて
10~24点:睡眠障害の疑いアリ。改善点を早めにみつけよう
25~36点:アウト! 1度、病院で診察を

※渋井先生への取材をもとに『週刊女性』が作成

 

〈プロフィール〉
渋井佳代先生◎スリープクリニック銀座院長。睡眠医療認定医。信州大学医学部卒業後、国立精神・神経センター国府台病院精神科睡眠外来などを経て現職。特に女性の睡眠障害に詳しい

菅原洋平さん◎作業療法士。ユークロニア株式会社代表。民間病院精神科を経て国立病院機構で脳のリハビリテーションに従事。脳の回復には睡眠が重要であることに着目し臨床実践

金子勝明さん◎睡眠健康指導士、睡眠環境・寝具指導士。東洋羽毛工業株式会社で営業企画や分析のみならず、眠りの研究を続け、睡眠講座の講師として全国を行脚