中学受験といえば、ハイソな家庭だけが挑戦する別世界のイメージ。それをいい意味で覆し、感動を呼んでいるのがこのドラマ『下剋上受験』だ。中卒の父親が一念発起して娘と超一流中学を目指し猛勉強。二人三脚の受験勉強で、人生の“下剋上”を狙うという感動ストーリーに、涙するシーンも多いのだが……。

桜井信一さんの実話をドラマ化。現在放送中のドラマ『下剋上受験』(TBS系・金曜夜10時放送)では、阿部サダヲと深田恭子が桜井さん夫婦を演じている(c)TBS

 現実の受験は本当にドラマのような感動を家族に与えてくれるのか? “リアル下剋上受験”の主人公であり、ドラマの原作者でもある桜井信一さんに、中学受験に挑んだきっかけから受験のメリット、そして受験を終えた今をインタビューした!

娘の人生を変えるため、中学受験が必要だった 

 まず、中学受験のきっかけとなったのは“無料”ということで軽い気持ちで受けた『全国統一小学生テスト』(四谷大塚が開催。全国で約12万人が受けるとも)。娘のさんざんな結果が、親としての不安感をあおったという。

「それまでは、地元のマジメな高校へ行ってくれればいいやと思っていました。じゃあ、その“マジメな高校”へ行ったとして、どんな大学に行けるのかなと。初めて具体的に“未来”を考えてみたら難関と呼ばれる大学に届く確率はすごく低かった。そこで、このままじゃマズイぞと。どうしたら難関大学へ行ける確率が高くなるのかと調べていくうちに、中学受験という選択肢、さらにその最難関の桜蔭中学(東大に毎年50~80人合格者を出している超名門の中高一貫校)を目指すことにたどり着きました

 自身、そして自身の親も中卒だという環境も中学受験へ思いを寄せた要因のひとつになっていた。

「ハッキリ言うと、娘の人生を変えたかった。お金に困らない充実した人生へ。こう言うと、スポーツや芸術など、ほかのジャンルでもいいじゃないかと言われるけど、努力で人生を変えられる確率が最も高いのが勉強じゃないかと」

エリート中学の入り口は思ったより間口が広い!

 とはいえ、難関中学への受験はそう簡単ではないはず! なぜ、無謀ともいえるチャレンジを行動に移せたのか。

「中学受験は選ばれた神童みたいな子しか受けないとか、みなさん、中学受験の間違ったイメージを持っていませんか? 実は、中高一貫のエリート校の間口は意外と広いんですよ」

 例えば、東京の女子御三家と呼ばれる桜蔭・女子学院・雙葉中学校合格者数は、3校合わせて約600人。同日に試験があるうえ、通学圏内の女子しか受けないのだから、そもそも受験できる人数が限られる。さらに、内申書などが加味されない入試一発勝負であることも、中学受験の大きなメリットだ。

「地頭のよいエリートタイプの子が合格席のほとんどを埋めるかもしれませんが、約2割は自由席だと思っています。当日まで努力した子が入れる場所があると感じました。それに、高校、大学受験のころには、受験勉強の範囲が広く、勉強の巻き返しがかなり難しいと思いますが、中学受験は小学校の基礎をしっかり学ぶだけですから」

 ここまで説明を受けていると、なんだかうちの子もイケるんじゃ? と妄想したくなる。が、やはり、そうは問屋がおろさない。

「受験勉強中は、娘のあまりのできなさに、毎日やめたいと思っていました。“もう無理だ!”と言い放って、コンビニまで家出したこともありましたね(笑)。娘が追いかけてきて、“お父さんやろうよ”って。父娘ともに人生を諦めるものかと必死でした」

 平日は7時間以上、土日祝日は13時間以上、机に向かい父娘ともにペンだこを作りながら続けた勉強漬けの日々。「中学受験で人生が変わる」ことを娘に記した自作の“人生表”が、父娘の原動力となった(書き方は次ページ参照)。

自信に満ちた娘の顔が、親としての誇りです

 受験日、娘がすがすがしい顔で言った「けっこう楽しかったね」のひと言で、やっと選んだ道が間違ってなかったと思えた。

目標までの道のりが一目でわかる「人生表」

 残念ながら、第一志望の桜蔭中学には届かなかったものの、今、娘は都内の難関校と呼ばれる中高一貫校へ進学し現在は、高校に在籍、毎日楽しく学んでいる。

 なかには“場違いな”エリート校への入学は子どもにとって負担だという意見もある。でも、桜井さんは笑い飛ばす。

むしろ、進学先の中学では親同士にも同じ門をくぐってきたという互いの尊重を感じました。ひとつのことを必死に頑張った娘も、自信にあふれた表情で学校生活を送っています。そんな娘に、親も刺激を受ける毎日。受験がきっかけで家の雰囲気がこんなに晴れやかに変わるとは……。今では、この生活の変化こそ、下剋上受験のいちばんの恩恵かなと思えています」

 

桜井流「人生表」の書き方
POINT
・シンプルに
・現実的に(いつまでに、何をすべきか)
・あわせて短期の人生表(計画表)を作る

「コツコツ歩む大切さが伝わります」
桜井さんが受験勉強中に用意したのは、“人生表”。それには、2つの狙いがあった。「1つは、人生の目標にどんな道でたどり着くことができるかを明確にすること。通過点である中学受験の重要性がより理解できます。2つ目は、人生はまとめて頑張ることはできず、地道に積み上げていくことが大切だ、ということを感じ取ってもらうことです」(桜井さん)。子どもに渡すときは、書いた意図をきちんと説明すること。また、受験用に短期の計画表も作るのも◎。

<プロフィール>
桜井信一さん◎1968年生まれ。中卒の両親をもち、自らも中卒。娘と二人三脚で難関中学を目指した著書『下剋上受験』(産経新聞出版刊)は、中学受験の常識を打ち破り話題に。現在、「マイナビ」の家庭教師派遣サービス「下剋上コース」の監修や講演活動も行う。