亡くなったリンちゃんの遺体が発見された現場には花やお菓子などが供えられていた。釣りに来た男性が遺体を発見した

「人見知りを全然せず、人懐っこいかわいい子でした。病院の待合室で待っているとき“私、リンていうの、あなたはなあに?”って話しかけられました」(30代の近隣女性)

 覚えたての日本語で話しかけたり、お手紙を書いたりすることが大好きだったというベトナム国籍のレェ・ティ・ニャット・リンちゃん(9)。

 千葉県我孫子市北新田の排水路わきの草むらで3月26日、遺体で発見された。自宅から約12キロ離れた場所。衣服は身につけていなかった。

綿密な準備

 3月24日午前8時ごろ、徒歩で約10分の小学校へ登校するため自宅を出た。自宅近くの防犯カメラにその姿が残されていたが、通学路の中間地点(自宅から約600メートル)で児童の安全を見守っているボランティアは、24日の朝に限ってリンちゃんの姿を見ていない。

 犯罪心理学者で東京未来大学こども心理学部長の出口保行教授は、

「子どもの連れ去り犯行の多くは午後3時から4時ごろに多いのですが、今回は朝ですよね。朝というのは珍しい。それだけ犯人が、朝の時間帯がやりやすいと綿密に準備していることがうかがえます」

 と計画性の高さを指摘する。

 通学路の途中には梨畑があり、高いネットでおおわれている。見通しは悪い。

 保護者が、学校に提出した通学路地図では、その梨畑の横を通ることになっているが、地元の人は、別の道を通り通学しているリンちゃんの姿を目撃している。

「梨畑のほうを通ったってテレビで報道されたけど、あんなところは通らないよ。いつもうちの前を通っていたから。会うといつも元気にあいさつするいい子だったんだけどね」

 と近所の住民。別の住民も、

「梨畑のほうは通ってないと思いますよ。あっちは遠回りになるし、朝は車がよく通るから危ないんだ」

 と前置きし、続ける。

「いつもひとりぼっちで歩いていたけどね。リンちゃんが住んでいるところは、(一緒に通う)小さい子がいないから、結局ひとりで登校するんだよ。登校時間も遅めだったね。ほかの子は、7時半ぐらいに歩いているのを見かけるから」

亡くなったリンちゃん(両親の知人のTwittreより)

 リンちゃんの家族は、2015年12月に、神奈川県川崎市から引っ越してきた。父親と母親、弟の4人家族。

「週2回、日常生活に支障がある外国籍の子に対して、日本語を教える場を設けていました。一生懸命、取り組んで、覚えた日本語で友人や教師に手紙を書いていました。学校の係の活動も熱心にしていて、明るくて本当にいい子だったと聞いています」

 市教委は、リンちゃんの学校での様子をそう伝える。

 人懐っこい様子は、近所でも目撃されていた。自宅近くに住む上級生は、

「去年の夏、友達と遊ぶ準備をしていたんです、そしたらリンちゃんが来て“何やっているの”って言ったので、“水風船の準備をしているんだよ。一緒に遊ぶ?”って誘って遊んだんです。すぐに打ち解けて、楽しそうにしてました。明るくっていい子だったのに、言葉もないです……」

 と悲しげに話した。

 同年代の孫がいるという70代の女性は、

「いつも元気に登校して、かわいい子でしたね。よくお母さんと一緒で……、お母さんもきれいな人でねぇ。無抵抗な小さな子どもを攻撃するなんて、許せない」

 と声を震わせる。

不審者の目撃情報が多い

 前出・出口教授に犯人像を尋ねた。

「子どもの連れ去りなどの犯罪の目的の7割は、わいせつ目的です。犯人は、社会に適応できない、自分の能力・容姿に自信がない人間です。気持ち悪いといわれるかもしれないなどと考え、同世代の女性には声をかけることができない。だからこそ絶対的な支配下に置ける子どもに性的なはけ口を求めるんです」

 さらに犯罪者の特徴として、「小心者であるからこそ、慎重に入念に下調べを行い計画を立てます」と出口教授。

 その見立てを裏づけるかのように、この一帯には不審者の目撃情報が多い。

「通学路に車を止めて、小学生をじっと見ている男がいたみたいです」「今年の2月に先輩がシルバーの軽自動車に後をつけ回されたみたいです」「数年前、小学生が車で追いかけ回されて、次の日に刃物で同じ子が脅されたって話を聞きました」「去年の夏ごろ、女子高生が車に連れ込まれそうになったと聞きました。ほかにも陰部を露出した男に女性が襲われたこともあったみたいです」

通学路周辺は梨畑と木で見通しが悪く、民家もまばらで人の目が届きにくい場所も

 伝聞によるこれらの情報の信憑性は確認できないが、つい2週間前の出来事を70代の女性が証言する。

「女の子が“おばあちゃん助けて”って、うちに飛び込んできたことがありました。なんでも変な人に会ったようで。家の近くまで送り届けましたけど、不気味ですよね」

 学校付近には《不審者注意!!すぐに110番》という注意書きのボードが貼られているが、地域の警戒の目を犯人はかいくぐり、彼女を連れ去った。

 遺体が発見された翌日、3月27日には、ランドセルが発見された。遺体発見現場から約20キロ離れた、茨城県坂東市の河川敷。

 地元のタクシー運転手は、

「よっぽど土地勘がなければ、来られない場所ですよ。ナビもあるけど、車で入れる河川敷かどうかはわからないしね」

 車で長い距離を移動すれば、よほど裏道などを知らない限り、監視カメラに映る可能性が高くなる。

お別れ会で父親は……

 遺体遺棄現場とランドセルを捨てた現場から、犯人のどのような心理が読み取れるのか。再び前出・出口教授。

「抵抗されて殺害。その後よく知っている場所に遺体を遺棄したという印象を受けます。ランドセルなどを捨てたのは、捜査のかく乱を狙ったのでしょう。(事前の準備は入念だが、その後は)雑で、行き当たりばったりな感じが否めない」

 3月31日、雨降る中、リンちゃんのお別れ会が、千葉県松戸市の斎場で営まれ、同級生ら約500人が別れを惜しんだ。

 憔悴しきった父親は「リンちゃんのためにありがとうございます」と声を振り絞った。

 行方不明になった3月24日は、終業式だった。日本語を覚えながら、小学3年の課程を無事修了し、4月からは4年生に進級する予定だった。小学生が学ぶ「第1外国語」として日本語教育が導入されているベトナム。その国の少女が、日本で命を落とした。新学期を迎える教室に、リンちゃんの姿は……ない。