写真:リンちゃんの所持品が発見された河川敷

 殺人事件の犯人逮捕には「まさかあの人が……」という衝撃がつきものだが、今回の逮捕劇では、「まさか」を通り越した別次元の衝撃が日本中を襲った。

 3月24日、終業式に出席するため家を出た直後に行方不明になった、千葉県松戸市のベトナム国籍の小3の女の子、レェ・ティ・ニャット・リンちゃん。

 遺体やランドセルなどの発見現場から、捜査本部は、土地勘のある者の犯行と見ていた。事件発生から約20日経過した4月14日午前、千葉県警は、千葉県松戸市に住む、自称不動産賃貸業、渋谷恭正容疑者(46)を、死体遺棄容疑で逮捕した。

 渋谷容疑者とリンちゃんの自宅との距離は、約500mと近い。さらに衝撃的だったことは、渋谷容疑者は小学校の保護者会の会長を務め、リンちゃんの通学路の見守り活動も続けていたことだ。

 通学を見守る顔見知りの容疑者に声をかけられれば、誰だって危険とは思わない。加えて容疑者には、リンちゃんと同じ学校に通う2人の子どももいる。15日現在、渋谷容疑者は黙秘しているが、容疑者の犯行とするなら、安心するリンちゃんをまんまとだまし、連れ去ることは容易だ。

 松戸市教育委員会は、

「学校を支える地域住民と保護者が作る“二小会”の会長で、PTAとは違うものです」

 と渋谷容疑者の立場を説明する。

 40代の女性保護者は、渋谷容疑者との会話を思い出し、

「ご自身で話していましたが、高校のとき生徒会長をやっていたそうなんです。出しゃばりというと言い方が悪いですが、役をやるのが好きだったようですね。立候補者がいなくて、渋谷さんが立候補して昨年度から会長になりました」

 と話し、さらに、

「会長の任期は1年なんですけど、やりたい人も少ないし任期を3年にしようと、本人が会則の変更を提案してきました。反対多数で変更にはなりませんでしたが、今年もやり手がいなくて結局、渋谷さんがやっていたんです……」

 リンちゃんの遺体が発見された後も、渋谷容疑者は、防犯パトロールを行ったり、二小会の会長としてほかの保護者と接するなど、何食わぬ顔で平静を装っていた。

 リンちゃんのお別れ会は、家族がインフルエンザになったことを理由に欠席したが、今月5日には渋谷容疑者の名前で、リンちゃんの遺族の渡航費用の寄付を願う文書が配布された。11日に行われた小学校の入学式には来賓として参列し、祝辞を述べ地域の見回り活動も続けていた。防犯対策について新たな提案をし、予算を集めることも検討していたという。

渋谷容疑者が所有するマンション。ここに家族と住んでいた

 その一方で、今から思えばちょっと……という異変も。

 30代の男性保護者は、

「いつも子どもの話をよくしてね。道で会うと、1時間ぐらい立ち話をするんです。穏やかな人でしたけどね」

 と普段の様子を明かした後、事件後の変化をこう告げる。

「事件後、どんどん口数が少なくなって、今月10日にも(通学路の)旗持ちの当番をお願いしますとうちに来たんですけど、それしか話さずに帰っていきました。どうしたんだろうって思ってましたけど……」

 20代の保護者は、渋谷容疑者の逮捕に青ざめ、保護者の集まりのとき、渋谷容疑者の焦っていた様子を明かす。

「“二小会”の集まりのとき保護者のお母さんが冗談で“会長が犯人なんじゃないですか”って言ったんです。みんな冗談だって思っているのに、すごくうろたえて“そんなわけないでしょう。当日、私にはアリバイもあるんですから”って必死に否定していました。気が弱い感じの人なので、びっくりしただけかなと思っていたんですが……」

 捜査の手が自分に迫っていることをうすうす感づいていたのか、自分の犯行がバレる恐怖心が先立っていたのか。

 事件前から、渋谷容疑者に異質な感じを抱いていた人もいた。30代の保護者は、

「ちょっとおかしいっていうか、挙動不審なんですよ。普通に歩いていても不審者のようで、気持ち悪かったわ」

 と暗い印象を指摘する。

 “二小会”で役員をしている30代の女性は、

「いわゆるモンスターペアレンツのような感じ」

 と容疑者の言動をズバッと指摘。さらに、強気と弱気が混在する二面性にも触れる。

「会長になる前から学校に対して、A4サイズ10枚分の抗議文を送り、先生たちも困っていました。ただ、渋谷さんと抗議文について話をしたら意外と恐縮した態度で、“そんなつもりではなかったんです”って低姿勢だったので、拍子抜けしたことがありました」

殺害されたリンちゃん。人懐っこい子だったという(SNSより)

 渋谷容疑者は、元妻と2人の子どもの4人暮らし。毎朝、子どもを学校に送るほほえましい姿に、近隣住民は子煩悩な父親像を見て取っていた。

 40代の女性保護者は、

「渋谷さんは、お子さんとよく遊んでいて本当に大事にされていましたね」

 と明かし、続けた。

「お子さんとはとても仲がよくて、自販機でジュースを買ってあげたり、手をつないでコンビニに行ったりしていました。お子さんが保育園に通っていたときも、行事には必ず参加していて、仕事がないのかなと思っていました」

 いつもは歩いて子どもを学校に送る渋谷容疑者だが、リンちゃんが行方不明になった3月24日の朝は違っていた。

「車で送ったそうです。雨が降っていたので不自然ではなかったかもしれませんが、いつもは雨の日も歩いていたような……」(20代の保護者)

 この行動からは、車でわが子を早く送り届けてから、通学時間がいつも遅めだったというリンちゃんを狙った……という計画性も浮上してくる。

 犯罪者の心理に詳しい新潟青陵大学の碓井真史教授は、

「全裸で遺体を捨てたのは、性的な理由による犯行という見方が強くなる」

 と前置きしたうえで、

「今回は容疑者の気の弱さが、(被害者との間の)トラブルによって余裕がなくなり、殺害にまで至る結果へと導いてしまったのかもしれません」

 と読み解く。

 自分が捕まれば、わが子は容疑者の子どもになってしまう。そんな考えが抑止力にならないほど強い動機があったのだろうか。

 捜査の推移を見守りたい。