知れば知るほど奥深い、日本人の“名字”。東日本編では、全国名字ランキングトップ3の佐藤、鈴木、高橋が猛威を振るう一方で「マジですか?」とびっくりするような珍名さんも。あなたの名字も、ひょっとしたら歴史的に由緒があるものかも?

埼玉県出身の佐藤健と秋田出身の佐々木希。佐藤は日本No.1&東日本に多い。埼玉県では3位。佐々木は秋田県3位の名字。※写真ページで「都道府県別1位の名字」と「全国名字ランキング トップ150」を発表

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■北海道──名字のベースは東北

 道民の大多数は本州などからの移民。東北、北陸、四国からが多く、名字構成もそのエリアに似ている。

「例えば、“さいとう”は東北と関東では斎藤、北陸以西は斉藤が多いです。北海道には東北出身の斎藤さん、北陸・四国出身の斉藤さんが混在しているため、道11位に斎藤、19位に斉藤がランクイン。両方の“さいとう”が上位に入る都道府県は珍しいです」(姓氏研究家の森岡浩さん、以下同)

■青森──工藤が1位のレア県

 青森でいちばん多い名字は工藤。東北や大分に多い名字だが、工藤が1位の県は青森だけ。県トップ50に対馬(つしま)、今(こん)、福士、小山内(おさない)、神(じん)、一戸(いちのへ)、長内(おさない)などが入っているのも特

「また青森は“日本一、木村さんが多い県”。木村は全国に分布している名字で、青森では4位ですが、人口比で見ると県民の1・8%。これは、他県の木村とは比べものにならない高さです」

■岩手──佐藤、佐々木、高橋がダントツ

 岩手は佐藤、佐々木、高橋がダントツのトップ3。県3位の高橋でも県民の4・6%を占めるほど。県9位に及川がランクインしているのも独特。19位の小原は岩手ではほぼすべて“おばら”と読み、20位の千田も西日本では“せんだ”と読むのが主流だが、岩手では99%以上が“ちだ”。さらに岩手らしい名字には、岩渕、新沼(にいぬま)、昆(こん)、昆野(こんの)、古舘(ふるたち)、久慈(くじ)など。

■宮城──庄子が仙台に集中

 宮城のランキングは佐藤、高橋、鈴木、佐々木、阿部の順で、典型的な東北の名字分布といえる。

「仙台には、東北各地から人が集まっているため、県上位に“宮城だけに多い”ものは見られません」

 いかにも宮城らしい名字は県29位の庄子(しょうじ)。特に仙台市に集中している。さらに赤間(あかま)、遊佐(ゆさ)、若生(わこう)、石森、三塚(みつづか)なども。珍しい名字としては得可主(えびす)、金須(きす)、角力山(すもうやま)、百足(むかで)、留守(るす)など。

■秋田──なんと13人に1人が佐藤!

 県1位の佐藤は、県民の約8%。つまり、約13人に1人が佐藤なのだ。

「2位の高橋、3位の佐々木も県民の4%超え。特定の名字への集中度が高いです。さらに伊藤、鈴木、斎藤、三浦、加藤、阿部、工藤、菅原、畠山までのトップ12で、県全体の3割強。つまり秋田では、3人に1人がいずれかの名字です」

 秋田らしい名字としては、進藤、加賀谷、小玉(こだま)、船木、嵯峨(さが)、東海林(しょうじ)など。

■山形──全国2位の佐藤さん県

 県民の7%が佐藤

「山形は、秋田に次いで佐藤が多いです。県2位の高橋、3位の鈴木、4位の斎藤まで、すべて県人口の3%を超えています」

 県13位の武田、15位の奥山は特に珍しい名字ではないが、県単位で見た場合はかなり多い。山形らしい名字としては大場、梅津、大沼、小関(こせき)、森谷(もりや)、安孫子(あびこ)、星川、笹原など。また、山形には悪七(あくしち)、悪原(あくはら)など“悪”で始まる名字もある。

■福島──佐藤、鈴木、渡辺がダントツ

 県トップ3の佐藤、鈴木、渡辺がズバ抜けて多い。

「県トップ10に遠藤(5位)が入っているのは福島だけですね」

 福島の特徴的な名字は、県8位の菅野。“かんの”“すがの”“すげの”などと読めるが、福島では9割以上が“かんの”。中通りでは紺野、熊田、国分が目立ち、浜通りでは小野草野、会津ではが圧倒的に多い。珍しい名字には熊耳(くまがみ)、鉄(くろがね)、過足(よぎあし)、割柏(わりかし)など。

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■茨城──北関東の標準パターン

 茨城の1位は鈴木。そして佐藤、小林、渡辺と続く。

「北関東の標準的なパターンですね」

 県8位に根本、17位に、20位に野口がランクインするのが特徴で、いずれも珍しい名字ではないが、県で上位に入るのはレア。茨城独特の名字といえるのは、38位の倉持(くらもち)。さらに小松崎、飛田(とびた)、染谷(そめや)、菅谷(すがや)、寺門なども。珍しい名字としては結解(けっけ)、結束(けっそく)、青天目(なまため)などが。

■栃木──四十八願さんはココに

 県トップ3は鈴木、渡辺、斎藤。栃木らしい名字は県13位の手塚。ルーツは長野県上田市の地名で、木曽義仲の家臣・手塚太郎光盛の子孫という家も多い。そして15位に阿久津(あくつ)

「北関東では窪地のことを“あくつ”といいます」

 圧倒的に阿久津と書く家が多いが、中には堆、圷と書く家も。増淵、神山、室井(むろい)、薄井、君島なども栃木らしい名字だそう。さらに、難読性の高さで有名な四十八願(よいなら)も。

■群馬──茂木がい~っぱい

 県1位の名字は高橋。県4位に新井が入っているのは独特。そして、群馬を代表する名字は茂木。“もてぎ”と読む茂木が39位、“もぎ”と読む茂木が49位と県内トップ50に両方入っている。さらに、木暮(こぐれ)、塚越(つかごし)、生方(うぶかた)、真下(ましも)、羽鳥なども群馬独特の名字。

八月一日(ほずみ)は、旧暦の8月1日に稲の穂を摘んだことに由来しています」

 さらに珍しい名字に七五三木(しめぎ)、女屋(おなや)、千明(ちぎら)など。

■埼玉──南は東京、北は群馬

 県のランキングは鈴木、高橋、佐藤の順。東京のベッドタウンとして人口が急増した埼玉は、ランキング上位に特徴的な名字はない。県トップ50の中では新井、関根、栗原、関口、福島などが特徴的。また、浅見は埼玉独特の名字。

「さいたま市には左衛門三郎(さえもんざぶろう)という漢字5文字の最長名字があります。珍しい名字には歩行田(かちた)、食堂(じきどう)、舎利弗(とどろき)、年代(ねんだい)なども」

■千葉──千葉は千葉から全国へ

 千葉のトップ50にも特徴的な名字は見られない。

「千葉らしい名字は、県72位の加瀬。全国の6割が千葉在住です」

 さらに宮内、鶴岡、椎名、石毛、越川、香取なども特徴的。絶対ハズせない名字は、県名でもある千葉

「都道府県と同じ名字は、その県がルーツとは限らないんですが、千葉は千葉市から全国に広がりました」

 珍しい名字には生城山(ふきの)、狼(おおかみ)、花壇(かだん)、霊園(れいえん)、老後(ろうご)など。

■東京──23区は鈴木、都下は佐藤

 東京では、佐藤を抑えて鈴木が1位。都内の分布をみると、23区では鈴木が多く、八王子市や町田市などの市部では佐藤が多い。

「もともと江戸とその周辺は鈴木が多かったものの、戦後、地方から人が流入したことで、佐藤率が高まったと考えられます」

 東京ならではの名字としては相原、大井、品川、立川、豊島、目黒、牛込など。また原島は、東京最西端の奥多摩町に集中している。

■神奈川──石渡の7人に1人が横須賀

 神奈川のトップ5は鈴木、佐藤、高橋、渡辺、小林。実は、東京とまったく同じ並びなのだ。

「県トップ50までに、神奈川らしい名字は見当たりません。県55位の小泉は東京では100位以下です」

 神奈川独特の名字としては石渡。“いしわた”“いしわたり”と読み、全国の石渡の7人に1人は横須賀市在住。珍しい名字には一寸木(ますき)、梅干野(ほやの)、若命(わかめ)など。

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■新潟──斉藤と斎藤の境目

 県トップ3は佐藤、渡辺、小林の順。そして6位に斉藤、30位に斎藤と、2つの“さいとう”がランクインしている。新潟&長野より西は“斉藤”、それより東は“斎藤”が多く、新潟はその境目といえる。

「新潟を代表する名字は、県7位の長谷川や10位の五十嵐(いがらし)ですね。ただ、新潟には“いからし”と濁らない人もたくさんいます」

 熊倉、風間、皆川、笹川なども新潟らしい名字。

■山梨──渡辺さんNo.1県

 渡辺は全国5位のメジャー名字。しかし、都道府県別のランキングで1位なのは山梨だけ。トップ50に深沢、雨宮(あめみや)、志村、保坂、中込(なかごみ)、依田(よだ)、名取が入るなど、独特の名字が多い。県60位の藤原は、全国的には“ふじわら”と読むが、山梨では86%が“ふじはら”。同様に梶原、萩原も“かじはら”“はぎはら”と読むのが7割以上。

■長野──唯一の小林さんトップ

 小林が1位の県は長野だけ。しかも2位の田中に2倍以上の差をつける圧勝っぷり。県トップ50に宮沢、柳沢、滝沢、西沢、中沢、北沢、松沢、吉沢など“沢”がつく名字がズラリ。

「アルプスを抱く長野には、地形的に沢が多いという背景があります」

 宮下、赤羽(あかばね)、唐沢なども長野らしい名字。珍しい名字には織田大原(おだおおはら)、杏(からもも)、輪地(そろじ)、森井泉(もりいずみ)、位高(やごと)など。

■岐阜──加藤が1位は岐阜だけ

 全国ランキングでも10位に入る加藤だが、県単位で1位なのは岐阜のみ。愛知や三重など、濃尾平野に特に多いが、ルーツは“加賀(石川)の藤原”。県のトップ50には高木、浅野、田口、村瀬などが入り、日比野、長屋、小栗、鷲見(すみ)、棚橋なども岐阜らしい名字といえる。

「板取村(現・関市)の村会議員選は定数12に対し15人が立候補。うち13人が長屋だったことも」

■静岡──鈴木がもっとも集中

 静岡の特徴は、何といっても鈴木。特に県西部に集中し、堂々の県No.1。熊野信仰を支えた鈴木一族のうち、もっとも繁栄したのが三河(愛知)の鈴木一族で、徳川家康に仕えた。「家康が三河→浜松→江戸と居を移す中で、鈴木一族も帯同し、東日本に鈴木が広まりました」

 杉山が県5位なのも特徴的。佐野、大石、増田、村松も多い。県トップ100には芹沢(せりざわ)、池谷(いけや)、青島、袴田(はかまだ)などが。

■愛知──鈴木、加藤、伊藤が3強

 愛知のトップ3名字は鈴木、加藤、伊藤。4位以下を大きく引き離して多い。鈴木は三河地方に圧倒的に多く、加藤は尾張の東部に集中。

「瀬戸市では、人口の1割弱が加藤。小さな村ではなく、10万人規模の市においてこの傾向は、非常に珍しいです」

 いかにも愛知という名字は、県13位の杉山と、26位の神谷。さらに鬼頭(きとう)都築(つづき)なども。

<教えてくれた人>
森岡浩さん◎姓氏研究家。歴史学や地名学、民俗学などを踏まえつつ、名字を実証的に分析している。『人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!』(毎週木曜午後7:30~NHK総合)レギュラー。著書も多数。http://www.office-morioka.com/