「今の説明、わかりやすね!」と言われるためには……

ビジネスの世界は「動詞」表現が8割!?

 相手から「わかりにくい……」「結局、どういうこと?」といった反応が返ってくる「説明下手」な状態を解消するには、まず「そもそもなぜ、うまく説明できないのか?」という理由を明らかにするのが先決です。

 私はよく、セミナーや研修の場で受講生の方たちに次のような質問を投げかけます。

「『動詞』と『動作』の違いがわかりますか?」

 もちろん、唯一の正解があるわけではありません。あくまで私的な解釈ですが、私は両者の違いを特に重視して、次のように分けています。

動詞:その言葉だけを見聞きしても「何をしたらいいか」がわからない表現。

動作:その言葉を見聞きすれば「どう行動したらいいか」がわかる表現。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

 たとえば、書店に並んでいるビジネス書などを手に取ると、多くの書籍が「仕事をするうえで『目的を意識する』ことが大切だ」と主張しています。

 では、ここで1つ質問です。

「いったいどうすれば、『目的を意識する』ことができるでしょう?」

 答えはいろいろと考えられますが、私なりの考えでは、次のようになります。

「目的を紙に書いて、繰り返し見る」

 ポイントは、この表現を見聞きした相手が「行動」できるか、「実践」できるか、「習慣化」できるかです。すなわち、「動作」に移せるか。

 ふだん、研修などの際にワークでこの質問に取り組んでもらうと、実に8割近い受講者の方が、こうした「動作」レベルの回答をすることができません。

「まずは戦略の策定をして……」だとか「目的?それはビジョンやミッションでいうところの……」、あるいは「要はKPI次第で……」など、もやもやとした「動詞」レベルの話を始めてしまいます。

 どこかのビジネス書や経営書に出てきたような表現を引っ張り出し、なんとなく意味がありそうなことを話している――そんな雰囲気だけは十分伝わってきます。ただ、聞いているほうからすると、その人が実際何を言いたいのかはさっぱりわかりません。

 ワーク終了後、私はこう質問します。

「相手の説明を聞いてみて、『これなら目的を意識できそうだ』という人は?」

 するとほとんどの方が苦笑いを浮かべ、手は挙がりません。そんな光景を幾度となく目にしてきましたが、これがまさに「動詞でごまかしている」自分であることを体感してもらうための、貴重な気づきの機会なのです。

無責任な「これ、まとめておいて」を言わないために

「目的を意識する」という課題を前にしたときに「戦略」「ビジョン」「コミットメント」といった抽象表現に終始し、具体的な「動作」にまで落とし込めない。

 一見行動できそうな気にはなってしまうのですが、実際には思考も行動もフリーズせざるをえない。これが、「動詞」の特徴です。

 ところが、日々仕事をしていると、こうした「動詞」表現と頻繁に遭遇します。

 以下は、これまで受講者の方々からお寄せいただいた例の一部です。

・お客様目線で考えよう!

・相手の立場に立って考えよう!

・まずは相手に関心を持つことからスタートだ!

・認識を徹底していこう

・仕事では、優先順位をつけることが重要だ

・当事者意識、危機感をもて

 あなたの職場には、こういった「動詞」表現がどれくらい蔓延しているでしょうか?

 私自身、これまで何人ものこうした「動詞」表現を好んで使う方たちにお会いしてきました。そこでわかったのは、彼らの多くが、そもそも「動作」の価値を低くみているようだ、ということです。

「動詞」型の人は、えてして知的な雰囲気が演出できる言い回しを好みます。逆に、知的な雰囲気からは遠いシンプルな表現、すなわち「動作」レベルの表現を用いる人を評価しようとせず、なかなか耳を傾けようともしません。

 たとえば「動詞で指示するのは、人材育成上の配慮だから問題ない」といったコメントを、何度かもらったことがあります。

 上司が部下に指示を出すとき、あえて「ちょっとこれ、まとめておいて」というように「動詞」表現にしておく。そして「どうまとめるのか」は本人に自主的に考えさせる、というわけです。

 以前、質疑応答で直接このコメントをもらった際、私は次のように回答しました。

「なるほど、確かに育成上の配慮として、あえて動詞表現でぼやかすということはありえるでしょう。ただ、1つだけ確認してほしい『条件』があります。それは『仮に自分が、動作で表現しろ、と言われたらできるか?』ということです。

 たとえば『ちょっとこれ、まとめておいて』という指示を出すのであれば、ご自分でも『自分だったらどうまとめたらいいか――たとえば、もっとも大事なポイントを3つ選んで、取り組むべき順に紙に書き出してみる、など』といった答えは、少なくとももっておいたほうがいいでしょう。自分でもどう動作にしたらいいかわからないことを丸投げしても、相手は教育の一環とはまず思ってくれません。信頼関係を損なうだけです」

 その後、この受講者の方は「動詞」に偏っていたご自身のコミュニケーションを自覚し、「一生ものの気づきを得ることができました」と感謝の言葉を寄せてくださいました。

うまく説明できない理由は「ここ」にあった

 さて、ここでお伝えしたことをまとめると、ポイントはいたってシンプルです。

 なぜ、うまく説明できないのか?

 その理由は、そもそもこれまで「わかりやすい説明の仕方」を学んだことがなかったから、あるいはもし学んだことがあったとしても、その内容が「動詞」レベルだったからです。そのために、あなたの説明自体が、知らず知らずのうちに「動詞」表現に偏っていた可能性が高いと考えられます。

 もし、これまでに学んだ説明の方法が「動作」レベルまで具体化されていなかった場合、仮に実践できなかったとしても、あなたが悪いのではありません。「動詞」表現でごまかしていることが自覚できていない、提供側の責任です。

 また、もし、あなたの説明がうまく伝わらず、相手の行動を促すことができなかったのだとしたら……その理由は、説明内容が「動詞」レベルだったからかもしれません。

「動詞」と「動作」。

 たった1文字の違いですが、その差がもたらす結果は歴然です。

『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』浅田すぐる著(サンマーク出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

基本的な型の実践

 あらためて、先に例に挙げた「目的を意識する」を「動作」表現と見比べてみましょう。

「目的を紙に書いて、繰り返し見る」

 実にあっけない表現です。でも、だからこそ、誰でも実践することができます。誰もが行動に移せるほどシンプルで、カンタンな表現。「実践できる」という文脈があって初めて、価値を見いだしていける。これが「動作」の最大のポイントです。

 もちろん、実際の仕事の現場では、もっと込み入った内容を取り扱う場面がほとんどです。ただ、煎じ詰めていくと、仕事ができるかどうかの違いは、実はこうした基本的な型の実践によって生じています。

 さて、あなたの日々の「説明」はいかがでしょうか?