これからの子どもが生き残っていくための勉強法とは?(写真はイメージ)

 私は普段、受験のプロとして、中学、高校、大学のあらゆる入試問題を分析し、合格のための学習プログラミングの作成などに携わっています。また、生徒に最良の教育環境を設定する「教育環境設定コンサルタント」として、多くのご家庭の相談に乗ることが多いです。そんな中、近年の教育現場には、大いなる失望を感じずにはいられません。

 港区白金台や神戸芦屋地域など、受験最先端地域では、あまり賢くない子どもをスパルタ進学塾に入れると壊れてしまい、中学・高校受験がうまくいっても成績が伸びなくなるか引きこもりになるということが昔からわかっていました。だったら小学校から入れてしまおうと、お受験に一生懸命になる親が増加。そこで教育をビジネスと考える人が出てきました。

 一番の親玉は私立大学です。最近では大学入試のやり方も変化し、秋口から通して7回も受験できる大学もあります。そしてその度に受験料を徴収します。もはや、そういうことをやらないと大学は生き残っていけないのです。文科省助成金に限度がある私立大は、自ら研究資金を集めなければならないと言明。マグロ養殖で有名な近畿大は、あたかも学生たちからの学費でマグロの餌を買っているとはっきり言っているかのごとしです。

 国家が教育にお金を出すのではなく、人々が自力でなんとかやっていこうとするところにパカっと口を開けて待っているのが、「大学に入ればなんとかなるだろう」というまやかしです。これは、一種の宗教団体だと思えばいいのです。大学は自分たちが存続し続けるために、お金をいっぱいとる。しかも入る必要がない人も入れてしまう。でも、資金が必要な私立大学が「寄付」を募るのは当たり前のこととも言えるのです。

 大学とは、18歳の時点で読み書きができて、専門家の話を聞いて理解できて、提示されるテキストを読みこなし、わからないところは質疑応答して、レポートを書く、という状態になっていなければ行っても意味がないところだと思います。でも、いったいどれだけの学生が、18歳時点でこの状態に達しているでしょうか? 学者側の定説では5%未満ということです。つまり、20人に1人! ということは、残りの95%の学生の親は、子どもが通う大学が存続するために汗を流してお金を払っているところと言えるのです。

基礎学力は学校外で買ってくる時代

 2020年の教育改革でセンター試験が廃止され、新テストが導入されるといいます。これを筆頭に、大学や高校の教育が大幅に改革されます。「自分で考え、表現する人間を育てる」ことが目的です。上層は情報もあってお金もありますからどうするべきかわかりますが、テレビを見て真に受けているような中間層から下は助かりません。文科省はB層=“下流”は切り捨てようとしているのです。

 放送大学の、ある教育学者が言うには、「もはや基礎学力は、完全に学校外でお金で買ってくる時代になりました」とのこと。これは事実です。しかし、税金を払うようになるための人間を育成するのに、なぜ自分たちで全部やらなければいけないのでしょうか? 学校くらいしっかりしているべきです。これでは納税者でもある親たちをバカにしてるとしか思えません。

 この状況の中、文科省は「アクティブ・ラーニング」を提案していますが、だいだい、勉強なんてアクティブにやらなければ頭に入ってきません。無理矢理やらされているのと自主的にやるのでは、5倍も結果が違います。それは真理です。やらされている勉強で東大に行っても、それからどうやって自分で勉強すればいいのでしょうか? 文科省は、「どこまでいっても自分から勉強することが大切だよ」とあらかじめ言っておくことで、放置した現状を許されようと考えていたのですが、最近はこれを「主体性」、「深まり」と言い換えています。

 アクティブ・ラーニングに先駆けること27年前に、IT教育を主体にした慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)は驚くべき大学教育を始めていました。一般入試の受験科目は英語と数学、小論文。大人の話が聞けて、文章が書ける。まさしく先に言った大学生に必要な資質が問われるのです。また、SFCの入試問題製作教授たちによれば、一般入試よりAO入試で採る生徒のほうが成績上位が多いそうです。入学したらこういうことがやりたいと明確に説明できる学生は、最初から「アクティブ」なのだと思いませんか? 結果、今、駒場の東大大学院はSFCの出身者だらけになっているのです。

勉強ができるかできないかの「決め手」とは

 勉強ができるかできないかの決め手は、日本語ができるかできないかにあります。つまり文章を正しく読み、内容を理解し、自分の考えていることを的確に伝える文章を作る日本語能力です。当然のことですが、教科書やテストは、すべて日本語で書かれています。いくら計算が速くても、化学記号を覚えていても、教科書やテストに書かれていることを正しく読み、理解する日本語力がなければ、内容を確認したり、問題を解くことはできません。

 私が今取り組んでいることは、子どもたちが古今集を音読して日本語の元になるものを体得し、その上で現代文をしっかり読み、書けるようにすること。塾なんかに行かなくても、文章を書けるようになることが大切なのです。

 家庭で簡単にできる取り組みとしては、子どもにおかしいなと思うことを調べさせて、レポートで報告させること。または、「お父さんも一緒に行くから、◯◯山の◯◯を確認しにいこうぜ」なんて言って誘ってみてください。レポートにまとめてきたら、お小遣いをやれば、達成感をも感じるはずです。

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 子どもが書いた原稿を“買う”こともおすすめです。親御さんが子どもの原稿を1枚10円とか100円で買う。周りに勧めてみたところ、これが大成功。次第に子どもが自主的に書いて、「お母さん、これでいくら?」と言うようになったそうです。その子はひと月で20枚は書いてしまうようで、原稿料は2000円。本人はDSを買うために一生懸命執筆中とのことです。塾に月3万5000円使うより有意義ですよね。中には「その手に乗るか」ってなびかない子もいるでしょうけれど。

 学歴で就職する発想は完全に終わりました。子どもはだいたいのことは自分でやれるように鍛えておくことが必要です。勉強は勉強で、日本語が良くできて、資格試験に合格できるようにつなげる。一方で、いつでも文章が書ける状態になっているほうが強いです。その上で、子どもの特性を伸ばした職業に就こうとする。3つ以上の仕事を同時にできるような形を目指すのがいいでしょう。今の時代、たったひとつのことを目指すのは危険です。

 国に見捨てられたあとは、自覚のある家庭の子どもが生き残るのです。


<著者プロフィール>
松永暢史(まつなが・のぶふみ)
1957年東京都中野区生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒。教育環境設定コンサルタント。「受験のプロ」として、音読法、作文法、サイコロ学習法などさまざまな学習メソッドを開発。教育や学習の悩みに答える教育相談事務所V-net(ブイネット)を主催。著書に『男の子を伸ばす母親は、ここが違う!』(扶桑社)など多数。最近刊は、『新男の子を伸ばす母親は、ここが違う!』(扶桑社)、『将来賢くなる子どもは、遊び方が違う』(ベストセラーズ)、『マンガで一発回答 2020年大学入試改革丸わかりBOOK』(ワニ・プラス)など。