健康診断で病名はつかないものの、加齢にしたがい、なんとなく不調が続く。最新の研究で、その原因は、身体のすみずみまで栄養を届ける“毛細血管”の老化にあることがわかってきました。一方で、毛細血管は再生可能なことも判明しています。抗加齢医学、睡眠医学などを専門とする医学博士の根来秀行先生に毛細血管について取材しました。

不調や老化の原因が、毛細血管の老化にあることがわかってきた

不調や老化のカギを握る“人体最大の臓器”

 美容や健康の要として、注目されている毛細血管。これまでは血流には動脈などの大きな血管が重要というイメージだったけれど?

「近年の研究で毛細血管は身体の状態や生活習慣と密接に関係しており、ケアすることで、さまざまな不調やエイジングにアプローチできるとわかってきたんです」(根来秀行先生、以下同)

 そもそも毛細血管とは、身体中に張り巡らされている直径約100分の1ミリの極細血管で、全身の血管の99%を占める。つまり、人体の中のいちばん大きな臓器となるわけだが、加齢とともに劣化。

「男性は30代後半、女性は40代ぐらいから劣化しやすくなり、使われなくなった毛細血管はやがて脱落。60代になるとピーク時の20代よりも健康な毛細血管の数が4割も減るといわれています」

 毛細血管の働きを確認しておくと、

・酸素を全身に届けて二酸化炭素を回収
・栄養素を全身に届けて老廃物を回収
・免疫物質を派遣し病原菌や細菌から身体を守る
・熱の放出をコントロールし体温を一定に保つ
・ホルモンを運び各所に情報を伝達

 などがあげられる。まさに生命活動の最前線と言えるのだ。

 この毛細血管に元気がないと形が崩れ、一部消えてしまう部分も。管はあるのに血液が流れていない“ゴースト血管”が増えると、頭痛や肩こり、倦怠感などの体調不良に悩まされる。それ以外にも、シミ、シワ、白髪などの老化現象も顕著に。逆に、毛細血管が元気だと、栄養がすみずみまで届いているぶん、細胞のターンオーバーがスムーズに行われ、見た目も若々しく心身ともに健全になるというわけ。

 つまり、どんなに食事に気を配っても、栄養を届けるルートである毛細血管が機能しなければ意味がないのだ。例えば、次のような身体の不調や老化現象は、毛細血管の劣化と深く関わっている可能性があるのだそう。

あなたの毛細血管は大丈夫? こんな症状に注意!
・薄毛、毛が抜けやすい、白髪が急に増えた
・顔色が悪い、シミ、シワ、たるみがある
・頭痛、肩こり、腰痛がある
・忘れっぽくなった、だるい、イライラする
・眠りが浅い、寝つきが悪い、夜中に目が覚める
・胃もたれ、胃痛、お腹がはる、酒に弱くなった
・風邪をひきやすい、疲れやすい
・痔、頻尿、月経痛、更年期障害がある
・手足が冷える、震える、むくみがある
・爪が白っぽい、欠けやすい、凹凸がある

生活リズムを整えれば毛細血管も元気に!

肺胞を取り囲む毛細血管によってガス交換が行われる(イメージ図)

 毛細血管は40代以降、急速に衰えていくとはいえ、あきらめる必要はなし。毛細血管は、日常生活の工夫で何歳からでも増やすことができるそう。根来先生によれば、

「ポイントは、全身の毛細血管に血流がいく時間を作ってあげること。具体的には、体内時計を意識した生活で自律神経のバランスを整え、質のよい睡眠をとることが必要です」

 生活習慣の心がけによる効果は、わりとすぐに表れるとか。

「人にもよりますが、1週間から2週間ぐらいで毛細血管の血流改善の傾向は見られます。さらに1か月もすれば体調も整ってくるので、だいぶ変化を実感できると思いますよ」

 毛細血管が若返らせるのはアンチエイジング・ホルモン。

 アンチエイジング・ホルモンの代表格といえば成長ホルモン。成長期には筋肉や骨などの組織を成長させ、大人になってからは全身の細胞を修復し、免疫力をも強化する。睡眠中、特に寝入りばなの3時間にもっとも多く分泌され、夜眠っている間に毛細血管をメンテナンスしてくれる。

 自然な眠りに誘う「睡眠ホルモン」として知られ、強い抗酸化作用も持つのがメラトニン。朝日を浴びて15~16時間後に分泌が始まり、そこから数時間でピークに。朝6時に起きて23時に眠ると、メラトニンと成長ホルモンが同時に分泌され、血管の修復をより促進できる。

 メラトニンの分泌は「体内時計」によって制御されている。目から入った朝の光が、眉間の奥のほうにある体内時計の中枢・脳の「視交叉上核」に届くことで夜間出ていたメラトニンがストップ。同時に全身の毛細血管は収縮し、身体が覚醒モードに切り替わる。

 脳の神経細胞を活性化し、元気にする働きから「ハッピーホルモン」と呼ばれるセロトニン。また、セロトニンはメラトニンの原料となる。夜、メラトニンを十分に分泌させるには、朝、太陽の光を浴び、日中活発に活動してセロトニンをたくさん分泌させることが必要に。

健康な毛細血管を育てる暮らし方のコツ

 いよいよ、ここからは実践編。加齢に伴う毛細血管の劣化を最小限に食い止め健康な毛細血管を増やす生活習慣のポイントをご紹介。

【睡眠/質のいい眠りこそ血管ケアの最重要課題】

 睡眠ホルモンのメラトニンを増やすには、早起きして朝日を浴びるのが有効。曇り空や雨の日でも少しの間、窓辺にいればOK。毎朝、決まった時刻に朝日を浴びる習慣をつけると、身体のリズムが整い、毛細血管の劣化予防につながる。

 強い光の照明や、スマホのブルーライトはメラトニンを抑制し、不眠の原因に。まず寝室は真っ暗にして眠り、夜中に目覚めたときも明かりをつけたりスマホで時間を確認しない。トイレへの動線にフットライトを設置するなど、環境にも工夫を。

 睡眠不足が身体に深刻なダメージを与えるのは言わずもがな。とはいえ、長く寝るほどいいわけではなく、科学的な根拠に基づいた理想の睡眠時間は7時間が目安。さらに、成長ホルモンとメラトニンの働きを存分に享受したいなら、午前0時までに寝て朝7時に起きること。可能なら夜11時に寝て朝6時に起きるのがもっとも理想的。

【運動/無理のない範囲で習慣にするのが効果的】

 毛細血管を増やすのに、もっとも有効なのが筋トレ+有酸素運動の組み合わせ。筋肉細胞が酸素を大量に欲することで血流が増え、新しい毛細血管が生み出される効果が期待できる。運動はどちらもそれほど激しい負荷は必要なく、例えば5分スクワットやかかと上げ(ふくらはぎのエクササイズ)をしてから15分、ウォーキングする程度でOK。

 運動が苦手な人は、スポーツジムと聞くと気後れしてしまいそうだけれど、実は苦手な人ほどジムに向いている。トレーナーがひとりひとりに合う内容で正しい運動の仕方を指導してくれるうえ、ジム仲間ができれば楽しく続けられるはず。

 毛細血管を増やす効果がいちばん高いのは有酸素運動。ただしマラソンのような激しい運動は身体を酸化させるフリーラジカルを生み出してしまい、かえって老け込むことに。おすすめはウォーキング。1日4000~5000歩を目指して。

【食事/体内リズムの調整を第一に血管ケア食材も要チェック】

 食事は内容にこだわるよりもまず、3食規則正しくとり、体内時計を整えることが大切。特に朝食は1日の体内リズムを調整するのに重要で、朝日を浴びて1時間以内にとると地球に合ったリズムで動きだせる。また夕食は、睡眠時のアンチエイジング・ホルモンの分泌を妨げないよう、20時ごろまでにはすませて。

 フリーラジカルによる酸化対策に有効なのが、抗酸化食材。トマトのリコピン、ニンジンのβ-カロテン、サーモンのアスタキサンチンなど、抗酸化成分を豊富に含むカラフルな食材を食事に取り入れて。また、シナモンやヒハツというこしょうは、毛細血管の内皮細胞や壁細胞の接着を強化して健康を保つ働きが。こちらもぜひ活用したい。

 食で若さを保つ方法として、ここ数年、世界的に注目を集めているのが「カロリーリストリクション」、略してカロリス。必要な栄養素を網羅したうえで、毎日の摂取カロリーを標準の7~8割に摂取する方法。動物実験では、カロリスで長寿遺伝子がオンになることがわかっており、血管の細胞が長生きして老化が遅くなり寿命が延びると考えられている。

【入浴/末端の毛細血管まで開かせるもっとも有効な手段】

 入浴は、湯船にゆっくり浸かって血液循環を促し、副交感神経をアップ。ただし、身体の温めすぎは逆効果になるので要注意。人間は夜になると深部体温が下がって眠くなるため、熱すぎるお風呂や、寝る直前の入浴は深部体温が下がらず睡眠の質が落ちてしまう。お湯の温度は38~41度ぐらいにし、就寝の1時間前までには出ること。

 疲れがたまっているときには、42度ぐらいの少し熱めのお風呂に10分間浸かる入浴法がおすすめ。傷んだ細胞を修復するタンパク質「ヒートショックプロテイン」は、お風呂の熱で細胞に適度なストレスを加えることで増産される。

【ストレス対策/副交感神経が下がりやすい40代以降は特にケアが必要】

 ストレスが続くと、交感神経が優位な状態が続き、血流が悪化。身体のあちこちでフリーラジカルが作り出されてしまうため、ストレスをため込まないようコントロールすることが大切。少し大雑把になってみる、ガムをかんでハッピーホルモンのセロトニンを出すなどの方法で受け流しを。お笑い番組を見るのも◎。

 過度なストレスはよくないものの、全くないのも副交感神経が優位になりすぎて不調を招く。ほどよいストレスを保つには「90分集中し、5分休む」サイクルで活動するのが効果的。また、行き詰まったら香りに鎮静作用があるコーヒーでひと息。

<教えてくれたひと>
根来秀行先生
医師、医学博士。ハーバード大学医学部客員教授、パリ大学医学部客員教授、事業構想大学院大学理事・教授。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など多岐にわたる。『「毛細血管」は増やすが勝ち!』(集英社)など著書多数。