リリー・フランキー 撮影/佐藤靖彦

「“美しい”って究極の言葉。僕なんかは、女の人を美しいと毎日思いますけどね。でも、この人キレイだな、美しいなって思っても何分か話しているうちに、美しいと思ったぶんだけアラを探している……きっと人間ってそんなもんじゃないですか」

 この広い宇宙で、平凡な家族が突然、宇宙人として覚醒した――。三島由紀夫の異色SF小説が原作の映画『美しい星』が、リリー・フランキー(53)主演で5月26日より全国公開に。演じたのは、予報が当たらないことで有名なお天気キャスター・大杉重一郎。

「普段は、まったく天気を気にするタイプじゃないんですよ。撮影の日は毎日、“明日雨になればいい”って思っていました。なぜか、って? 休みになるから(笑)。なんでも先送りにしたいんです。完成させるためには撮影しなきゃいけないってわかってるけど、1日でも先送りにしたくて」

 朝7~8時から始まり、終わるのは深夜2時などというスケジュールも多く、ベテランのスタッフたちも「なかなか、こんなにキツい現場はない」と口にするほどだったとか。

 大杉家は、妻役に中嶋朋子、息子役に亀梨和也、娘役に橋本愛と豪華な面々が勢ぞろい。

「あんまり一緒にいるシーンは多くなかったですけど、4人で食事をしているシーンがやたらリアルでした。全員が20代を過ぎて、みんながみんな好きなことをしていて、家族の前で“家族を演じている”ような。いわゆる象徴的な現代の家族なんじゃないかって。それでいて、みんなが宇宙人(火星人、水星人、金星人)。

 まぁ、原作と違ってお母さんだけ地球人なんですけど、そこがこの映画の原作と違う面白いところだと思いますね」

 さらに原作ではソ連(ロシア)とアメリカの冷戦時代の話だったが、現代の環境問題へスライドされているところも見どころ。そしてこの映画を、“若い人にこそ見てほしい”と話す。

「最近の若い人が見る映画って、ずっとひとりの主人公が出ずっぱりでひとつのストーリーが進んでいくものが多いと思うんですよ。恋愛映画とかね。でもこれは、家族4人のストーリーが同時進行していくから、見終わったときに自分なりの感想が生まれると思う。全部を説明されなくても、感覚で楽しんでもらえたら」

 メガホンをとったのは『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』などの吉田大八監督。リリーとは同い年で、撮影へのアプローチがわかりやすかったそう。

「お互いが10代や20代のときに聴いていた音楽や、当時カッコいいと思っていたミュージシャンが似ていたんです。トーキング・ヘッズとか、ゲイリー・ニューマンとかね。“明日の撮影はこんなイメージなので、見ておいてください”ってYouTubeのリンクを教えてくれて、それを見て、僕も感覚的に拾って芝居するって感じでした」

リリー・フランキー 撮影/佐藤靖彦

専業の俳優じゃないからこその、芝居への向き合い方

 昨年は『SCOOP!』『聖の青春』など、8つもの出演作があり、クセのある役も自在にこなしてしまう印象が強い。イラストレーターや作家だけでなく俳優としても活躍しているが、どこか余裕すら感じさせる。

「俺は専業の俳優じゃないですから、あんな役やりたいとかこんな役やりたいって気持ちはないんです。いただいた役を全部やるっていうふうに仕事もできないですし。

 だから自分が“この台本、面白いな”とか、“この監督と仕事したいな”と思ったものだけを受けるようにしています。初めて映画に出たのが35歳のときですからね。そりゃ俺だって、広瀬すずに壁ドンとかしてみたいですよ? でも、なかなかそんな役こない。せいぜい、父親役でしょうね(笑)」

 “芝居”との向き合い方を聞くと、

「監督に言われたまんまやるだけです。この間、ピエール瀧と飲みながら話してたんですよ。“俺らみたいのが監督に『こういう感じでやりたいんですけど』って意見だしてたらうっとうしいよね”って(笑)。今回は圧倒的に、“吉田大八と仕事がしたい”から参加させてもらいました。だから監督に教えてもらってやってることがほとんどです。役作りをすればするほど、役から離れるってこともあるかもしれないですから」