綾野剛 撮影/伊藤和幸

 6月の綾野剛は振り幅が広い――。現在、主演ドラマ『フランケンシュタインの恋』で人間に恋する心優しい怪物を演じている綾野剛(35)が、映画『武曲 MUKOKU』では一変、人知れぬ深い闇を抱えた剣の使い手を演じている。

 まるで同じ人とは見えぬ鬼気迫った形相で激しい“決闘”を繰り広げるなど、剣道未経験とは思えぬ説得力ある芝居には驚かされる。

「殺陣(たて)をやってきていたので、その経験を生かすことができると思っていたんです。でもまったくの別物で、“これはまずいな”と。剣道は竹刀を振り落とす瞬間に足の音と声のタイミングが、すべて一心同体でなくてはいけない。それで初めて一本になるんです」

 撮影が行われたのは昨年の夏。役になりきるため、2か月にわたって猛特訓と“肉体改造”を敢行し“すべてを出し尽くそうと思った”と振り返る。結果、体脂肪率7パーセントまで鍛え上げ、こうして作りあげられた筋骨隆々な肉体美には思わず息をのむ。

(c)2017「武曲 MUKOKU」製作委員会

「1日最低でも3時間は剣道を練習して、さらにトレーニングも加えると、どんどん精神面もフィジカル面も強くなっていって、全然疲れないんです。いくらやっても力があり余っていて、自分で力をコントロールできなくなっていって、怖かったです。持っているコップが割れてしまうなんてこともありました」

 筋肉を分解させてしまうという理由から、撮影まではアルコールを摂取することは一切なかった。いったい、そこまで綾野を突き動かすものは何なのか。

「求められることだと思います。僕たち役者は、どこかで常に選ばれる側で、自分たちで選んでいけるほど甘い世界ではないんです。プレッシャーはもちろんあります。でも、それは常に自分に与えているもので、人から与えられるものではないかもしれません」

綾野剛から出た意外な言葉

 今回の熊切和嘉監督とは『夏の終り』以来のタッグ。同作品をプロデュースし『そこのみにて光輝く』でも綾野を主演に据えた星野秀樹氏など、強い信頼で結ばれた座組みとなった。“この役作りができるのは綾野剛しかいない”という期待もあり、それに応えるため常に自分に課題を与え続けた綾野。

 ストイックなのは、プライベートでも?

「ストイックであるかどうかというのは、自分ではない誰かが決めるもの。ストイックって僕のことを思っていただいている方がいるならば、その方の中に答えがあると思うんです。要は不安なんです。自分のことをもっと過信していたら気持ちがラクなんですけど」

 “不安”という、意外な言葉に驚いていると、

「僕にも不安って気持ちはあります。不安だから精神安定剤として努力するしかない。努力することで、ちょっとずつ役に近づいているんじゃないか、求められていることに近づいていってるんじゃないかって思えるんです。結局は臆病なんです。だからやるんです。期待だけはいただいて、それには明確に応えていきたい。これからも、求められる人間であり続けたいと思います」

綾野剛 撮影/伊藤和幸

 ライバルはあの“研さん”!?

「今やっているドラマでの役名が深志研、今回の映画では矢田部研吾。同じ漢字だし“研さん”つながりなんです。天使のように優しいドラマの研さんが勝つか、地獄のような形相をした映画の研さんが勝つか。みなさんの目で確かめていただければ幸いです」

<公開情報>
『武曲 MUKOKU』6月3日(土)全国ロードショー
矢田部研吾(綾野剛)は幼いころから父親の厳しい指導を受け、剣の道では一目置かれる存在となっていた。だが、とある一件から進むべき道を見失ってしまう。そんな中、彼のもとへ、ひとりの少年・融(村上虹郎)が送り込まれ――。豪雨の中、泥まみれになりながら繰り広げられる決闘シーンは必見。

(c)2017「武曲 MUKOKU」製作委員会