新鮮でみずみずしいベランダ野菜
「初めはお花、次にハーブを育てるようになって、“本格的な収穫”をしたいと家庭菜園を始めたのが12年ほど前。毎年、桃太郎トマトにミニトマト、ナス、ピーマン、キュウリを中心に、ネギやシソの香味野菜を少し育てるのがわが家の定番ですね。根菜は深いプランターで育てるのが難しそうで、まだ挑戦したことがないんです」

そう語るのは洋画家・タレントの城戸真亜子。自宅は都心のマンションの高層階にあり、これからの季節、広くて日当たりのよいベランダはプランターからすくすく伸びた植物でいっぱいに。こんもり緑の曲線を描いて見えるそうだ。
収穫した野菜の写真を見せてもらうと、あまりに立派な出来栄えで、「ベランダでこんなに育つの!?」と驚くほど。
「たくさん収穫できて、ピーマンやトマトは使い切れないくらい実がなります。
ときどき“スーパーで売っている野菜なんて食べられない”という言葉を聞きますけど、自分で育てた野菜を食べてみて、違いがよくわかりました。とれたての野菜は、はちきれんばかりのみずみずしさで、新鮮であることのありがたみを感じるんです。
ただ私の場合、北島農園という知り合いの農家の方が作ってくれる苗を分けてもらって育てているので、恵まれていると思います」
朝は、ベランダでお茶を飲みながら、植物の様子を見るのが日課。葉の間から伸びてくる枝を剪定したり、病気になっていないか、高層階にも現れる虫がついていないか、こまめにチェックしたりして手入れする。
「水やりは自動灌水機が便利。ベランダに水道の蛇口があれば、電池で動く小さな機械と細いホースを設置すればOK。タイマーで時間や回数をセットできて、水やりを気にせず出かけられます。暑い時期は1日2回、水をあげないと葉がしんなりしてしまう。忙しい人でも自動灌水機を使えば、無理なくストレスもなく、いつでもいきいきとした緑のベランダガーデンを目にすることができるので、癒されますよ」
台風の進路予想を見てプランター大移動!?
ベランダ栽培で大変なのは強風対策。普段は日当たり重視でプランターを配置しているが、台風襲来ともなるとベランダの柵に固定してある支柱をはずし水やり用のホースごとプランターを窓際まで移動させる。
「数も多いだけに一大事。農家さんの気分です(笑)」
天候に左右されるため、必ずしも毎年満足できる収穫ができるわけではなく、「日照時間が少なかったり、降水量の多い年は、イジケたようなサイズのものや、形がよじれたものしか収穫できない」ことも珍しくない。それでも、
「よく言われますが、植物は手をかければかけるほど、きちんと答えを返してくれるので、それが元気のもとになるんです。静かな応え方で、隠れて実がなっていたりすると、“こんなところにいたの”とうれしくなったり」
と、にっこり。至福の時間を尋ねると、「野菜を摘むとき」と答えてくれた。
「“お料理に使いましょう”とベランダに出て実を摘むと、自分がイタリアのマンマになったような満ち足りた気分になるんです(笑)」
トマトを摘むときの匂いに心を奪われ、手が汚れるままに土いじりをしながら、湿気の変化を感じる……。城戸は、五感をフルに使ってベランダ菜園を楽しんでいる様子。それは、自然をモチーフに絵を描く画家としての感性とも通じるものがあるそうだ。
ただケアするだけではなく、上手に収穫するために新芽や枝をためらいなくカットしたり、終わりかけの植物を処分する潔さも欠かせない。これは、城戸によれば、ガーデニング好きに共通する一面らしい。

将来の夢は、自家製ぶどうでワイン醸造
「地面に植えるのは、草を刈ったり虫の心配をしたり、いろいろ大変なことがあるので、私にはベランダ菜園が気楽で合ってます」
と充実したベランダ菜園ライフを送る城戸。これまでにベランダで栽培したいちばんの大物は、なんとメロン! 1本の苗に1個しか育たないため、それ以外の小さな実は摘み取ってしまう贅沢さ。本体のメロンはもちろんおいしく食べ、残りの小さな実もたまり醤油漬けにして、しっかり味わったという。
「いまの夢はぶどう棚を作って、ワインを自家醸造すること。いつか実現させたいです」
<プロフィール>
城戸真亜子(きど・まあこ)/1961年8月28日生まれ。愛知県出身。武蔵野美術大学を卒業。画家として個展を開き、アートパブリックを手がけながら、タレントや女優として活動。著書『記憶をつなぐラブレター 母と私の介護絵日記』(朝日出版社)も話題。