あだち子ども食堂では「いただきます」で一緒に食べる。画像は一部加工

「子ども食堂を始めた当初、メンバーの予定が合わずに運営する時間や曜日をずらしたら子どもたちが来なかった。同じ場所、時間、曜日に開いていないとダメだと学びました」

 と失敗を振り返る三宅正太さんは、3年前から東京・八王子で『はちおうじ子ども食堂』の活動を続けている。

 '15年10月に、東京・足立区で『あだち子ども食堂』を始めた長場美智代さんは経済的な課題に直面した。

「食堂として借りていた区の施設の使用料など実費がかかり、持ち出しでやっていたので先々を考えるときつかった。その後、区の住区センターで子ども食堂をする場合は施設料を無料にしてもらえるようにかけ合いました」

 長野県内8か所で子ども食堂を運営する労協ながのは、

「本当に暮らしに困っている人に情報が届いているのかわかりません。高齢者の孤食対策もふまえ、誰でも来ていいという形をとっていますが、肝心の高齢者からは来にくいという声もありました」

 子ども食堂とは貧困家庭の子どもに食事を提供する取り組みとしてスタート。'14年ごろは10軒ほどだったが、メディアで報道されたこともあり、子どもの貧困に関心を持った人が各地で運営を立ち上げ、'15年後半から'16年にかけ全国で一気に増加。

 子ども食堂の輪を広げる取り組みをする『子ども食堂ネットワーク』事務局の担当者は、「子育てが一段落した50~60代の主婦たちが、活動の中心を担っています。全国の活動団体は400~500。9割は市民が自発的にやっています」

 一方で冒頭の団体のように多くの課題も表面化し始めた。

 前出の三宅さんいわく、「子どもたちに食事をふるまう、という内容で踏み出しやすいのが注意点」という。

 始めてから苦労する団体は少なくない。

ボランティアの栄養士が考えた献立。旬の食材を取り入れ栄養バランスもいい

「最初の課題は場所とボランティアの確保、食材の調達。クリアできたら無理のない頻度で細く長く活動することが肝。大切なのは子どもの声を聞き、向き合うこと。子どものためと思っている支援が大人の押しつけだったら、子どもは来なくなります」(同)

『子ども食堂』の運営者の多くが同じ悩みを抱えている。これらの壁にぶち当たり、活動への不安と直面、継続をあきらめた団体もあるそう。

おじさんが来ても大歓迎

 徳島県で『子ども食堂』を運営していた森哲平さんらは4か月で撤退した。問題は、場所とボランティアの確保。

「バーとして使っていた店舗を借りたので、コンロは少なく、食事するイスも高く、落ち着きませんでした。運営メンバーは仕事を持っていて、シフトの調整が難しかった」

 決断はスパッと。その後、森さんは新たに試みを始めた。

「月に2回。おでんに限定してやっています。食材も集めやすいし、栄養バランスもいいし、煮込むことで衛生面のリスクもクリア、1人でもなんとか運営できます。子どもだけでなく大人、例えば、おじさん20人が来ても大歓迎」

 児童福祉の専門家で沖縄大学名誉教授の加藤彰彦氏は、

「団体の事情で運営をやめてしまうと、せっかく居場所ができ食も精神面でも安心していた子どもたちはがっかりして、大人に対し、あきらめの感情を持ってしまう」

 と指摘。しかし、ボランティア頼み、資金も自費では疲弊する可能性は否めない。

「例えば昔から貧困対策を続けるフードバンク、キリスト教教会や仏教寺院や組織がしっかりしている生活協同組合といった団体と連携するなど、団体に合った方法を考え、持続できるよう模索してほしい」と、加藤名誉教授はアドバイス。

 前出・三宅さんも呼びかける。

「『子ども食堂』を一過性のブームで終わらせてほしくない。『子ども食堂』がダメでも、違う選択肢もあります。子どもたちに関わり続けてほしい」

ボランティアがよそう料理を子どもたちが自分で取りにいく

 さらに、三宅さんは『子ども食堂』の地域を交えた活動についても提案する。

「子ども限定の支援ではなく、高齢者、障がい者など必要とする人が足を運べるよう受け皿を大きくすることもひとつ。自然と人が寄ってきて日常生活の一部に『子ども食堂』という空間があることはとてもいい」

母親たちの駆け込み寺の一面も

 前出・長場さんが実感していることはご飯が温かいメッセージになっていることだ。

「家事や育児に疲れたお母さんがホッとできる場所にもなっています。病気のときや共働きの人にも利用してもらいたい。子ども食堂がある日は安心して残業できる、という声を聞いたこともあります」

 今回、取材した『子ども食堂』に1歳児と小学1年生の子どもと初めて訪れたという30歳の主婦がいた。

「家事も育児も毎日がバタバタ。誰かが作ってくれたご飯を食べられることってすごく幸せです。ここに来て心が落ち着きました」

 母親たちの駆け込み寺のような一面も担っているようだ。

「子どもたちだけでなく、誰でも来られる場所です。私たちの活動は月に2回。10人弱の子どもが来ます。当初は小学校の校長先生にチラシを持って行っても軽くあしらわれ、保護者からは“何でただで食べられる?”と怪訝な顔をされたこともありました」

 と、長場さんは振り返る。

「子ども食堂には、ご飯を食べられない子が来るとの印象があるかもしれませんが、子どもたちの事情は私たちもわかりません。家庭の事情を詮索することはせず“家庭の食卓”という位置づけです」

 大きな家族のように、みんなで一緒に食卓を囲む。

 加藤名誉教授は、

「経済面だけでなく精神的貧困をともに解決する場が『子ども食堂』だと思います。『子ども食堂』は貧困対策のほんの一部。食を支援することで子どもも親も食べ物の心配がなくなります。すると次に何をしようか考えられる。誰かと会話しながら食べることで心にいい影響があります」

 子どもたちをいちばんよく知る学校との連携や次のような機能強化を提案する。

「誰でも食事ができる仕組みと、もう一歩進んで虐待、ネグレクトを受けている子どもには個別での支援や児童相談所など行政につなげるなど2段構えも必要。社会全体で子どもを支える仕組みづくりが遅い国に『子ども食堂』だけでは不十分な部分を伝え、要望していくことも重要です」

 子どもへの支援だけでなく地域の窓口として期待されるのが、今後の『子ども食堂』の姿かもしれない。