千葉県の森田健作知事は森会長に「もっといい波がきます」とサーフィンが行われる釣ヶ崎海岸でアピール

「小池知事の3連敗。“都民ファースト”が他県に通用するはずがない」

 と全国紙の五輪担当記者。

 東京開催決定からもうすぐ4年がたつのに、費用負担の押しつけ合いが続いている。

 争点は、7道県14会場が予定されている、都外の競技会場に絡む費用だ。都内の会場は東京が金を出すから、都外は地方の金で……という東京都の提案に対し、地方知事らが「招致時の約束を守れ」と一斉に反発。安倍首相に“直訴”するなど強硬姿勢をみせてきた。

「東京はまず、大会後に解体する臨時観客席など仮設施設の整備費約500億円は都が負担することにした。次に施設にかかわる営業補償費50億円を引っ込めた。最後に会場周辺の輸送・警備費など350億円の負担を求めたが、“積算根拠がない”と押し返されて3連敗」(前出の記者)

 招致時の立候補ファイルは費用総額を8000億円としている。しかし、輸送・警備費を含めた金額ではなく、約2兆円規模に膨れ上がった。小池知事はコストカットの努力を続けているが、地方に“金を出せ”は無理筋だろう。

震災の復興を優先のためお金はない

 2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会、東京都、国、各地方自治体が5月31日に開いた4者協議では『立候補ファイル』の原則に立ち返り、費用分担について確認した。

 ある地方自治体関係者は、

「計算すると、だれかが都外の会場周辺の輸送・警備費など350億円を払わないと金額が合わなくなる。今後、業務内容を含め整理・精査するとしているが、東京がまた難クセをつけてきそうで怖い」

 と警戒する。

 都外の会場で、大会後も利用する恒久施設をつくる場合は地元負担になる。通常の行政サービスも地元負担だ。しかし、五輪特有の行政サービスは地元負担にならない。検討されるのは行政サービスはいずれも五輪絡みとなるため、線引きが難しい。

 例えば、花火大会などで地元の混乱やケガ人の発生を防ぐために警察官を派遣することまでは通常の行政サービスとみられる。しかし、五輪がらみでそれを上回る警察官動員が必要とみたとき「都が増員分の人件費を払え」と言えるか。自治体によって事情も異なる。

 宮城県は県所有のスタジアムでサッカーを行う。同県オリンピック・パラリンピック推進室は「'01年宮城国体と'02年日韓サッカーW杯で使用するため建設したスタジアムなので老朽化が進んでいます」と認める。

「しかし、東日本大震災の復興事業を優先したいので極力お金は使いたくない。“1円も払いたくない”と言っているわけではないんです。例えば、トイレは国際基準では洋式だと思いますが、仮設で洋式にして大会後に和式に戻すのは効率的ではない。県民の理解を得られるグレードアップは検討します。汗をかく用意もあります」(同推進室)

 北海道でもサッカーの試合がある。プロ野球の北海道日本ハムファイターズの本拠地で、サッカーのJリーグ・コンサドーレ札幌も試合を行う『札幌ドーム』を使う。

砂浜に下り、積極的にサーファーに質問する森喜朗会長=6月7日、千葉・釣ケ崎海岸で

「ドームは札幌市が所有しています。しかし、五輪では道民のための警備、医療など一般的な行政サービスを実施します。道警は『さっぽろ雪まつり』でも雑踏警備などを行ってきましたし、道の所有物じゃないからといって何もしないことはありません」(北海道オリンピック・パラリンピック連携室)

 所有する札幌市は、

「おそらく改修の必要はない。細かい要望が組織委から出てきたら対応を考えます」(同市の国際大会推進課)

 神奈川県藤沢市の『江の島ヨットハーバー』ではセーリング競技が行われる。恒久施設の整備を計画している。

「江の島大橋は渋滞緩和のため'19年度をめどに2車線から3車線に増やします。ヨットハーバーに整備庫がないので、そういった機能を備えた施設と給油施設をつくります。競技ヨットは風を受けて走りますが、コーチボートや運営艇などエンジンを積んだ船はいま携行オイル缶を使っているので不便なんです。いずれも責任を持って県の予算でやります」

 と同県セーリング課。

一宮町の予算は限られている

 東京五輪で初めて採用されるサーフィンは千葉県一宮町の釣ケ崎海岸が会場になる。

 組織委の森喜朗会長(79)と同県の森田健作知事(67)は7日、現地を視察した。同海岸はサーファーの聖地として知られ、地元出身のプロサーファー大原洋人選手(20)らが迎えた。 

 森会長は居合わせたサーファーを呼んで「(サーフボードの)長さは決まっているの?」などと質問し、乗り方の説明を聞いている途中で「そのまま行け〜っ!」と海を指さしてふざけるシーンもあった。

 九十九里浜の南端にある一宮町は人口約1万2000人の小さな町。会場最寄りのJR上総一ノ宮駅は線路の片側にしか出口がなく、踏切を渡らないと海へ行けない。輸送にかかわる問題だが、同町の予算は限られている。

「現状で釣ケ崎海岸にあるのは排水の上澄みを循環させる“男女別エコトイレ”だけで更衣室はない。海水浴場ではないので海の家もない。シャワーは温水ではなく水で、1本の管に2つシャワー口があるだけです」(同町職員)

 千葉県自然保護課によると、県は同海岸に約1ヘクタール規模の駐車場と広場を整備する予定で、6月議会に補正予算として設計費4200万円を提案する。一宮町はこの広場に五輪開催地のレガシー(遺産)として更衣室や休憩所などを併設する『サーフィンセンター(仮称)』をつくりたい考えだ。350億円の一部を負担する余裕などない。

 東京都は350億円について「あくまで規模感を示したもの」(オリンピック・パラリンピック準備局総務課)と弁明する。組織委は増収努力をはかるとしている。

「スポンサー料、グッズ売り上げ、チケット販売で少しでも多くの増収をはかる」と同委・戦略広報課。

 荒稼ぎに期待するしかない。