ワンちゃんが高齢者に与える効果とは?

 最近、テレビや雑誌などでペットの健康効果が特集されるようになった。犬や猫などペットと触れ合うことが、心身の健康にいい影響を与えるというのだ。30年以上にわたりペット業界で活躍してきた橋長誠司氏によると、現在人気の猫ちゃんよりも、ワンちゃんが高齢者の健康増進に役立つという。

 このたび、『一流犬をつくる最強の食事法』を上梓した橋長氏に、ワンちゃんが高齢者に与える健康効果について語っていただいた。

ワンちゃんを飼うと健康寿命が延びる!?

 先日の『週刊文春』(6月8日号)で「ペットを飼えば健康長寿!」という特集をやっていました。犬や猫などペットの健康効果について私どもはよく認識しておりましたが、一般週刊誌でもこのような特集を組むようになったのかと感慨深いものがありました。

 超高齢化社会を迎え、ペットの高齢者への健康効果について、ますます関心が高まっていくことでしょう。

 健康へのよい影響というと、ペット全般に当てはまることでしょうが、こと高齢者にとっては、猫ちゃんよりもワンちゃんがおすすめだと思います。散歩の必要から飼い主の運動量が増えますし、猫以上に世話を焼かなければいけないことが“やりがい”に結びつき、心の健康を増進すると思うからです。

 現在、ペットフード協会の名誉会長で、日本ヘルスケア協会の理事でもある越村義雄氏もこう言っています。

当記事は「東洋経済オンライン」(運営:東洋経済新報社)の提供記事です

「私がペットフード協会会長だった時代に行った調査では、興味深いデータが出ました。『犬と暮らし、犬と散歩に行く人』は『ペットと暮らしていない人』と比較したとき、健康寿命が男性で0.44歳、女性で2.79歳も長かったのです。

 特に女性で健康寿命が大きく延びている理由は、高齢の女性に多い関節炎などが、犬との散歩で予防できるからだと推測されています」

「また、ペットと暮らして健康効果が出れば、病院へ行く回数が減りますし、医療費の削減も期待できます」(越村氏)

 今後は、こうした高齢者の健康面からも、ワンちゃんを飼うことが見直されるのではと思います。

ペットとの触れ合いで分泌される「幸せホルモン」

 実は、犬が高齢者の健康にいい影響を与えることは、欧米社会ではすでによく知られていて、多くの医療機関などでその効果の利用が進んでいます。

 日本でも、老人ホームに犬を派遣して、お年寄りと犬との触れ合いの場を提供するような試みが行われています。それまではニコリともしなかったお年寄りが、犬を抱っこすると表情が変わり、感情が生き生きしてくるそうです。

 実際、ペットが高齢者の精神にいい影響を与えるという研究が報告されています。麻布大学などによる調査では、ペットと目を合わせたりなでたりすることで、「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンが飼い主に分泌されることが明らかになっているそうです。

 こうした、動物によるいい効果を利用することをアニマルセラピーと呼びますが、日本ではまだまだ社会的な認知が広まっていません。

 日本でワンちゃんによるアニマルセラピーを提供している株式会社ピーリンクの社長・藤森隆一氏は、現在の状況についてこう話してくれました。

「日本ではまだまだアニマルセラピーの知名度が低く、実績も少ないので、高齢者施設などでアニマルセラピーが実施されるケースは多くありません。

 でも、高齢化がどんどん進行している日本でアニマルセラピーの有用性が理解されれば、現在、直面しているさまざまな問題を解決する一助となるはずです」

 そして、アニマルセラピーは、高齢者問題について具体的にどのような効果を期待できるのか、藤森氏は詳しく説明してくれました。

「高齢者施設においては、刺激が少ないことや活動が制限されることなどから、入居者の社会性が低下し、抑うつ状態を招いたり、認知症が悪化したり、暴力や暴言が増えたりなどの問題が起こっています。

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 ところが、アニマルセラピーを実施すると、入居者にとって精神的にも身体的にも良い刺激となり、これらの問題が改善されていく傾向があるのです。

 実際、弊社が実施しているアニマルセラピーのひとつ、『ペットシェア』によって、施設のスタッフから具体的な効果があったと喜ばれています」

 高齢者施設からは次のような感想が寄せられているそうです。

●普段笑わない人が犬と触れ合うことで笑顔になった。

●口数の少ない人が犬にたくさん話しかけていた。

●犬が来ると施設内が明るくなる。

●入居者とスタッフに親近感が出た。

「このように、アニマルセラピーは高齢者施設の問題の解決に役立ちます。ぜひ、日本社会全体に広く理解が広がってほしいものです」

 と藤森氏は語っています。

トイプードルは飼いやすい

認知症の予防・改善も期待できる

 高齢者と犬との触れ合いによる効果を、箇条書きにしてみます。

(1)生理的・身体的効用

・犬に話しかけたり、犬を話題として周囲の人と会話することにより、発語が増える。

・犬をなでたり、食事を与えたり、散歩をさせたりすることにより、運動量が増える。

・犬と触れ合うことにより、ドーパミンやβエンドルフィンなどの神経物質が分泌される。

・これらにより、認知症の予防や改善が期待できる。また、リラックス効果や、運動機能の改善、血圧の低下、ストレスの軽減、筋力維持が期待できる。

(2)心理的効用

・「世話をされている」という自己認識から、「役に立っている」あるいは「何かしてあげたい」という意識へと変わることで、自尊心が向上し、自発活動が増える。

・「犬に触れたい」という動機づけから、うつ症状や無気力、暴力などが改善される。

(3)社会的効用

・犬を通じて会話が増えることにより社交性が出る。関心対象も増える。

・高齢者施設などにおいては、他の入居者やスタッフへの親近感が増す。

・犬といることにより孤独感が軽減する。

・日々の犬の散歩などにより、定期的な生活習慣が身に付く。

 以上のように、ワンちゃんと高齢者が触れ合うことの効用は大きく、超高齢化時代の日本では、アニマルセラピーには大きな可能性が開けているのです。

 実は私自身、チワワの7歳のオスのワンちゃんを飼っているのですが、毎朝、散歩に連れていくと、高齢者の方々が愛犬とともに元気に散歩をされているのをよく見掛けます。“ワンちゃん友達”との交流も楽しんでおられるようです。

 その姿を目にしながら、愛犬と仲良く過ごし、散歩仲間とのコミュニケーションを深めることで、健康寿命を少しでも延ばしていただけたらいいなと思っています。

 なお、高齢者の方がワンちゃんを飼う場合、運動量が少なく扱いやすい小型犬がおすすめです。エサ代もさほどかかりません。トイプードルなどは賢いですし、特にいいのではないでしょうか。

 現在日本では、犬の飼育数が低下傾向にありますが、こうした高齢者視点からも、社会全体でワンちゃんを飼うことの意義を見直していただきたいと願っております。


橋長 誠司(はしなが まさし)◎ピーリンク顧問 30年以上にわたりペットフード流通の第一線で活躍。ペット業界の裏表を知り尽くした男。「ペットフードの日」の名づけ親。1962年生まれ。大学を卒業後、共立商事(現在の共立製薬)に入社。MR(医薬情報担当者)として、動物病院に対する動物用医薬品(ワクチン、駆虫薬など)、食事療法食の営業に従事。その後、ユニ・チャーム、日本ヒルズなど国内外のメーカーでペットフードのマーケティングに携わる。この間、国内のペットフードビジネスを盛り上げる目的で、ペットフード協会に対して「ペットフードの日」を提案。これが実り、現在、毎月20日がその日になっている。ドッグライフカウンセラーの資格を持ち、しつけを含め人と犬の生活を快適に送ることができるよう、ペットオーナーに対してもアドバイスを行っている。現在は、ペット関連情報等の発信などを行っているピーリンクの顧問を務める。