父母娘、トリプル介護が始まった

 ’08年に両親が西宮に来てトリプル介護が始まると、戸惑うことばかりだった。

 認知症の父は真夏なのに「寒い、寒い」と言って洋服を着こんでコタツまで引っ張り出す。脇谷さんは「こんなに汗をかいているってことは暑いんだよ」と説得しようとしたが逆効果。室温が33℃を超えても、父は頑としてクーラーをつけない。脳梗塞を患い不整脈もある母は、ついに熱中症で倒れてしまう。

 脇谷さんが衰弱した母を自分の家に連れていくと、父は娘を「女房泥棒」だと思って激高し、殴りかかってきた。

 ことの次第を医師に話すと「お父さんはあなたに怒っているのです。あなたの介護が間違っていたからですよ」と指摘され、脇谷さんは自分の頑張りを全否定されたような気がした。

「3度のご飯を用意して、掃除をして、必死になってやってるのに、私のどこが悪いんよと腹が立ちましたよ」

 救いの手を差しのべてくれたのは、かのこさんを担当するヘルパーの青木智子さん(51)だ。青木さんは老人介護施設で働いた経験から、こんなアドバイスをした。

「とりあえず何でも、“あー、そうなん、大変やね”と言っとったらええねん。おじいちゃんに来るな言われたら、当分行かんかったらいいやん。そのうち怒っていたことも忘れると思うよ。忘れるのが認知症やから」

 青木さんは、脇谷さんが頑張って手をかけすぎることが気になっていたそうだ。

「お母さんはかのちゃんを一生懸命育ててきたから、自分の親にも同じようにせなあかんと思ってたみたいです。だから、私の話も初めは“エー、そんな軽い調子で大丈夫なん?”と思ったみたいですが、 そのうち“そういや、お医者さんにもそう言われたな”と自分で気づいて、学んでいかれたんですよ」

 結局、クーラー騒動は、いつも冷静に見守ってくれていた脇谷さんの夫が、窓につけるクーラーを設置することで、一件落着した。

かのこさんは胃ろうで栄養剤や水分をとっている。以前、鼻から胃までチューブを入れていたときに比べると、格段に楽になった 撮影/齋藤周造

 昨年10月、脇谷さんは父を97歳で看取った。8年にわたるトリプル介護の日々を『晴れときどき 認知症』にまとめ今年7月に出版した。

 今はダブル介護だが、昼間はヘルパーや訪問看護師などが次々とやって来る。合間にかのこさんの痰の吸引をしたり、着替えをさせたり。

 目の回るような忙しさなのに、風呂入れを担当するヘルパーが脱水症状にならないようにと、冷たい飲み物を用意する気遣いを忘れない。

 脇谷さんは一見、強そうに見えるが、それは強くならざるをえなかっただけで、本来はとても繊細で情が深い人なのだろう。そうでなかったら苦労を承知で、両親の介護までできるものではない。