12月5日に行われる、民事訴訟の初公判を前に

──加害者が社会で成功しているなど力関係に差がある場合、なお告発は難しい。

「日本社会は上下関係が厳しく、コーチや先生、職場で力が上の相手などには歯向かえないような人間関係にある。そのとき、どう抵抗すればいいのか。イギリスでは、被害者がどう抵抗したかではなく、加害者のほうが性行為の合意を取ったかどうかを証明しなければなりません。スウェーデンも、その方向に動いています。日本でも改善されなければならない問題です

──被害者に対する社会のサポート体制も不十分だ。

「被害の証拠を収集・保存するための『レイプキット』を設置した病院を増やすことが必要です。1か所に連絡するだけで治療や支援を受けられる、ワンストップセンターもきちんと機能させなければならない。スウェーデンにはレイプ緊急センターがあり、男性も女性もケアを受けられ、被害に遭ったらそこへ行けばいいということが周知されています。親や友人など周囲のサポートも大きいです」

──12月5日に民事訴訟の初公判が迫る。訴えた相手が政権に近い人物とあって、政治的な側面にスポットが当たることも多い。

「民事訴訟は不起訴相当となった検察審査会の結果とは関係なく最初から提訴するつもりでいました。できることはすべてやろうと。もちろん、何のための検察審査会なのか? とは思います。新たに問わねばならない疑問が生まれた。

 政治的な扱いをされるのは、本当は何があったのかということが明らかにされていないからです。真実がわかれば、そんな議論は必要なくなるでしょう。日本は民主主義で法治国家だと思ってきたのに、逮捕状が出されても現場で逮捕されなかったことへの明確な説明がいまだになされていません。こうした前例が1つでもあったら、今後も起きてしまうおそれがある。

 これ以上、同じような被害を出してはいけないし、もし大切な人が私の体験をたどってしまったらと考えると、こうしたすべての問題点を今すぐにでも変えなければと強く思います」

【明らかになっている事実】
・2015年4月、伊藤さんは就職に際し必要な就労ビザについて相談するため、TBSワシントン支局長の山口敬之氏(当時)と都内飲食店で会食
・山口氏は伊藤さんが「泥酔した状態」と認識していた
・山口氏は宿泊先のホテルに伊藤さんを連れて行った
・性行為があった
・伊藤さんの下着のDNA検査を行ったところ、山口氏のものと過不足なく一致するY染色体を検出
・伊藤さんは警視庁高輪署に相談。のちに被害届を提出、告訴状を受理される
・’15年6月、ホテルの防犯カメラ映像、タクシー運転手の証言などの証拠を集めて警察は準強姦罪の容疑で山口氏の逮捕状を請求、裁判所が発行を命じる
・’15年6月8日、アメリカから帰国する山口氏を逮捕するため、複数の捜査員が成田空港で待機していたが、逮捕直前に執行が差し止められる
・’15年8月、警視庁が準強姦罪の容疑で山口氏を書類送検
・’16年5月、東京地検が嫌疑不十分による不起訴処分を決定
・’17年5月、伊藤さんは検察審査会へ不服申し立てを起こした後、司法記者クラブで顔と名前を公表して会見
・’17年9月、検察審査会が不起訴相当を議決
・’17年9月、伊藤さんは山口氏を相手取り東京地裁に民事訴訟を起こす
・’17年12月5日、民事訴訟の第1回口頭弁論