山崎育三郎 撮影/伊藤和幸

丸裸になって初めて表現できる難役

「この役は、限界へのチャレンジが必要なんです」と、山崎育三郎さんが語るのは、ミュージカル『モーツァルト!』の主役、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。世界中の誰もが知っている、ウィーンが生んだ音楽の天才だ。

「ハイテンションからどん底まで、激しく揺れ動く彼の感情と人生を音楽で表現しているから、音域が広い。出ずっぱりですし、最後は死に向かってものすごいエネルギーを使うので、逃げ場がないところまで追い詰められる。丸裸にされたような気分になるんです

 特別な思い入れを抱いているというこの作品と山崎さんが出会ったのは、彼が高校生のころだった。

僕は12歳のときに子役でデビューをしたんですけど、ちょうど声変わりで思うように歌えなくなって舞台を離れ、すごく落ち込んでいる時期でした。これを見て“あの役をやりたい!”って強く思ったんです。『僕こそ音楽』という楽曲を歌うヴォルフガングが、歌うことが嫌いになっていた僕に“なんて自由に歌っているんだろう!”と響いた。“まず音楽を楽しまなくちゃ、音楽が好きだという思いがないと歌えないんだ”というところに、もう1度立ち戻れたんです」

 その夢は、彼が23歳のときに叶った。井上芳雄さんとのWキャストで、この作品にヴォルフガング役で大抜擢されたのだ。

「いま振り返ると、音楽を楽しむどころではなかった。技術的にも追いついていないし、体力も歌も芝居も、全部が“できない!”って思った瞬間は何度もありました。ほかのみなさんは再演だから、できあがっているところにひとりで入る難しさもあって。でも、ヴォルフガングはどんどん孤独になっていくという役なんです。

 だからヴォルフガングの考え方や言葉に励まされたんです。“僕は僕しかいない”とか“ありのままの僕を愛してほしい”、そういう言葉が僕とリンクし、奮い立たせてくれて。“自分自身が全力でやったら、それでいいじゃないか”と思えたんです。“これでもうダメで、仕事が何も来なくなったっていい。自分が自分自身に納得がいくと思えるところまでがんばろう”という気持ちになれたから、なんとかやれたんだと思います」

 2014年の再演では?

「少しは楽しめるようになりましたが、一方で“大変な役だ!”と改めて思い知らされました。僕は自分のことを天才だなんて思っていませんが、“音楽=愛”という気持ちで、“僕こそ音楽”と信じて歌えるようになりました」