生活実態に合う法律になってほしい
小野さんと西川さんは、東京都世田谷区が定めた「同性パートナーシップ宣誓」を利用している。同区は'15年11月から、「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」に基づき、要綱で整備してきた。
2人が宣誓した制度の趣旨は、「同性カップルの気持ちを区が受け止める」というもの。これに小野さんは疑問を抱いていた。
「法的な拘束力はないのに、行政へ個人情報を渡さないといけない。この意味が正直わからなかったのですが、応援してくれる人と話す中で、存在を示すことの意味があると思いました」
宣誓の3か月後、意義を実感する出来事があった。小野さんが乳がんになったのだ。
「病名を告知されるのは家族のみ。そのため、区が発行した宣誓書を持って病院に行き、書類に続柄を“同性パートナー”と書きました。次男が小さいころ、入院することになったときは、西川さんが付き添いを断られたので心配でしたが、今回は家族と認められました。宣誓しておいてよかったです」
宣誓と同様の制度は105自治体にまで広がったが、法的効力は限定的。そのため同性婚の法制化を求め、東京地裁でも審議が進んでいる。
「伝統的な価値観は私も大切にしています。ただ、同性のパートナーと家族として暮らしてきたので、その生活実態に合う法律になってほしいんです」
地方でゲイふうふが暮らすということ
香川県三豊市。県西部にあり、高松市、丸亀市に次いで県内で3番目の規模の都市だ。その三豊市で'20年1月、四国で初めての同性パートナーシップ宣誓制度が整備された。
初めてこの制度を利用したのが、田中昭全さん(43)と、川田有希さん(36)のカップル。一連の裁判での大阪訴訟の原告だ。
実は前年2月、2人は市役所へ婚姻届を出していた。法律で認められていないため、結果は不受理。ただ、市は同性パートナーシップ宣誓制度を作ろうと考えていた。以来、田中さんと川田さんは、市と「どんな制度が必要か」について意見交換をしてきた。
川田さんは「法的効果はないので、宣誓によってすぐに何かが変わったわけではない」と話す。だが、田中さんは「自治体が制度に絡んだことで、市民病院が、通常は家族にしか認められない病名の告知や入院時の付き添いを認めることなどを“同性カップルにも配慮します”と断言してくれました。僕らのことが報道されたこともあり、親類がお祝いしてくれました」と言う。
2人とも同性愛者と自覚した時期は「小学5年生」。ただ生まれ育った時代が違うことで、同性愛に対する思いや行動は異なっていた。
1985年生まれの川田さんは、ネットでほかの同性愛者と交流があり、「ひとりではない」と感じていた。電子掲示板でもつながり、高校時代は年上の男性と付き合っていた。
家族も同性愛に理解があった。母親は元・美容師で、父親は元・音楽関係。姉もいるが、偏見はなかったという。ただ、友人たちに同性愛者であることは告げなかった。
「悩むことはなかったです。恋バナをするような友人もいませんでしたし。だからでしょうね、カミングアウトの必要を感じていませんでした」
初めてカミングアウトしたのは大学生のころ。大学では多様な人権問題に取り組んでいたため、周囲は同性愛に理解があったという。