その上で、前任者である久米宏さんへのリスペクトも口にする。

久米宏のアナウンス力に驚愕

黒柳さんはもちろんですが、久米さんの10秒の中に入れる言葉の密度、情報の密度ってすさまじいものがある。

 先述したように信じられないくらいタイトなスケジュールですから、久米さんも早口になる。

 コマーシャルに行く前の残りの5秒で、何を伝えるのか、どんなオチを付けるのか、その判断力がすごい。まるでフェンシングの攻防みたいな感じですよね。どこまで僕ができていたかはわからないけど、結果的にものすごくアナウンサーとして鍛えられた2年半だった」

 ちなみに、黒柳さんとの間で決まりのようなものはあったのですか? と聞くと、「特にはなかったかな」と前置きした上で、「黒柳さんから言われたのは、『松下さんはものすごく態度が大きい。でも、それが逆にやりやすかった』って」と豪快に笑う。さすがは、“世界の松下”だ。

たしかに、調子に乗りやすいところはあったと思う。一度、田原俊彦さんが玉乗りをしながら歌うという回があったんだけど、僕にもできそうだなって思ったから、『簡単なもんだねぇ』って言っちゃったんですよ。そしたら、『松下さんもやってみます?』って言われて、やってみたの。そしたら、見事に転んで大変なことになった(苦笑)

 さらには、玉置浩二を怒らせてしまった(!!)こともあったと打ちあける。

「別のスタジオで演奏する安全地帯を紹介する回だったんだけど、いつもの調子で紹介したら、メインのスタジオではないため“ランキングボード”がない! 別スタジオであることを思い出したときには、時すでに遅し。ボードがあるていで紹介しているから、タイミングが合わず安全地帯との掛け合いが噛み合わない。

 生放送なのにやり直しすることになり、なんとも締まらない曲紹介になってしまった。歌ってくれたものの、玉置さんは演奏が終わると怒ってすぐに帰ってしまって。申し訳ないことをしたと反省しきりです

 たしかにスリリングすぎる! 生放送ならではのドキドキ感があったからこそ、『ザ・ベストテン』は高視聴率を連発することができた。だが、それだけではないと松下さんは続ける。

「『ザ・ベストテン』は音楽番組でありながら、情報番組でもありました。時代性やニ ュース性を織り交ぜながら、どうしてその曲が流行っているのか――そういったことを加味しながら、スタッフも番組を作っていた」