そして関係者の男性は、スマートフォンを手に取り、1本の動画を見せてくれた。それは佐々木被告が飲み会でカチューシャを頭につけて、ネコのモノマネをする映像だ。

佐々木被告が飲み会でカチューシャをつけてネコのモノマネ(関係者男性提供)

「この動画がすべてを物語っているように感じます。殺すほど恨む相手の横で、こうやって振る舞えますか? 一緒に遊んでいる時は、佐々木も心から楽しんでいるようにしか見えなかった。佐々木が見せていた姿は、すべてウソだったのか……。しかし、犯行は計画性が高く、何も理由のない人間が事件を起こすとは考えにくい。佐々木の中で、何か耐えられないことがあったのかもしれません。

 俺は事件の1年前にふたりと出会ったばかりでした。だから、それ以前に何かボタンの掛け違いがあったのではないかとも思うんです。佐々木がなぜボスを殺したのか、まったく理由がわからないから怒りも沸きません。あの楽しかった時間を、なぜ壊したのか。答え合わせをさせてほしい」

 極道の妻である前出のユキさんも、事件の真相を追い求めてきた。

「佐々木はいつも“ボスのために”と言っていました。だからなぜ事件が起きたのか、さまざまな人に話を聞いて、何があったのか、どうして夫は殺されたのか。探偵のようなことをして調べたんです。でも、何も出てこなかった」(ユキさん、以下同)

事件を思い出して包丁が握れない

 現在、ユキさんはシングルマザーとして幼い子どもを育てている。子どもを寝かしつけた後、毎晩のように事件について振り返り続けた。

「どんなに考えても、いくら話を聞いても、何もないんです。だから、夫の誕生日である3月に“何もなかったんだ”と結論を出し、考えることを手放しました。1年が経ち、少しずつ“もう夫はいない”ということ、私ひとりで子どもを育てるという“新しい家族の形”を受け入れられるようになってきたんです」

 事件直後には、その精神的な負担から片耳が聴こえなくなり、難聴の診断を受けたが今は回復したという。生活への支障はほかにも。

「夫が殺害された事件現場を見たことで、包丁を握ることができなくなりました。現場の様子や佐々木の顔がフラッシュバックしてしまうんです。でも、子どもに何か食べさせなければいけませんから、ハサミで食べ物を切って、必死に料理をしていたんです。時間が経ち、今もフラッシュバックはあるけれど包丁は握れるようになりました。悲しいけど、慣れてきてしまった部分もあるのだと思います……」