生きるために全国を飛び回った

 そして、医師である小林先生自身も、不安と恐怖で悩み抜き、藁にもすがる思いで、手術などの一般的な治療(標準治療)を補うための代替医療をはじめ、さまざまな治療法を探した。

「手術が決まってから実際に受けるまでに2か月ほどの時間があったのですが、真っ先に、岐阜県にある、がんサバイバーの医師がつくった“がん患者が自分を見つめ直すこと”を目的とした宿泊施設に連絡しました。

 自然の中で睡眠や食事、運動、笑いなどの大切さを再認識し、自然治癒力を高めるものですが、その施設に滞在するうちに心と身体がほぐれ、穏やかな気持ちで手術に臨むことができたと思います」

 また、高確率で再発、転移すると宣告されていたため、術後も日本全国を飛び回り、いろいろな治療を受け続けた。

「免疫治療や遺伝子治療、温熱療法、波動医学、漢方、食事療法、鍼灸や気功、ヒプノセラピー(催眠療法)など、あらゆる医療を受けました。お金と時間をどれほど費やしたかわかりません」

 一般的に、西洋医学の医師はそういった代替医療に否定的な人が多い。なぜ、小林先生はそれほど代替医療に頼ったのか。

「確かに多くの医師は自分の患者が代替医療を受けることを嫌がります。自分もそうでした。明確なエビデンスがなく、自分が行う抗がん剤などの治療効果を正確に判定できなくなるからです。ただ、患者になってみればわかりますが、患者は生きるためにあらゆる可能性を探したくなるものなのです」

 また、医師はたしかに国が定めた診療ガイドラインを重視はするが、かといってそれが完璧だと考えているわけでもないと小林先生。

「私は診療ガイドラインに基づいた標準治療は人類の知恵の結晶で、とても大切なものだと思っています。ただ、標準治療にも限界があります。人間の本来持っている“治ろうとする力”が見過ごされていると思うからです。そこを補うのが代替医療で、標準治療とバランスよく融合させることがとても大事なのではと考えています」

 また、先生以外の医師も、いざ自分ががんになると、あらゆる可能性を求めることが多い印象があるとも話す。

 では、医師と違って知識を持たない一般の患者はどうすればいいのか。

「知識がないからと医師に丸投げするのではなく、主体的に考えてほしいと思います。主治医だけでなく、いろいろな医師に会って話を聞いてみるのもいいですね。そして、身体を労りながら、自分の生き方や価値観と照らし合わせてどうしたいかを決めて、自分で選択していくことが大切です」

 それと同時に、主治医には、患者さんの思いを包み込む寛容さが求められるのではないかという。

「患者さんが考え抜いた選択によって、もし寿命が短くなる可能性があっても、本人の幸せにつながるのであれば、その選択を尊重して応援をする、そういう医師が増えてほしいと思います」