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神奈川県川崎市で生活保護を受けているある家庭の女子高校生が、修学旅行に行くためにドラッグストアで時給830円のアルバイトをして、旅行代を自分で振り込んだ。しかし、川崎市は「娘のバイトは未申告。保護費を返せ!」と迫ってきたという。

「どうしようかな……。困ったな。まあ、どうぞ、汚いところですが、お入りください」

 生活保護を受けて暮らす父親(53)はそう言って、記者を自宅に招き入れた。

 2010年に公立高校2年生だった長女(当時15)のアルバイト収入を申告せず生活保護費を不正受給したとして、川崎市が約1年間のバイト代計32万5986円を返還するよう求めたのは「不当だ」と裁判に訴えた。

 バイトは’10 年5月、長女が修学旅行費9万8000円を捻出するため始めたという。ドラッグストアのレジ係で時給830円。家族の生活費に充てたわけではなく、旅行費以外は大学受験料などに使った。自ら稼いだお金で進学の道を切り開いた。それを没収するのは筋違いではないか、と父親は主張した。

「生活はずっと苦しかったし娘もはじめは“修学旅行には行かない”と言っていた。でも周囲の友達の雰囲気につられて“やっぱり行きたい”となったんです。貧乏は自覚していました。娘が“何か買って”とせがんだことなどありません。定額のお小遣いをあげたことはないし、お年玉もなし。娘はいろんなことをガマンしてきました」(父親)

 ‘12 年10月の提訴から約2年半、横浜地裁(倉地康弘裁判長)は3月11日、川崎市の保護費返還決定を取り消す判決。父親の完全勝訴だった。

 判決は、修学旅行費分は「就学に必要な費用であることは明らか」と認めた。バイト代の残額についても「実際に大学に進学していて学業のために有効に活用されている」とし、「申告しなかったことでただちに不正とするのは酷」と理解を示した。

 長女は親に頼るわけにはいかなかった。訴状などによると、父親は電気工事の仕事をしていたが、’05 年ごろ心臓疾患が悪化して働けなくなった。会社員の母親はうつ病を患い、’08 年ごろ仕事を辞めた。貯金は’10 年4月に底をつき、生活保護を受け始めたばかりだった。修学旅行はその年の秋に迫っていた。

「生活保護は恥ずかしいことかもしれない。少なくとも胸を張れることではない。でも私は、自分のことは自分で何とかしようとする娘の成長がうれしくて、福祉事務所の担当ケースワーカーに“娘が修学旅行代に充てるためバイトを始めたんです”と少し自慢げに報告したんです」(父親)

 裁判では、娘のバイト開始報告の有無が争点のひとつになった。生活保護受給家庭では、たとえ子どものアルバイト収入でも申告義務がある。市は、親から申告がなかったことが生活保護法78条の「不正受給」にあたると判断して保護費返還を決めていた。

 父親は「申告が必要ならばバイトを報告したときにそう言ってくれればいいじゃないか」と主張し、担当ケースワーカーは「そんな報告は聞いてない。申告義務についてはパンフレットを読めば書いてある」と真っ向から対立した。

 判決は、市の不手際を指摘した。

「娘のバイト収入発覚後、市は使い道について両親に質問したことがない。処分決定にあたっても、使途が考慮されることはなかった。本件処分はその点で慎重さを欠いた」

 つまり、説明不足というわけだ。川崎市は控訴を断念し3月末に判決が確定した。

「反証する新材料がなかった。再発防止策として、高校生のバイト収入について説明するよう徹底し、受給者からは“説明を受けた”と署名してもらっている。判決は真摯に受け止めている」(同市生活保護・自立支援室)