■最高視聴率51.8パーセントを記録

 『旅の重さ』では女性同士のラブシーンやヌードなどもあった。それだけに、翌年にNHK朝ドラのオーディションを受けたとき、文学座も松竹関係者たちも無理だろうと思っていたという。

「今でもそうですけど、NHKの朝ドラといえば、清純みたいのが売りですからね。でもオーディションもどんどん進んで、周囲もさすがに、“アレ、これ受かっちゃうかも”みたいな感じになってきたんです。朝ドラのプロデューサーはNHKの上の人に、“ヌードになっていますけどいいでしょうか?”って聞きに行ったみたいですよ(笑)」

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'73年にヒロインに抜擢されたNHK朝の連ドラ『北の家族』で、共演した兄役の清水章吾(右)
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 平均視聴率は46.1パーセントで、最高視聴率は51.8パーセントを記録。まさに国民の半数が見たドラマだっただけに、高橋の名前は一挙にメジャーになった。

■同期の松田優作と共演した映画で

 そんな高橋と文学座で同期だったのが、俳優の松田優作だ。彼も映画『狼の紋章』やドラマ『太陽にほえろ!』に出演し人気を博していく。

「優作さんとは『ひとごろし』で共演しているんです。京都の東映で撮影したんですけど、私は東京から車を持っていったんです。シビックに乗っていたんですけど、彼が“いいなあ、乗せろよ”って。あの身体の大きな優作さんが、小さくなって助手席に乗ったんですよ。

 嵐山など、いろいろドライブしましたよ。それで、優作さんはよく焼き肉屋さんに行くの。でも、あの人はセンマイ刺しが大好きで、焼いたお肉は“洋子肉食え、食え”って、ほとんど私に押しつける。だから、あの映画では、私は太っているの。優作さんに太らされたのよ(笑)」

■女優業だけでなく芥川賞の候補にも

 女優として着実に実力をつけてきた高橋が、小説を発表したのは'81年のこと。デビュー作『雨が好き』で中央公論新人賞を受賞する。

「19歳で文学座に入って、29歳で新人賞をとるまでの10年間で階段を駆け上がるように女優をしていましたよね。小説を書いたのはきっと女優として不安だったんでしょう。いろんな役をやって、自分がどの役が合っているのかわからなかったり、少女の役で当たっちゃったため、大人の女性を演じるのに悩んだり……。

 たまたま藤田敏八監督と飲み屋で出会ったとき、“自分がどういうキャラか決める前に、小説を書いちまったなあ”って言われたんです。もっともだなって思いましたね。自分がこういうキャラクターだって決められなかったんですね」

 '82年発表の2作目『通りゃんせ』は芥川賞候補に。小説は50万部も売れるなど、文壇に認められた初めての女優となる。

「でも、次の作品を発表するのに7年も空いちゃったんです。純文学にこだわらず、もっと軽いものを書いていればよかった。やっぱり、私小説ってつらいんですよ。自分の身を削って、自分をいじめ抜かなきゃ作品は生まれないから。それよりも自分と同じような不器用な人たち、うまく生きられない人間をテーマにしていきたいですね」

■13年ぶり新作小説を発表

 今年4月に13年ぶりとなる待望の新作『のっぴき庵』(講談社)を上梓した。仕事がなくなった役者ばかりが入っている老人ホームが舞台で、やはり不器用な人間ぞろいだ。

「登場人物のキャラをこしらえていくのは、楽しかったですね。『のっぴき庵』のように、私はこれから社会に溶け込めなかった人たち、悩んでいる人たちを書いていきたい。みんな人生、不器用なところはあるでしょうから。女優のほうは隙間産業でしかないですよ(笑)。

 今回みたいに主演の映画なんて珍しいでしょ。今回の映画で演じ切って、こんな高橋洋子を使ってみたいという監督さんがいらしたら、どんどんチャレンジしていきたいですね」