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家の裏の排気口部分は火事のためか、煤で黒くなっていた

 東京・日野市の新興住宅街。帰宅した長女(15)は煙が上がる1階リビングで倒れていた父親・河西広之さん(45)を発見し、119番通報した。

 今月3日、午後7時30分ごろのことだった。

 それから2時間後の午後9時過ぎ。市内のコンビニのトイレで手首を切った女性Aさんが、救急搬送される事件があった。救急車に同乗した警察署員にAさんは「寝室にオイルをまき、ライターで火をつけた」と打ち明けた。その寝室で火だるまになったのが、Aさんの夫だった。

 地元の自動車メーカーに務める河西さん一家(夫婦と長男・長女)を知る近隣住人は、こう話す。

「7~8年前に引っ越して来た。10年はたっていないと思う」

 フィリピン人のAさんは、周囲に溶け込もうと必死だったそう。

「年2回ある地域清掃も、家族でちゃんと出てきて、“こんにちは”って自分から挨拶して、気さくな人でした」(近所の主婦)

 別の女性からはこんな話も。

「子どもの話をよくしていましたよ。自分は日本語が得意じゃないけど、娘がわからないところを教えてくれるから本当に感謝しているって」

 一家が一緒に買い物をする姿も、目撃されていた。

「本当に仲のいい家族で買い物に一緒に来ていました。子どもがジュースを欲しがると、お母さんがダメ! っていうけれど、お父さんが買ってあげてね。本当に何が起こったのか……。ショックです」(ショップ店員)

 JR日野駅前の飲食店でも、家族は食事を楽しんでいた。従業員の記憶に、黙って飲むばかりの広之さんと、対照的によくしゃべる陽気なAさんの姿が焼きついている。

 そんな明るい一家に、異変は忍び寄っていた。

「昨年11月、妻が警察に夫の暴力について相談していた」

 捜査関係者が、そう明かす。今回の事件の予兆だったのか……。

 近隣に、怒鳴り声やものを壊す音が響くことはなく、河西さんの同僚男性も「穏やかな人」と証言する。

 近所の飲食店従業員も「お酒で乱れることはなかった。何杯飲んでも強かったから」と。それでも何かに追い詰められるようにAさんの明るさがなくなっていったという。

「陽気な人だったのに、1か月くらい前から笑顔が消えましたね」(近隣住民の男性)

 警察も何度か来ていたようだ。

「普段は、あいさつをしたら“こんにちは~”って必ず返してくれるんですが、6月末からそれがなくなった。暗い表情で元気がない感じだった」(別の近隣住民の男性)

 河西さんは事件の翌4日、息を引き取った。Aさんは、夫の葬儀告別式が営まれた8日現在入院中だが、命に別状はないという。

 事件の詳細はAさんの回復待ちだが、一瞬にして家族がバラバラになってしまった子らは、どんな気持ちでいるのか。

「弟が小さいから私がしっかりしなきゃって。家族を守りたかったって言ってます。お父さんは私のことを理解してくれていて大好き、お母さんとはたまにケンカするけど、世界に1人だけのお母さんだって話してました」(長女の同級生)