分煙にしても意味がない理由は

東京・JR新橋駅前の喫煙スペース。仕切りの外で喫煙する人もいる(一部モザイク加工)
東京・JR新橋駅前の喫煙スペース。仕切りの外で喫煙する人もいる(一部モザイク加工)
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タバコの煙には鉛の成分が含まれており、多動性障害(ADHD)や学習障害の原因になる場合もある。思考や記憶力に影響するので勉強についていけなくなることも」(作田理事長)

 もうひとつ、危険なものがある。加熱式タバコだ。従来の紙のタバコとは違い、においも煙も出ないがニコチンなど有害な成分を含んでいる。

「ニコチンが原因で引き起こされるといわれる心筋梗塞や狭心症、呼吸困難やのどの炎症などが知らず知らずのうちに発症する危険があります。立派な受動喫煙ですが、煙もにおいもないので気づかないのです」(作田理事長)

 受動喫煙は分煙では防ぎようがない。「仕切りや空気清浄機で防ぐことはできません。ドアで区切ったとしても開けたときに煙は禁煙席に流れ込む。昼、夜で時間分煙をするところがあるが壁や天井にはニコチンやタールなど煙から出た有害物質がついているし、密閉空間は有害物質の密度も毒性も濃い」と作田理事長。

 山代教授も「洋服についた副流煙の有害物質は消臭剤では取れない。子どもの前でタバコを吸っていなくても仕事でついたタバコの煙が服や髪についていて、それで子どもを抱き上げたら有害物質は子どもに移ります。これも受動喫煙です」と話す。

 受動喫煙の危険に長時間さらされるのが飲食店などで働く従業員たちだ。九州看護福祉大学の川俣幹雄教授らが1万人以上にアンケートした結果、飲食店従業者の65・4%が厚労省の案に賛成だった。「女性や若者など、職場内で立場の弱い人は、タバコの煙が嫌でもなかなか声に出すことができないうちに身体を壊してしまう」と山代教授。パワハラならぬ“スモハラ”が生じている。

 作田理事長は厚労省案を評価しながら、「足りないのは建物内の全面禁煙に踏み切ること」と苦言を呈する。

 過去に「分煙」と「全面禁煙」との狭間に立たされたのが神奈川県だ。'10年に「受動喫煙防止条例」を導入。調理場を除く床面積100平方メートル超の飲食店は「禁煙または分煙」を義務づけた。しかし、100平方メートル以下の店舗に関しては努力義務にとどめた。同県たばこ対策グループの担当者は「違反すると喫煙者は2万円以下、店側は5万円以下の過料が科される」と説明する

 横浜市は人通りの多い市内6か所を喫煙禁止地区に指定。市の担当者は「喫煙禁止地区を示す看板を設置し、路面にも標示するなど、わかりやすく工夫しています」と話す。

 さっそく横浜駅に向かうと、なるほど。至るところに標示があり、駅前の喫煙スペースの中には多くの人。煙が充満する中で律義に喫煙する様子が見受けられた。しかし、日が暮れれば悪びれる様子もなく禁止区域でスマホ片手に堂々と喫煙する人影があった。

 受動喫煙の防止に取り組むのは自治体だけではない。JR東日本では一部、寝台列車などを除き全線で禁煙。東京メトロや小田急線は終日、全面禁煙を実施している。

 努力の形跡はあちらこちらで見えるものの、作田理事長は「不十分」と、ばっさり。

「自民党はスモーカーに甘すぎる! 五輪までに公共の建物内を全面禁煙にできなければ、日本は国民の健康も守れないのかと、国際社会から批判されるでしょう」

 決断が迫られている。