高齢女性を襲う「貧困」と「孤立」

いま、なぜ生活保護レベルの『下流老人』が急増しているのか?

2015年09月25日(金) 05時00分
〈週刊女性10月6日号〉
2015年09月25日(金) 05時00分
〈週刊女性10月6日号〉

 団塊世代のすべてが65歳以上を迎える今年、国民の4人に1人が高齢者に。初めての「老人大貧困期」到来が騒がれ、5年後には認知症高齢者が予備軍含めて推定800万人超。年金受給額の目減りや医師不足が叫ばれる中、介護保険料、介護施設の利用料は引き上げられ、負担は増す一方だ。長生きを手放しに喜べず、冥土の土産どころか、老後の生活すらままならない。かつて、支え合えたはずの“家族”が、いまや不安の種。共倒れをも招く悲しき時代――。リスクに備えた予防策が転落の分かれ道! まだ他人事だと思っていませんか?

高齢者が貧困に陥る4つの原因とは

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「もう疲れました。毎日、食べて生きるだけで精いっぱい。こんな老後が来るなんて思ってもいなかった」

 力ない声で、木村幸子さん(78・仮名=以下同)はそうつぶやいた。

 幸子さんは、築50年、雨漏りする一軒家で暮らす。4年前に夫が病死、同時に離婚して戻ってきた息子と同居するが、体調が悪いと言って働かない。

 会社員だった夫の退職金は、夫自身の長患いでほぼ使い果たした。今は夫の遺族年金と自身の基礎年金(国民年金)を合わせた13万円ほどで暮らす。

「息子は働かないくせに毎月3万円小遣いをよこせと言う。そのほかにもなんだかんだお金を持っていきます。パチンコでもやっているんでしょう。借地代や光熱費、持病があるので私の治療費や薬代を払うと、食べるのがやっとなんです」

 本当は息子に出て行ってもらいたい。だが、金をよこせと怒鳴り散らす息子が怖くて言い出せない状態。近所の人の通報で民生委員が来たが、

「あまりにみっともない話」なので、詳しいことは言えなかった。

 世帯を別にして、息子が働くよう仕向けるのがベストなのだが、78歳の幸子さんは「こんな息子に育てたのは自分の責任」と、ますますか細い声で話す。

 夫が生きているときは、年金が20万円近くあった。贅沢はできなくても、穏やかな老後を送っていた。それが夫の病気を機に一変。夫の死後は経済的にも精神的にも追いつめられている。

 今、こんな高齢女性は少なくない。既婚未婚、子どもの有無を問わず、貧困に直面する時代。決して他人事ではないのである。たとえ今、夫婦でそこそこの年金があろうと、数千万円の貯金があろうと、一気に“下流”へ転落することは珍しくない。

 『下流老人』(朝日新書)の著者であり、社会福祉士として貧困問題に取り組むNPO法人『ほっとプラス』代表理事の藤田孝典さんは、

「高齢単身女性の半数が貧困状態です。老後は長いですからね、たとえ預貯金があっても病気になったら使い果たしてしまう。昔だったら子どもがたくさんいたから、みんなでお金を出し合って親の面倒を見られた。でも今は少子化。しかも子どもだって非正規労働者で余裕がない。中年ニートも多い。子が親を支えきれないんです」

 と分析する。かつての家族機能や社会機能を失った、新たな世代が“老後”を迎えているのである。藤田さんはあるとき、400円の菓子パンを万引きした70代女性の相談を受けた。

「彼女は60代後半まで、洋裁を生業にしていたんですが、体調を崩して働けなくなった。貯金を使い果たし、40年かけてきた国民年金は7万円足らず。空腹で、つい菓子パンを万引きした。泣きながら“ごめんなさい”と何度も謝っていました」

 一生、頑張って仕事をしてきても、こんな老後が待っているのだ。

 和光大学教授で労働問題に詳しい竹信三恵子さんによれば、高齢者が貧困に陥る原因は4つある。

1 必要な生活費より年金が少ない。
2 多少の貯蓄をしていても、重い病気や予想外の出費があると払いきれない。
3 住宅ローンが残っているケース。
4 そもそも年金の制度設計に問題がある。

「日本型福祉社会の考え方では、福祉はまず家族がやる。つまり、保育も介護も家庭内の嫁のただ働きが原則なんです。そんな妻を夫は過労死するほど働いて扶養し、そうした支えがない人だけ国が面倒を見る、というシステム。だから女性が外で働くのに不可欠な保育や介護には税金が十分出ず、安いパートで働くことになる。保育士や介護士も“もとはタダの主婦の仕事”と値切られ低賃金になる。だから年金も低く、夫の年金に依存できない場合は貧困になってしまうわけです」

 一方、ヨーロッパ型福祉では、基本的に国は国民の最低限の生活を保障する義務がある。イギリスは医療費が原則無料。フランスでは公営住宅が日本よりずっと充実している。

 “収入がない、貯蓄がない、頼れる人がいない”この3つが下流老人を作りだすと前出の藤田さんは分析する。だが、もっとも怖いのは頼れる人がいないことかもしれない。例えば、基礎年金だけで暮らしていけなかったら、生活保護を一部、受給することもできる。そういう情報を得られるのも、親密に話せる人がいてこそ。

 これからはもっと貧困に苦しむ高齢者が増えていくだろう。憲法第25条にはこうある。《すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する》。文化的な生活とは何を意味するのか。そして、年金制度はこれを満たしているのだろうか。


取材・文/亀山早苗(かめやま・さなえ) ●1960年、東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動。女の生き方をテーマに、恋愛、結婚、性の問題、貧困や格差社会など幅広くノンフィクションを執筆する *本記事は『週刊女性』本誌10月6日号で掲載の特集《老人生き地獄社会》を加筆修正したものになります

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