東京電力福島第一原発の事故で、20キロ圏となった双葉郡8町村の人たちは福島県内外に避難し、バラバラになった。そのため10月10日、再会・交流の場として『ふたばワールド』を開催。一昨年は広野町、昨年は川内村、今年は帰還を果たしたばかりの楢葉町が会場となった。

 楢葉町は面積のほとんどが第一原発から20キロ圏内となったため、役場機能はいわき市と会津美里町に避難した。人口は、震災前の8042人が7368人に減少(8月31日現在)。そんな中、9月5日に避難指示が解かれた。ただ、町民の8割近くはまだいわき市内に住んでいる。

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いわき市内の仮設住宅。無償提供されていることもあって、現在でも住み続ける人は多い

 町が帰還を果たして1か月以上が経過したこの日、『ふたばワールド』のオープニングとして『ならは天神太鼓うしお会』が和太鼓を披露した。メンバーの多くが避難先に住んでいるため、練習する時間がなかったが、盛り上がりにひと役買った。泣きながら聞き入る人もいた。

 家族がバラバラになった町民も多い。いわき市内に住んでいても、家族で住まいが違うこともある。13・2%の町民は県外避難だ。

 では、どうすれば町民が戻ってくるのか。

 町では原発や放射線量の情報をきちんと公開していく必要性を感じている。そのため除染検証委員会や放射線健康管理委員会を設置。第一原発や第二原発の安全性を確認する原子力監視委員会も作った。

「委員会からわかりやすい提言を出してもらったり、町民向けの説明会もしている」(楢葉町復興推進課)

 仮に、町民に情報が行き渡り、安心感を得たとしても、働き口が少ない。親世代の仕事がなければ、子どもも戻らない。

 現在はいわき市内の小・中学校の仮設校舎で授業が行われている。人数は震災前の2割だ。このうち2人が町内から仮設校舎に通う。スクールバスで自宅まで送り、通学を支えている。

 町では、2017年4月には小・中学校が町内で再開予定としている。中学校は役場近くに校舎を建設した。再開時の在籍希望について調査したところ、小・中学生あわせて36人。震災前の5%、仮設校舎に通う子どもの2割強だ。

「震災前から少子化が進んでいた。当面は、中学校の新校舎で小学生も授業を再開する予定にしている」(同課)

 町として再生できるかは、若年世代がどれだけ戻ってくるのかが鍵だ。

 一方、高木毅復興大臣は就任の記者会見で、東京電力福島第二原発の再稼働を示唆する発言をした。第二原発は楢葉町と富岡町にまたがる。県議会では第二原発の廃炉を求める請願を採択したが、廃炉の方針を決めていない。仮設住宅で母と2人暮らしの女性(39)は心配している。

「残しているということは再稼働の可能性もあるということ。原発で地域が潤ってきた面もある。事故前は爆発しても、1週間くらいで帰宅できると思っていたが、もう怖い」

 原発事故のせいで町に住めなくなったが、原発があったからこそ仕事が増え、出稼ぎをしなくてもすんでいた。そんな住民たちにとっては複雑な心境だ。


取材・文/渋井哲也 ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。3.11以降、被災地を精力的に訪れ取材を重ねている。『復興なんて、してません』(共著・第三書館)ほか著書多数(*本記事では『週刊女性』11月3日号の内容に加筆修正してあります)