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※写真はイメージです。

 最近、再び活発な動きを見せている地震活動。それに伴い、地震雲の目撃情報がSNSを中心に相次いでおり、ネットでは専用の掲示板やTwitter上の情報をまとめるサイトまで作られているほどだ。

 科学的には「地震雲と地震とは関係がない」とも言われるだけにその真偽が気になるところ。実際のところ地震雲と地震との間に因果関係があるのだろうか? 東京大学地震研究所観測開発基盤センター・酒井慎一准教授にお話を伺ってみると――。

「地震は地殻の岩石が圧力によって壊れる現象です。岩石に圧力を加えると電位差が生じることは、実験室内では知られていますからその影響が、空中にも出るということはあるかもしれない。しかし、それが雲を生じさせることができるかどうかは、まだ実証されていないので、当然、地震と関係性があるかどうかも判明していない。研究対象として、電磁波や電波を考える研究者はいますが、地震雲であることを認定できる人はいないでしょう」

 一方、東日本大震災以降、一時注目されたのが月の満ち欠けが大地震の引き金になるという研究。こちらも以前から因果関係を指摘されてきた。これについて前出の酒井准教授は、

「地球はふだんから伸びたり縮んだりを繰り返しています。ギューっと押されている状態のときに、月の引力によって陸地や海水が引っ張られることで最後の一押しになる可能性はあります。特に、新月や満月のときは干満の変化が一番大きいため、断層が動きやすくなるでしょう。地震を発生させることのできるエネルギーが溜まっている地域に潮汐の力が加わることで、地震が起きるきっかけになった場合もあるのかもしれません」

 地震雲に比べると、まだ説明がつきやすいようだ。参考までに、主な巨大地震と月の満ち欠けとの関係について調べてみると――。

満月の6日後 1923.09.01 関東地震(関東大震災) M7.9

新月の7日後 1933.03.03 昭和三陸地震 M8.1

満月の7日後 1944.12.07 東南海地震 M7.9

新月の3日前 1946.12.21 南海地震 M8.0

新月の8日後 1952.03.04 十勝沖地震 M8.2

満月の4日後 1968.05.16 十勝沖地震 M7.9

新月の1日前 1969.08.12 北海道東方沖地震 M7.8

満月の1日前 1983.05.26 日本海中部地震 M7.7

満月の8日後 1993.07.12 北海道南西沖地震 M7.8

新月の1日前 1994.10.04 北海道東方沖地震 M8.2

満月の当日 1995.01.17 兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災) M7.3

新月の当日 2003.09.26 十勝沖地震 M8.0

新月の6日後 2011.03.11 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災) M9.0

 満月・新月の当日もあれば、7日前後も遅れて起きているケースもある。これでは確かな因果関係があるとは言えない。酒井准教授によれば、

「大きな地震の余震活動や群発地震活動の中には、潮汐と同期した12時間周期の活動変化を示すものもありますが、大地震に関しては、それがあまり顕著には見られません」

 このあたりが壮大な自然のメカニズムを解明する難しさなのだろう。酒井准教授によれば、火山の噴火ですら必ずしも地震と関連性があるとは言い切れないのだそうだ。

「10年前に比べれば今の日本における火山活動は活発ですが、火山の記録を見ると100年前、200年前の方がもっと活発だったことが分かります。大局的に見れば、現在の火山状況に対して過度に反応していると言えるほどです」

 続けて、酒井准教授はこう指摘する。

「地震計が誕生したのは約110年前です。今のような地震研究が行われるようになったのはここ50年くらいの話で、まだまだ始まったばかりですから、未解明なことがたくさんあるわけです。地震雲は顕著な例ですが、出所の分からない情報を鵜呑みにすることほど怖いものはありません。日本は世界で最も地震の研究が進んでいる国です。もし地震や火山の噴火が心配なら、研究や観測をきちんと行っている機関を調べて情報を得ておくことが望ましいでしょう」

 気象庁のHP(よくある質問集>地震について)によれば、日本及びその周辺で起こっている地震の数(2001年~2010年の平均)は、M5以上で年間150回以上、つまり1週間に3回も起きている。東北地方太平洋沖地震が起きた2011年に限れば、活発な余震活動の影響によりM5以上の地震は781回(1日に2回以上)、M6以上の地震に限っても100回以上(3日に1回)も起きていた。

 今ここで、何の根拠がなくても「1週間以内に関東地方でM6以上の地震が起きる」と書けば、偶然当たるかもしれない。私たちはそんな地震大国に住んでいるのだ。いざという時に右往左往しないために大切なことは、日頃から確証を求める理性的な態度と、災害がいつ起きてもいいように準備をしておくことではないか。

〈参考〉

文部科学省HP 地震・防災研究 関係機関一覧

http://www.mext.go.jp/a_menu/kaihatu/jishin/1285692.htm