原発避難者の声

自主避難者の選択「子どもを被爆から守るために離婚」も

2016年03月09日(水) 16時00分
〈週刊女性2016年3月22日号〉
2016年03月09日(水) 16時00分
〈週刊女性2016年3月22日号〉

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1号機の健屋カバー解体が進められる福島第一原発

 

 東日本大震災から間もなく5年の節目を迎える被災地では、風化がとめどなく進む一方、いまだ18万人以上が避難生活を強いられているのが現状だ。そこで生きる人たち、支える人たち、遠く離れて暮らさざるをえない人たちの誰もが疲れ切り、復興のかけ声ばかりがむなしくこだまする。

 マグニチュード9の激震に巨大津波、原発事故が襲った「複合災害」の爪痕は依然として深く、被災者の不安は尽きない。「3・11その後」を懸命に生き抜く人々の姿を追った。

 昨年9月に解除された楢葉町の杉山美恵さん(60代)は、「今の仮設に住み続けられるのなら、住み続けたい」と心境を漏らした。いわき市の仮設住宅での生活は、もう5年になる。住民の意向を聞く町のアンケートには「帰還する」と書いた。

 しかし、ようやく慣れた仮設住宅を出て、単身で楢葉町に戻ることにはためらいがある。一緒に避難した夫は'13年の夏に他界。「避難のストレスで、タバコも増えて。こんなに早く亡くなるなんて思っていなかった」と杉山さんは言う。

 夫は楢葉町に愛着があり「絶対に帰る」と言い続けていた。だが、避難指示の解除の時期を知ると、その夫ですら「早すぎる」と言った。1月現在、楢葉町に戻った人は人口の5.7%しかいない。

 杉山さんは車の運転ができない。移動は夫に頼る生活だった。楢葉町には仮設商店街はあるものの、自宅近くではない。買い物のためのバスが出るという話はあるが、杉山さんは、楢葉町に戻った生活を思い描くことができずにいる。

「本当に先が見えない」

 杉山さんは「どうしたらいいんでしょうね」と、ひとりつぶやいた。

 「震災から5年」という言葉がメディアに並ぶ。しかし、これに多くの避難当事者は違和感を抱えている。ある避難者は言う。

「私たちは原発事故で過去も未来も奪われた。だから、その日その日の積み重ねがない。5年たちましたと言われても、ピンとこない」

 いわき市から東京都に母子で避難している亀山陽子さん(40代)も同じ思いだ。

「あっという間だった。本来なら子育てに必死になっているはずの5年が、避難生活に追われ、ここにいつまで住み続けられるのか考え続けた」と振り返る。

 政府による避難指示がなかった地域出身の、いわゆる自主避難者は、応急仮設住宅として自治体が借り上げた住まいを'17年3月に追われることが決定している。昨年6月に福島県知事がそう発表して以来、借り上げ住宅に住む自主避難者は「引っ越し」か「帰還」かの選択を強いられている。

 自主避難者に定期的な賠償はなく、ほとんどが貯金を切り崩しながら生活している。「避難者なら、いずれ帰るのでしょう」と言われ、職を得るのも難しい。家賃を支払ってまで避難し続けるだけの余裕はない。

 しかし、多くの自主避難者は「放射線量が事故前に戻っているわけではない土地に、子どもを連れて帰れない」と悩む。「被ばくを伴う帰還」か「避難を継続する生活困窮」か。選択を迫られているという状況だ。

 夫は福島県での仕事を続け、妻が子どもを連れて避難する、いわゆる“母子避難者”の中には、夫との関係に悩む人たちもいる。「子どもを被ばくから守るための離婚」か「離婚を回避するための帰還」か。ここでもまた、むごい選択を強いられている。

 借り上げ住宅の打ち切りに備えた福島県の施策は十分とは言いがたい。引っ越し費用の補助は福島県内に限られ、家賃補助を受けるにも一定の条件が課される。

 「勝手に避難しているのに甘ったれるなと言われるのがいちばんつらい」と亀山さんはこぼす。そもそも原発事故がなかったら避難することはなかった。

「東京で遊んで暮らしていたわけじゃない。いろいろ乗り越えて、やっと今の生活です。子どもを放射線の被ばくからできるだけ遠ざけたいという一心で、母子家庭同然の生活を続けてきたんです」

 亀山さんの息子は先天性の疾患を抱えている。そのため、避難後の生活環境を整えることに苦労し続けてきた。ようやく息子も環境の変化に慣れたところだ。

「この5年、何をしてきたのかわからないほど必死だった。だから、もう子どものためにも環境を変えたくないんです。経済的に苦しいけど、何とかして避難の継続を考えるしかない」

 そうした子どもたちや住民の健康、生活を守るために、『原発事故子ども・被災者支援法』は被災地に“住み続ける人”“避難する人”“帰還する人”を等しく支援するという理念に基づき作られた。

 だが、肝心の施策はほとんど講じられず昨年8月に改定。「新たに避難する状況にない」という文言が付け足された。自主避難地域から“避難する人”を事実上、国は否定した。

 避難解除で住民を「帰還」させて「復興」を遂げたことにする。原発事故のために避難を強いられた被害も「なかったこと」にする―国はそう望んでいるように見える。

 今なお10万人近い原発避難者は2020年オリンピックをどんな心境で迎えるのだろうか。

取材・文/吉田千亜(フリーライター)

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