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 中米パナマの法律事務所から流出した膨大な文書が世に投下された。記録されていたのは、タックスヘイブンを利用する世界の富裕層や企業の税金逃れの実態だ。

 『パナマ文書』がもつ破壊力はすさまじい。アイスランドのグンロイグソン首相は、「財産隠し」と国民の怒りを買い、退陣に追い込まれた。イギリスのキャメロン首相も支持率を急降下させている。

 それ以外にも中国、ロシアと次々と白日のもとに著名人の名がさらされる。世界中の国民の怒りが爆発する日も近い。日本ではまだ一部しか表に出ていないが、グローバル政治論が専門の横浜市立大の上村雄彦教授はこう話す。

「日本でも、多くの企業がタックスヘイブンを利用しています。日本からケイマン諸島へ流入する金額は、米国に次いで世界2位。金額でざっと約63兆円。ただ今後、企業や個人の名が出たとき、大切なのは個別のバッシングよりも、このシステムのあり方がおかしいという議論です」

 世界中のタックスヘイブンにある金融資産は約3000兆円と推定。もしこの資産に課税できれば、全世界で年間30兆円もの税収が見込めるとされる。

「日本からタックスヘイブンへ流入する金額が全世界の10%だとすると、課税すれば年間3兆円の税収が見込める。消費税1%増税で2.7兆円とされているので、それ以上の税収が見込めます」(上村教授)

 タックスヘイブンに移転した資産は課税逃れだけでなくそこから金融取引へと運用されることがほとんどだという。そこに課税することでさらなる税収が見込めるのだとも。

「近年主流なのはコンピューターを利用して1秒間に1000回以上というムチャな取引を行うもので、これを高頻度取引といいます。こういった投機的取引により経済の流動性を高めすぎ市場に混乱を引き起こします」(上村教授)

 だが、この取引に歯止めをかける方法があるという。

「金融取引税といって、金融取引をするたびに課税がされます。ムチャな取引を行うと取引すればするほど損をする仕組みです。日本で金融取引税を導入すれば最大で3兆円の税収を見込むことができるとグローバル連帯税推進協議会が試算しました」(上村教授)

 タックスヘイブンに流入する資産と、そこから運用される取引と、両方への課税で単純に計算すると、合計6兆円もの税収増が見込める。

「6兆円で消費税2%以上の税収です。課税されれば消費税を上げる必要もないんです」(上村教授)

 そのお金を待機児童対策や貧困対策に使うことができる。

 2012年にはコーヒーチェーン大手スターバックスが英国で少額しか法人税を納めていないことが発覚。一時不買運動が起こり、同社は欧州本社をオランダから英国へと移した出来事があった。

「国民の関心が、企業の経営に大きく揺さぶりをかけた実例です。私たちは無力じゃないことを知るべきです」

 私たちの生活と税は密接に関係していると指摘するのは、租税法・税務会計が専門の中央大学商学部の酒井克彦教授。

「立ち読み禁止の本屋で座り読みならしてもいいのか。違法ではないけれど、周囲から冷たい目で見られやりにくくなりますよね。タックスヘイブンも同様で、われわれが関心を持ち企業を監視することが大切です」