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 本格的なうつ病まではいかずとも、イライラや不安、焦りや心配事など、多くの人が何かしらストレスを抱えて生きているもの。精神科医の奥田弘美先生によれば、その原因は本人の性格の問題だけでなく環境の影響も大きいそう。

「デジタル化が高度に進んだ現代社会では、メールにインターネット、SNSと、ひっきりなしにコミュニケーションや情報が押し寄せ、脳疲労状態になりやすいんです。心とは、全身の刺激が脳で統合されて生み出される感情や意思のことですから、脳が疲れているということは当然、心も疲れているのです」

考えない時間をつくることで
脳を休め心を整える

 そうした中で、意識的にIT機器によるコミュニケーションや情報から離れ、何も思考しない時間、脳の休憩時間をつくる方法として、いま各方面で注目されているのが、マインドフルネス瞑想(めいそう)法。

「呼吸の感覚など、普段は無意識に行っていることに意識を向けることで、毎日フル稼動している思考の洪水から離れ、心を静め脳を落ち着かせる効果が期待できます。もともとは2500年前にブッダ(お釈迦様)が創造し、広めた瞑想法がベースとなっているのですが、ブッダは過去のことを後悔したり、まだ見ぬ未来のことに思い煩うのはエネルギーの無駄遣いだと言い切っています。それよりも“今、ここ”に集中し、心を込めて生きることがよりよい幸せをつくれるという教えとともに、心のトレーニング法としてマインドフルネス瞑想法を考案したのです」

 瞑想といっても、いわゆる悟りを目指す瞑想修行ではないので、宗教の信仰などは全く関係なし。誰もが平等に気軽に活用できるストレスケア法なので、ぜひ習慣として取り入れて心の健康維持に役立てたい。

「マインドフルネスを続けていると、日常のストレスの刺激から次々と浮かんでくる嫌な気持ちや自分の思考の連鎖に素早く気づき、ネガティブに取り込まれにくくなります。1年を通して疲れやストレス対策に有効ですが、ネガティブな思考や気分に陥りやすい冬の時期は特に、意識的に光を浴び、心を休める時間をつくることで緩和できるのではないかと思います」

 次から、たった数分でどこでも手軽にできる奥田先生ご提案のさまざまなマインドフルネス瞑想法を紹介するので、さっそく実践してみて!

■心からエネルギーを奪い、疲れさせる「嫌な気持ち」とは
・他人や物事に対するイライラや怒り
・まだ起こっていない未来のことへの心配や不安
・過去に起こったことへの後悔、または自己嫌悪する気持ち
・他人を行為や言葉で傷つけてやろうとする破壊的な気持ち
・人を欺いたりしようとする嘘つきな気持ち
・他人が困ることを願う意地悪な思考や感情
・自分だけが得をすればいいというケチな気持ち
・他人の幸せを不愉快に思う嫉妬の気持ち
・必要以上に欲しいと思う欲張りな気持ち
(『一分間どこでもマインドフルネス』奥田弘美箸より抜粋)

こうした感情、思考にとらわれたことにまず気づくことが心を癒す第1ステップ!
心の安らぎを取り戻す嫌な気持ちを手放す深呼吸瞑想

 私たちは「嫌な気持ち」をしょっちゅう感じながら生きているもの。そして、この嫌な気持ちが自分を苦しめるストレス思考や感情。腹式呼吸を活用したマインドフルネス瞑想を行うことで、嫌な気持ちを手放しリラックスしやすくなります。

(1)両手をお腹に当て、1分間目を閉じる

(2)鼻から息を吸い込み、お腹がふくれる感覚を手で感じる

(3)息をゆっくり吐き出す。同様に10回繰り返す

朝の空気と太陽の光で心と身体に効く
ボディスキャン瞑想

 瞑想と聞くと、目を閉じてあぐらをかいて座禅のようなポーズをとる少々、堅苦しいイメージが浮かびがち。しかし、マインドフルネス瞑想は決して形式ばったものではないと奥田先生。

「鼻先の呼吸に意識を向けるのをはじめ、食べながら、歩きながらなど、さまざまな瞑想法があります。要は五感を利用して、さまよい歩いている心を“今、ここ”に戻すということ。不安やイライラを感じたときはもちろん、ふとしたときに行うことで、ITデトックスやコミュニケーションデトックスにもなるなど、いいことが多いので、まずは1日1分間、ご自身のやりやすい場所やタイミングで取り入れてみましょう」

頭スッキリ! ボディスキャン瞑想

 朝日を浴びながら、丁寧に身体の感覚に意識を向けていくことで、心を今ここに戻す瞑想効果はもちろんのこと、身体との対話効果も。普段は無視している身体に生じているこりや緊張など微細な感覚に気づいたら、その都度緩めてみたり、痛みや冷えに気づいたら瞑想後にケアをしてあげましょう。時間がないときは上半身や身体の一部分のスキャンだけでもOK!

(1)窓辺に立つか座って自然光をしっかり浴びる。

(2)目を閉じ、頭→顔→首→肩→背中→腹部→おしり→足と順に身体の内外の感覚に意識を向けていく。

(3)太陽光を頭のてっぺんから取り込み、身体のすみずみを照らしながら、微細な感覚をスキャンしていく。

※身体の表面の皮膚や筋肉、脳、内臓などに意識を順々に向けていくとよい。

(4)こわばりや緊張、こりなどの不快な感覚に気づけば、呼吸とともに緩めてみる。

食べるときのお手軽瞑想

 食べ物を食べながらでも、マインドフルネス瞑想は可能。例えばイチゴなら、「イチゴを食べます」と心の中でつぶやいてからイチゴを手に取り、まず色や形をしげしげと眺める。次に香りをかぐ。甘酸っぱい香りを胸の奥まで吸い込んでから口に入れ、イチゴと触れた舌や粘膜の感覚を感じる。さらにゆっくりイチゴを噛んで、その歯ざわりや口の中に広がる香りや味を感じる。さらに咀嚼(そしゃく)しながら歯ざわりや味の変化を感じたあと、飲み込んで瞑想終了。視覚、嗅覚(きゅうかく)、味覚、口の中や舌の触覚をフル活用して「気づき」を追加していくのがコツ。

<プロフィール>
奥田弘美さん
精神科医、産業医(精神保健指定医)、作家、日本マインドフルネス普及協会代表理事。精神科医と18か所の企業の嘱託産業医を務めながら、作家として執筆活動も行う。マインドフルネス瞑想の普及活動もライフワークとしている。著書に『ストレス・疲れがみるみる消える! 1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジネントセンター)など。

(取材・文/當間優子)