義理の姉の子を育てた経験を生かし、初の保育の仕事にトライした大野さん

 シニア世代の就業支援を行う自治体が増えている。東京・千代田区にある『東京しごとセンター』は充実した制度が備えられ、手厚い支援が受けられると評判。

 都内で働きたい人であれば、都民でなくとも無料で利用可能(講習テキストなど実費を除く)。対象は全年齢層だが、55歳以上はシニアコーナーを利用できる。

充実したサポートの数々

 同センターによれば、2017年度のシニアコーナー新規登録者は約8500人で、そのうち女性は4割弱。年齢別に見ると59歳以下が34%、60~64歳が35%、65~69歳が22%で70歳以上が9%という。都の委託でセンターを運営する公益財団法人『東京しごと財団』の酒井崇光さんはこう話す。

「企業に65歳までの継続雇用制度が浸透してきて、利用者の年齢は高くなってきています。また、年齢を区切らず、働けるかぎり働きたいという人が多い。

 ここではフルタイムの勤務やパートタイムでも比較的、長時間の継続雇用の職に就けるよう支援をしていて、最近ではシニア層を求める企業も増えてきました。大きな要因は人手不足ですが、シニアの社会経験や高い能力といった利点に気づき、即戦力として働いてもらう間に、若手を育てようと考える企業もあります

シニアコーナーの入り口には、たくさんの求人情報が貼り出されている

 具体的には、どのようなサポートがあるのだろうか。

 まずシニアコーナーに登録し、キャリアコンサルタントの資格をもつ相談員とこれまでの職歴や経験、希望の収入や働き方などについて整理していく。さらに履歴書の書き方や面接の指導もしてくれるという。相談者は自ら同フロア内にある55歳以上のシニアを対象にしたハローワークで、求人情報を紙ベースで探すことができる。

 最近の傾向ではマンション管理員、保育補助員やコンビニといった仕事が多い。マンション管理員は住人とのやりとりがあるため、企業によってはシニア女性を望む声も。大学病院での軽作業や、下町の工場での手作業といった仕事もある。

 シニアの就活のポイントは、「あまり前職にこだわらないこと。職種転換は早めに考え新たな道も視野に入れること。無職というブランクを作らないために、資格を取るなら働きながら」(酒井さん、以下同)という3点が大切だという。

「利用者側は“いままでの職と同じもの”を求めることが多く、事務系の仕事が特に人気。求人はあっても枠は急激に狭まる。相談員から、いままでと違う仕事を考えてみては、と話すことも多いです」

 そのため同センターでは、新たな職業に挑戦しようと決めたシニアのために、就職支援講習を実施している。ベビーシッターや警備スタッフなど業種別にコースがあり、いずれも業界団体側の協力を得て6日間から長いものでは30日間(!)、実践的なノウハウを学び身につけることができる。最後にはその団体に加盟する企業が複数参加する合同面接会が行われ、参加者の約8割の就職が決まるという。

「目標を見定めて参加する講習で、面接選考のうえで参加できます。同じ立場で何日間も一緒に学ぶので、参加者同士の仲間意識が高まり修了後も交流が続くこともあるようです」

 また、定年後の働き方や職種転換の体験談など、再就職に役立つセミナーも開かれており、参考にしたい。

採用されるために必要なことは?

 さらに65歳以上は『しごとチャレンジ65』という“シニア版インターンシップ”の制度も利用できる。

「選考前に、お互いに直接見て話せる場として、職場体験を実施しています」

 シニアコーナーの職員が65歳以上の人材活用のメリットを説明し、受け入れ企業を開拓。訪問して求める人材を聞き取り、利用者は相談員とともに体験先を決める。3時間程度の体験や見学は職員が同行してくれるので安心だ。その後、採用選考が行われる。

65歳以上の求職者も手厚い支援が受けられる『しごとチャレンジ65』

 一昨年度は254名が登録し、140名が体験(見学)に参加した。一般的に65歳以上の就活においては、面接にも至らないケースも多い。それに比べると、かなりよい成果といえる。

 最後に、採用されやすいシニア人材について聞いた。

「これまでの職歴、肩書にこだわらない人ですね。いまは業務報告もパソコンですることが多い。できたらパソコンを怖がらず、操作できるといいと思います」

 また、年下の上司の話を聞けない人、頑固な人はNG。持病がある場合はオープンにして、自己管理できていると伝えれば採用のマイナス材料にはなりにくいという。逆に隠すと、あとあと問題になることも。

「職務経験が少ない専業主婦の方も大丈夫。調理や掃除の経験はあると思いますし、子育てをしていれば保育もできる。PTAや町内会への参加で培ったコミュニケーション力も強みになる。シニアだからといって特に時給や月給が低いわけではなく、一般のアルバイトやパートと基準は変わりません。ぜひ自信をもって就活してみてください」

無年金の不安から脱却!

 兄が営むレストランを38年間にわたり手伝った後、行政機関内の食堂で8年働いた大野千代子さん。65歳のとき、その食堂が閉店となって職探しを始めた。現在は74歳の夫と持ち家に2人暮らしだが、兄のすすめで年金には加入しなかったため、無年金だ。

「20代で調理師免許を取って、食堂では調理補助として働いていました。年金もないし、まだまだ働けると感じて、ハローワークで同じ職種に応募しました。でも、年齢を理由に断られてしまったんです」

 65歳を越えた就職が難しいと実感していたところ、前出・ハローワークで東京しごとセンターのインターンシップ制度『しごとチャレンジ65』を紹介された。

「やってみようと登録して、相談員の方にすすめられた中から最初に訪れたのが、今年3月からお世話になっているこちらの会社です」

 保育サービスを提供する『ジョイサポ』で、新規開設する保育園の調理補助のパートとして採用された。現在、保育園はオープン前のため、関連の託児施設で“保育補助”として働いている。

「いままで経験のない保育のお仕事ですが、新しいことに挑戦できるのはうれしい。なにより子どもたちが可愛くて」(大野さん)

 ジョイサポの代表取締役・山田加代子さんは、職場体験にやってきた大野さんが、見学の際に子どもたちに囲まれる様子を見て「この方は大丈夫だ」と確信。見学後に面接をして即、採用を決めたそうだ。

「年齢だけ聞くと、仕事をしてもらうのも気の毒かと思っていましたが、実際にお会いすると、とてもお元気。若いスタッフとも身構えず仲よく接してくれ、安心です」(山田さん)

 実は、大野さんは現在、夫の介護と仕事とを両立している。在宅ケアとはいえ、それほど手がかからないので自身の息抜きを兼ねて働くことは夫婦同意のうえ。だが、家を出るのは夫の昼食をすませてから、というのが希望だった。

「そんな事情も酌んでもらい、勤務は週5日、14~20時。主人はもともと夕食が遅いので、帰ってから作って食べています」

 と大野さん。いまは若いスタッフに教わりつつ、パソコン業務にも挑戦中。

「パソコンに触ったこともなかったので、教室に通おうと思っていました。なのに、こちらでは仕事として教えていただける。とてもありがたいです。定年はないとのことで、身体が動くかぎりは働いていたい」

 と、顔をほころばせる。

 山田さんが言う。

「多くのシニアの方は人生経験を積んでこられて働き方にゆとりがあり、人間的にも穏やか。保育の現場は今、人手不足。そんななか、シニアの方々は理想の人材だと感じています」

 “働けるか不安。週1日、3時間勤務で”と言っていた仕事未経験のシニアが、数か月後にはめきめきと頭角を現し、現在では週5勤務の主戦力に育った例もあるとか。

「長年、専業主婦だった方は働くことに尻込みしがち。でも、化ける可能性はありますよ!」(山田さん)