「お金がないから離婚をあきらめる母親たち」同様、多いとされるのが「お金がないために再婚を急ぐ母親たち」。そんな母親の姿を、子どもたちは近くでどう見ていたのでしょうか。“いろんな家族の形”を数多く取材してきたノンフィクションライター・大塚玲子さんがお伝えします。

 

※写真はイメージです

 前回の記事、『「お金がないから別れられない」離婚を諦めた母親を、子どもたちはどう見たのか』では、経済的な理由で離婚を諦めた母親たちについて書きました。今回のテーマは「お金がないために再婚を急ぐ母親たち」。こちらは、あまり知られていないように感じます。 

「子どもを連れて離婚」が難しい現状

 背景にあるものは「お金がなくて離婚を諦めた母親たち」と同じです。女性は結婚して子どもを産むと、仕事をやめる、あるいは賃金の安い仕事に就くことも多く、子どもを連れて離婚という選択をしづらくなります。そして、もし離婚をすれば、経済的な理由で再婚を急ぐことになりやすいのです。 

 もちろん、経済的な理由から再婚を考えるのが悪いわけではありません。そもそも結婚(初婚)だって同様の面はあります。大人1人より、2人で暮らしたほうが経済効率はいいですから、女性でも男性でも、そのために同居や結婚を考える部分は多かれ少なかれあって当然でしょう。

 ただ、シングルマザーの場合には、どうしてもその傾向が強くなりやすいように感じます。父親よりも、あるいは初婚のときよりも仕事の選択肢が狭まって、自分で稼ぐことのハードルがいっそう高くなるため、再婚という方法が選ばれやすくなるのかもしれません。

 子どもたちは、そんな母親の姿を、どう見ているのでしょうか。

咲さん(仮名・20代)の場合

 咲さん(仮名・20代)は、生まれて間もないころに両親が離婚。小さいときは母親と兄と3人で暮らしていました。

 母親が再婚したのは、咲さんが小学校低学年のときです。結婚相談所に登録して、お見合いをして決めた相手でした。母親は「あまり好きじゃなかったけれど、相手が乗り気だったから」と話していたそう。

「母が『今日、婚姻届けを出しに行く』と言ったとき、『絶対にイヤだ』と思ったけど、なぜか言えませんでした。『母をとられる』、みたいな気持ちもあったと思います」

 なぜ咲さんの母親は、相手の押しが強かったとはいえ、「あまり好きではない相手」と再婚したのでしょうか。

 咲さんの実父(母の前夫)は優しい人でしたが、収入は安定せず、咲さんや兄の養育費を払っていませんでした。母親はおそらく、安定した生活費を確保したかったのでしょう。

 咲さんは、母親の再婚から10年くらいのことは、あまり記憶がありません。「楽しくないことって忘れてしまうから」だといいます。

 いま思い出せるのは、母親がいつも父親の機嫌が悪くならないよう気を遣っていたこと。そのため、母親の下働きが求められるスポーツ少年団をやめざるを得なくなった兄が、すっかり明るさを失ってしまったこと。それくらいです。 

「生活は安定したけれど、母はつらそうでした。私はやっぱり、母には幸せそうな顔でいてほしかったし、それなら再婚はしないでほしかった。最近では母も『自分を反面教師にして、結婚は慎重に』と、私に言ってきます(苦笑)」

 咲さんはいま手に職をもち、安定した生活を送っています。その根っこには、母のように経済的な理由による結婚をしなくて済むように、という思いもあるのかもしれません。

里子さん(仮名・40代)の場合

 もう一例、紹介しましょう。里子さん(仮名・40代)の母親が家を出たのは、彼女が小学校低学年のときでした。

 ある朝起きたら、母がいなくなっていたのですが、父親は何も説明してくれなかったそう。里子さんはとても不安でしたが、幼い妹を守ろうと、ただ必死だったといいます。

 後にわかったことですが、母親はこのとき離婚したら子どもたちと暮らせるように、仕事や住まいを探していたのでした。父親の浮気が原因でしたが、父親はそんな自分に都合の悪いことを、子どもには話さなかったのです

 当時は景気がよかったこともあり、母親は幸い住み込みの寮母の仕事を見つけ、里子さんと妹を引き取って暮らし始めます。しかし、喜んだのも束の間、寮が閉鎖されることが決まり、母親は再び、職と住居を探すことに。

それで結局、母はお見合いをして再婚することにしたんです。中卒だったので、子ども2人を養っていけるような仕事は見つけられなかったんだと思います。母は中学を出たとき、兄の進学と重なって、高校に行かせてもらえなかったので」

 これで生活が落ち着けばよかったのですが、残念ながら、母の再婚相手は酒癖の悪い人物でした。ふだんはよいのですが、酒を飲むと人が変わってしまうのです。しかし経済力がない母親は、ここでもなかなか離婚に踏み切れず、別居と同居を繰り返したそう。

 ようやく母子家庭に戻ったのは、里子さんが高校生のときのこと。

 経済的な理由から結婚(再婚)するものの、問題のある相手を選んでしまい、でもまた同じ理由で、今度は離婚に苦労する――このサイクルを繰り返す母親が、一定数いることを、取材していると感じます。

子どもたちは親のつらい顔を見たくない

 どうしたらいいかといえば、前回(お金がないため離婚できない母親)同様、女性はやはり「子どもをもっても収入を確保し続けること」、そして「子どもが望むのは必ずしもお金ばかりではないと知っておくこと」が必要でしょう。また、子育て全般において、公的な経済サポートをもっと充実させることも必須です。

 もちろん「親が離婚して、お金がない生活でつらかった」という子どもも大勢います。それも間違いない真実なのですが、「母があんなにつらそうな様子を見るくらいだったら、母子家庭でお金がないほうがまだマシだった」という声を聞くことも、意外と少なくありません

 子どもはおそらく、母親がつらそうなのを見ると、「自分のせい」だと感じてしまうのでしょう。自分を養うために母親が再婚してつらい思いをしているのであれば、それはつまり自分のせいで母がつらい思いをしていることになるからです。

 先ほど登場した咲さんも、母親がよく「私は、あなたたちのためにがんばった」と言ってくるのがつらかった、と話していました。「そう言われると『返さなきゃ』という、義務感のようなものが出てくる」というのです。

 そう考えると、母親はたとえお金のための再婚がつらかったとしても、子どもがそれを「自分のせい」と感じさせないようにすることが大事なのかもしれません

 つらい様子を見せない、というのは難しいにせよ、あくまでもそのつらさは大人たちのなかで解決されるべき問題であって、子どものせいでは全くない。それを伝えられると、子どもはちょっとラクになれるのではないでしょうか。

大塚玲子(おおつか・れいこ)
「いろんな家族の形」や「PTA」などの保護者組織を多く取材・執筆。出版社、編集プロダクションを経て、現在はノンフィクションライターとして活動。そのほか、講演、TV・ラジオ等メディア出演も。多様な家族の形を見つめる著書『ルポ 定形外家族 わたしの家は「ふつう」じゃない』(SB新書)、『PTAをけっこうラクにたのしくする本『オトナ婚です、わたしたち』(ともに太郎次郎社エディタス)など多数出版。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。