※写真はイメージです

 ここ最近、長引く巣ごもり生活の影響による体力低下を気にして、ウォーキングを始めた、という人が増えている。ウォーキングによる健康目安としてよく耳にするのが、「1日1万歩」という指標。人によっては、歩けば歩くほど健康になると信じ、万歩計を携えて、より多く歩こうと日々実践している人もいるかもしれない。でも実はこれが、大きな間違い!?

「やみくもに歩数を増やすだけの歩き方では、体力アップが望めないだけでなく、健康を害する危険性もあります」

 と、ウォーキングに関する研究を進める東京都健康長寿医療センター研究所の青柳幸利さんは指摘する。健康のために頑張って歩くことが体調の悪化を招くとは、一体どういうことなのか。

黄金比は「1日8000歩、20分は早歩き」

「ウォーキングで体力アップを目指すためには、長く歩くよりも大事な点が。歩く際の上下運動により身体に伝わる“刺激”が重要な役割を担っていると、近年の研究から明らかになりました。つまり、ダラダラと歩き続けるだけでは身体への刺激が不十分で、ウォーキングによる健康効果は得られないということ。逆に、ウォーキングも含めて運動のしすぎは免疫力を下げてしまうリスクがあります」

 有酸素運動だから身体にいいと思いがちだが、マラソンのように何万歩も力強い足踏みを繰り返すと、足の裏の血管を通るヘモグロビンが壊されてしまい、貧血になる危険性もあるという。

「スポーツ選手ならともかく、健康のためにと過度に運動をすることは病気予防の観点からはあまりよい方法ではないと、はっきり解明されています。実際、メタボ対策のためにハードな運動を続けた結果、健康を維持するどころか、動脈硬化になってしまったという例も。激しすぎる運動のために、心臓からの血流量が多くなりすぎてしまったためです。また毎日、犬の散歩で1万歩歩いていたにもかかわらず、うつ病になってしまったという人も

 では、健康になれる正しいウォーキングをするにはどうしたらいいのか、青柳さんに教えてもらった。

「病気を寄せつけない歩き方の黄金律として、私は『1日8000歩、そのうち20分間は中強度の運動=早歩きを取り入れる』ことを推奨しています。5000人を対象に20年間にわたって実施した私どもの研究の結果、この歩き方を習慣にすると、要支援・要介護、うつ病、認知症、心疾患、がん、動脈硬化、骨粗しょう症の有病率が低く、さらに高血圧症、糖尿病の発症率が、これより身体活動が低い人と比べて大幅に下がることが判明したのです」

 歩数だけでなく“中強度の運動=早歩きを20分間”という点が最大の注目ポイント。

「多くの人は加齢による骨密度の低下や、筋肉量が減って体温が低下することで免疫力が落ちて病気を引き起こしやすくなります。先ほども説明したとおり、ウォーキングで骨密度や筋力をアップするには、どれだけの強度で骨や筋肉に刺激を与えられるかが重要。そのために適した運動強度が中強度で20分、これは早歩きにも置き換えられます」

 8000歩はウォーキングによる歩数だけでなく、買い物や室内での移動なども含めてトータルで無理なく目指せばOK中強度の運動量は体力や年齢によって変わるが、共通の目安は“なんとか会話できる程度の早歩き”だ。

「体力に見合った適切な『中強度』を見つけることが大切。身体に痛みや疲れが残るようなら、それは明らかにやりすぎ。無理して歩き続ければ関節を痛めたり細胞がサビて、がん化が進んでしまうおそれもあるので無理は禁物

 また、身体を正しく使う歩き方のポイントは、歩幅の広さだと青柳さん。老化で歩き方のバランスが崩れると歩幅は狭くなりがち。その状態で無理にスピードを上げるよりも、腕を大きく振り大股で歩くことを意識して歩けば、誰でも自然とピッチが上がる。

 一生涯続けられる歩き方を身につけて、健康な身体づくりを目指そう!

実はこれ、すべて間違っています!!

■1日1万歩が望ましい
 人により体力や筋力が異なることを考えると、1万歩が万人に共通する健康習慣の目安とはいえない。普段、運動習慣のない人がいきなり1万歩を歩き始めれば、免疫力が低下するなど、かえって寿命を縮めるおそれも!

■歩くのは朝がいい
 起き抜けの身体は、就寝時の発汗により水分量が低下して血液もドロドロに。その状態での運動は心筋梗塞や脳卒中を起こすリスクが! 水を飲んでもすぐには身体に吸収されないので、起きて1時間以内のウォーキングは避けて

■同じスピードで歩けばいい
 骨密度や筋肉量の維持には、歩数よりも歩く際の身体への刺激(運動強度)の量が重要。とはいえウォーキング中ずっと速く歩き続けるのはかえって身体に負担が。1日20分間、軽く息が弾む程度の速さを取り入れるのがベスト

■消費カロリーを意識する
 同じカロリーを消費したとしても、体重や身長によって脂肪の燃焼率は変わるもの。ウォーキングによる消費カロリーにとらわれるより、筋力や持久力を高める歩き方を目指したほうが健康のためには断然、効率的。

■速く・長く歩くほどよい
「中強度」の運動量の基準は体力や年齢によって変わるので、自分に合った速度・距離で歩くことが大切。普通に身体が動かせる人の場合、1秒に2歩程度の速さで、“軽く息が弾むが会話はできる程度の運動強度”を目安にして。

■週末にまとめて歩けばOK
 まとめ歩きは身体に負担がかかりすぎて、かえって健康を害してしまう危険性が。土、日は8000歩・うち20分は中強度のウォーキングを行い、平日は外出時に階段を利用するなどして、歩数と中強度の活動時間をのばすのがおすすめ。

【3人の女性が語る「正しく歩いて元気になりました」】

◎体脂肪が2か月で5%ダウン
 最初は4000歩・早歩き9分からでしたが、毎日の買い物やカラオケなど外出の機会をつくることで歩数を増やし、今では8000歩・早歩き20分の習慣が定着。おかげで、体脂肪率が29%から24%に減少しました。(62歳女性・開始して2か月)

◎高血圧が完治!介護ストレスの解消にも
 12年間、自宅で母親の介護をしています。高血圧が心配で4か月前から8000歩・早歩き20分のウォーキングを始めました。今では血圧が下がり体調も安定。母からの呼び出しも、「歩数が稼げる」と前向きに思えるように!(54歳女性・開始して4か月)

◎転倒が減り、スタスタ歩けるように!
 よく転ぶようになったことから「中強度ウォーキング」を開始。犬の散歩などを活用して1日8000歩歩く生活を続けたところ、転倒が減少。以前は犬に引きずられていた散歩も、今では犬より速く歩けるようになりました。(72歳女性・開始して10か月)

(取材・文/中村明子)


【PROFILE】
青柳幸利さん ◎東京都健康長寿医療センター研究所 運動科学研究室長。医学博士。「病気にならない歩き方の黄金律」が世界中から称賛を浴び、テレビや雑誌、講演会などで活躍。著書に『やってはいけないウォーキング』(SB新書)など。