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 コロナ禍のいま、ひそかに“突然死”が増えているのをご存じだろうか。

「直近の症例はストレス心筋症によるものです」

 そう語るのは、日本循環器学会専門医で、すぎおかクリニック院長の杉岡充爾先生。

「コロナ禍の制約された生活を送る中、過剰なストレスがかかり、自律神経に異常をきたして心臓の一部が動かなくなったケース。家にいてテレビを見る時間が増え、不安や怒りを煽(あお)られるメディアパニックから過剰なストレスを感じ、同様の症状に陥ったケース。どちらも論文で発表され、突然死の事例が報告されています」(杉岡先生、以下同)

女性も心筋梗塞に要注意を

 そもそも突然死とは、医学的には「発症から24時間以内の予期されなかった死亡(外因性のものを除く)」と定義されている。原因として心臓の病気が多く、その数は年々増加傾向にあるという。

「動脈硬化によって心筋梗塞を招き、突然死につながるのが典型的なパターンです。動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールや脂肪などがたまり、血液の通り道を狭める状態。進行すると血管を詰まらせ、心筋梗塞や脳梗塞に至ります。要するに、突然死の多くは血管が詰まって起こるのです」

 血管を詰まらせる危険分子は、高血圧や糖尿病といった生活習慣病や肥満、喫煙など。加えて過剰なストレスもあてはまり、自律神経の乱れから血管が痙攣(けいれん)を起こし、強く収縮して血流を悪くする。冒頭紹介したコロナによるストレス心筋症はこちらがもとになっているそう。

「ひと昔前は、心筋梗塞といえば50代、60代の男性が要注意でした。しかし今は食生活の変化で同年代の女性も注意が必要。また女性の社会進出が進み、職場のストレスも重なってくる。さらに女性の場合、エストロゲンという心身を守ってくれるホルモンが、閉経後、減少していく点でも注意が必要でしょう

 一方、秋冬は心臓発作で倒れる人がいちばん多い季節。大きな寒暖差による血圧変動で起こるヒートショックの注意も必要で、突然死のリスクは日常の多くの場面に潜む。

 しかし血管の詰まりは自分で認識できるものではない。ゆえにある日突然、心臓病などを発症して思い知らされる。今年1月20日、お笑いコンビ・爆笑問題の田中裕二さん(56歳)が、前大脳脈解離によるくも膜下出血、脳梗塞で緊急入院したのもその一例。

「前大脳脈解離とは脳の前のほうにある血管が解離、すなわち炎症を起こした状態です。血管の炎症が続いて病気を発症するわけですが、この炎症はミクロレベルなので、脳ドック(MRIなど)で調べてもわからないケースが多い。ですから、血管が炎症や痙攣を起こさないような生活を送ることが、突然死につながる心臓の病気を防ぐキモになります

急病で搬送された人の数

“副腎疲労”のサインを見逃さないで

 まずはどんな生活がNGなのかを自己診断。生活や身体に見られる兆候とあわせ、以下のチェックリストで確認を。チェック項目が多いほど突然死の危険度は高くなる。

【あなたも突然死予備軍? チェックリスト】
□ 太りやすくやせにくくなった
□ 引っかき傷が1分以上消えない
□ 疲れたらすぐ甘いものを欲する
□ アルコールを毎日飲む
□ コーヒーを1日4杯以上飲む
□ 朝なかなか起きられない
□ 深夜まで起きている、眠れない
□ 定期的な運動をしていない
□ 趣味や自分の時間がない
□ 家事がストレスだと感じる

《診断結果》0個…突然死の心配はなし。今の生活を続けよう/1〜3個:今は健康に問題なし。さらに生活改善を/4〜7個:見た目は健康でも突然死のリスクあり/8個以上:実は身体は悲鳴を上げているかも!

「アルコールやコーヒー、タバコといった嗜好(しこう)品は血管に害を及ぼすもの。特にタバコは血管の壁に直接、炎症を起こすので大敵です。甘いものを食べる習慣、太りやすくやせにくい、朝起きれず夜眠れない、引っかき傷が消えにくい、というのは血管を詰まらせる黒幕の“副腎疲労”のサイン。副腎はストレスをリセットするホルモンを出す働きをするのですが、その機能が低下している表れですね

 自分だけは大丈夫……という過信は禁物。杉岡先生によれば、動脈硬化の危機は成長が止まる20歳から早くも始まっている。血管を傷める生活を続けていたら、誰もが突然死のリスク大なのだ。

【日常に潜む突然死リスクの高いシーンは?】
・起床後すぐの散歩
・散歩後のシャワー
・薄着でゴミ出し
・飲酒後の入浴
・車の運転中
※特に秋冬は、急激な温度差が大きなリスクになるので注意

突然死を防ぐプチ習慣〈前編〉

 突然死を防ぐには、血流をよくする生活や食事、運動、呼吸などを取り入れることが第一。血管がみるみる若返っていく習慣の実践を!

【1】 起き上がる前にグーパー運動

 朝起きてすぐ激しい活動をしたり、ベランダやゴミ出しなど外の冷気にあたるのはNG。起きたては自律神経がまだ働かないため、冷気で血管が収縮して血圧の急上昇を招き、ヒートショックとなりかねない。

「高齢者の方は、布団の中で軽い運動をしてから行動しましょう。軽い運動には、血管に刺激を与える『グーパー運動』がオススメです。まず両手に力を入れて握る。その状態を10秒キープして、息を吐きながら離す。グーの緊張からパーの脱力で血管が一気に広がり、血流がよくなって自律神経が働き始めるのです」(杉田先生、以下同)

【2】散歩は朝イチを避ける

「ストレスや運動不足の解消にはウォーキングが最適」と杉岡先生。ただし心臓発作の危険を伴う朝は避け、昼以降にお出かけを。

太陽の光を浴びて歩くのが何よりいい。日を浴びるのはうつ病や神経症の治療のひとつですし、実はコロナ対策にもなります。コロナ予防で大事なのは免疫力の強化。日を浴びると免疫を上げるビタミンDが体内で作られるのです。実際、ビタミンDの多い人はコロナに感染しても重症化しにくいというデータも。日中のウォーキングでスレトス解消&血流はよくなり、気分もリフレッシュし、コロナ回避の免疫力アップと一石三鳥ですね」

【3】コロナのニュースを見すぎない

 連日テレビで伝えられるコロナのニュース。感染者数や国の対応に一喜一憂するなど感情を動かされないようにするためには、その支配から逃れる必要がある。

「ストレスがかかるメディアに集中しすぎないことです。コロナの報道を客観的にとらえたりテレビが不安を煽(あお)っても『そういう見方もある』という程度に軽く考える。また、コロナ関連の番組ばかり見ないで、ドラマやバラエティーなど、楽しい番組でストレスを発散させましょう」

【4】間食したいなら“タネ”を食べる

 コロナで家にいる時間が長くなり、間食につい甘いものを……となりがち。だが、糖分は血管に炎症を起こすので、とりすぎないように注意しなければならない。

間食には“タネ”がオススメです。例えば、かぼちゃや亜麻という植物のタネ。タネにはミネラルなどの栄養素が豊富に含まれています。食べすぎはよくないので、軽くひと握りほどの適量をつまんでください。タネだけでなく、木の実のナッツもオススメですよ。ただし、食塩つきや油で揚げているナッツではなく、健康効果の高い素焼きのものに限ります」

【5】呼吸は“セブン-イレブン”で

 自律神経は血管の働きをコントロールする司令塔。過剰に緊張させないようにしなければならず、そのための簡単な方法が深呼吸だ。

「深呼吸は高ぶった自律神経を落ち着かせてくれます。海外の医師が推奨する『セブン-イレブン呼吸』を実践しましょう。これは、7秒かけて息を吸い、11秒かけて息を吐くというもの。自律神経は息を吸うときに活動モードの交感神経、息を吐くときは休息モードの副交感神経が働きます。吐く時間を長くとることでリラックス効果が高まり、血管の緊張も解くのです

突然死を防ぐプチ習慣〈後編〉

【6】いい油をとるならアボカドを

 良質な油をとることは、手軽にできて効果大の突然死予防策に。良質な油の代表格として、「オメガ3」グループの油をあげる。

亜麻仁油、エゴマ油がオメガ3に該当します。オメガ3の油は血管の詰まりを防いだり、動脈硬化を予防する効果があるのです。亜麻仁油は熱に弱いので、生野菜、豆腐、納豆にかけて摂取してください。一方、食べ物から油をとるならイチオシはアボカド。アボカドは栄養価が高く、動脈硬化や高血圧などを予防し、豊富に含まれるビタミンEは老化予防にもなります」

【7】時間のブロッキングで空白の時間をもつ

 気持ちは若くても、年齢には勝てない。昔とは違うことを認識し、自分をいたわるようにしよう。

「50歳を過ぎたら、意識的に心身をリセットする時間を持つべきです。例えば、毎週水曜日の夜7時から8時は仕事や家事を一切やらない、などとルール化する。自らストレスを遮断し、のんびり過ごせる時間を設けるわけです。このような『時間のブロッキング』を行い、ストレスや疲れをため込まないのも、血管を健康に保つ知恵ですね」

【8】血圧を測って血流改善

 大きな病院や街の医院に置かれていたり、自宅に備える人も多い血圧計。血圧計での血圧測定が、実は血流をよくする効果あり!

血圧を測る際は、まず腕の血管を締めつけてストップ。その後、締めつけが解かれ血液がさーっと流れ始めます。この一連の動きが血流をよくするのです。1で紹介したグーパー運動や、腕と脚にベルトを巻いて行う加圧トレーニングも同様に血流をよくします」

【9】血管ストレッチでNOを増やす

 運動不足だと血管の老化が急速に進み、詰まったり破れやすくなってしまう。運動には血管を拡張させる物質であるNO(一酸化窒素)を増やす効果があり、NOの分泌を促す「血管ストレッチ」として、ふくらはぎの運動をすすめる。

『第2の心臓』と称されるふくらはぎの筋肉を刺激すれば、そのポンプ機能がアップして、下半身から全身の血流をよくします。運動の方法は簡単。(1)両足を前後に開き、ふくらはぎが伸びるのを感じるまで、上半身を倒す。(2)前に出す足を逆にして同様に行う。ぜひトレーニングしてみてください」

(取材・文/百瀬康司)

《PROFILE》
杉岡充爾先生 ◎日本循環器学会専門医、すぎおかクリニック院長。千葉県船橋市立医療センターの救急医療に約20年従事したのち、開業。『強い血管をつくれば健康になる!』など著者多数