※イラストはイメージです イラスト/水口アツコ

 寿命が延び、60代、70代はまだまだ元気な世代。一方で、長くなった老後の家計も心配……だからこそ、「60歳以降も働く」という選択肢を考えておきたいもの。そこで、よりよい「OVER60の働き方」を見つけるために専門家のアドバイスと、リアルな実例を編集部が徹底取材!

働き続けるメリットは収入だけではない

今の時代、年齢を重ねても仕事を持ち続けることは、収入面はもちろん、さまざまなメリットがあります

 そう語るのは、今回お話をうかがった松本すみ子さん。シニアの生き方や働き方のアドバイザーとして、講座の運営や企業のコンサルティングなどを手がける、いわばセカンドキャリアづくりのプロフェッショナル。

 松本さんが挙げる「シニアが働くこと」の具体的なメリットは次のとおり。

■年金の補填・余裕
収入面では、年金だけでは足りない部分の補填になることが第一。金銭的に余裕がある人も、お小遣いを増やせる。

■新たな生きがい発見に
誰かのためになると思えば、使命感、達成感もあり、生きがいを持てる。

■健康づくりになる
通勤や仕事で運動量が増え、自然に体力維持に。生活のリズムもキープでき、仕事があると思うと健康管理を心がけるようになる。

■社会とつながり成長へ
どんな仕事も社会と関わっているので、社会勉強になる。また、年代や立場が異なる人との会話も脳への刺激になる。社会参加が高齢者の心身の健康につながっているというデータもあるほど。

社会参加が高齢者の心身の健康につながっている

●「なんのために働くか」を考えることが第一歩

 よいことばかりに見えるが、「ほんとうに満足できる働き方を見つけるには、早いうちから準備したほうがいいです」(松本さん、以下同)と釘を刺す。

第一歩として重要なのは、自分はなんのために働くのか、一度じっくり考えること。もうひとつは、家計簿をつけて支出を把握し、年金額も確認して、今後の収支を試算してみることです

 家計の補填が必要なのか、夢を追うのか、あるいは離婚を視野に自活したいのか。たしかに目的によって仕事の選択肢は変わってくる。年金も貯蓄も、その額は人それぞれだ。

「目的の優先順位も見極めておきたいですね。仕事内容も勤務条件も希望どおりなら理想的ですが、実際には、どの仕事も一長一短あり選択に迷うもの。でも重視したい目的がブレなければ、目指す働き方に近づけるはずです」

地域の仕事に注目、人生経験も生かせる

 ここで知りたいのは、どんな仕事がオーバー60世代に向いているのか。それをどうやって探せばよいかというアドバイスだ。

まず、お住まいの地域に目を向けてみてください。そのメリットは、1つは通勤がラクなこと。満員電車は体力的にきつくなってきますからね。また、地域には、人生経験を積んだシニアが求められている、さまざまな職場があります

 例えば、保育や介護・福祉・医療施設など。資格を問わない補助職の求人も多いうえ、専業主婦だった人も、家事や育児、介護などの経験を生かせる。

「その地域の仕事をどうやって探すかですが、地域の情報は地域にあります。お店に張ってある求人広告も立派な情報。なじみのある商店街に、働いてみたいと思えるすてきなお店がオープンするかもしれません」

 また、意外に有用だと、松本さんがすすめるのが口コミ。友人知人に、こんな仕事がしたい、こんなふうに働きたいと、ふだんから話しておくのもいい。求人側も人づてに人を探すことも多いので、口コミと口コミがマッチして、よいご縁につながることも多いという

※イラストはイメージです イラスト/水口アツコ

●こまやかな気配りも熟年女性の強み

 松本さんは仕事柄、求人側の要望を聞く機会も多い。その際によく話に聞くのは、店頭販売や飲食などの接客でも、熟年女性は頼りにされているということだ。

「例えば、ベビーカーの扱いに困っているお母さんを助けたり、高齢の方に椅子をすすめたり。こまやかな気遣いが評価されるんです

 人生経験を生かせる職種としてはカウンセラーなどの相談業務も向いているとか。もちろん、人それぞれの資格や経験、趣味や興味を生かせることを条件に探すのも、満足度の高い選択になるだろう

働くシニア世代は増加している(令和2年度版厚生労働白書より)

「すでに勤めている人が新しいことに挑戦するなら、定年まで待たず、50代で転職するのもおすすめ。50代のうちなら、求人の選択肢も多いからです。子育てや会社のしがらみがなくなるシニア世代は、実は挑戦を楽しめる世代でもあるんですよ」

 力強いエールをいただいたが、さて、あなたの選択やいかに? 最後に、楽しく働き続ける秘訣を聞いた。

若いときと違うのは、体力の問題。健康を害さないように無理をしないことです。また、年下の同僚に先輩風を吹かすのは禁物。謙虚でいることも大切ですね

◆オーバー60で働くために必要なこと
・必要な支出と年金支給額を確認し、老後の収支をシミュレーションしてみる。
・自分が働く目的を、じっくり考えておく。
・地域の仕事、人生経験を生かせる仕事に注目してみる。
・いくつになっても謙虚さを忘れない。

【働くシニアの星】人気ブロガーショコラさん
〜自分らしく働き、月12万円で暮らしを楽しむ〜

 ショコラさんは現在65歳、ひとり暮らし。ブログに綴られる暮らしぶりが人気を呼び、著書も好評だ。多くの女性がひかれたのは、無理なく働き、月12万円で、おしゃれも部屋づくりも楽しむ充実のシニアライフ。その働き方、暮らし方には、どのような秘密があるのだろうか。

◎第一の転機「社会に出て働きたい」

 ショコラさんは高校卒業後に就職し、24歳で結婚、退社。2人の息子に恵まれたが、32歳のとき、次男が小学校に上がったのを機にパートで働き始めた。これが最初の転機になったという。

結婚当時は寿退社は当たり前の風潮でしたし、将来のことなど考えていませんでした。でも徐々に、社会で“お母さん”だけでない場を持ちたいと思うように。そして何より、自分で稼いだお金が欲しかったんです」(ショコラさん、以下同)

◎第二の転機「別居→ひとり暮らし」

 42歳のとき、最大の転機を迎える。夫と別居して、ひとり暮らしを始めたのだ。

「ひとりで生きていくには、何がなんでも社員にならねばと奮起し、化粧品メーカーに契約社員として就職。のちに正社員になりました」

 46歳で離婚。友人から、老後のためにとマンション購入をすすめられ、1LDKの新築物件を約2000万円で買う。給料の半分とボーナス、慰謝料がわりの遺産で繰り上げ返済し、10年で完済した。

「今住んでいるこの部屋があることは、何よりの老後の安心材料になりました。仕事もお金のやりくりも、がんばってきたかいがあったと実感しています」

◎第三の転機「仕事をシフトダウン」

 55歳で所長に昇進するが、定年を前に57歳で退職を決心。パート勤務に。

「やりがいのある仕事でしたが、ストレスのせいか帯状疱疹になり、身体は限界でした。退職金は半減。でも、これまでの家計簿と、今後の年金収入を確認して、なんとかなると見通せたのです」

 64歳のときには、体力の衰えを感じて、週5日のフルタイム勤務から週4日勤務に、1年後時短勤務に2度目のシフトダウン。収入は減るが、65歳から支給される国民年金で補えるとの判断だった。

夫婦ともに無職の高齢世代の収支は赤字になるというデータも(家計調査年報2019年より)

◎そして65歳の今「自分らしく日々を楽しむ」

 転機を迎えるごとにシフトチェンジしてきたショコラさん。その生き方だけでなく、ブログで注目されているのは、何よりも出費を抑えながら日常を楽しむセンスだ。

「服もバッグも器も好き。でもモノは増やさず、本当に気に入ったものだけを、メルカリやネットオークションで安く手に入れます」

 スキンケア用品もコスパのよさで厳選。100円均一ショップも重宝するが、“安物買いの銭失い”はしない。

「月初めに食費用の財布と、“そのほか”の財布に予算額だけ入れます。日用品や外食費は“そのほか”から。残額がひと目でわかり、自然に予算内に収まるんです」

 休日には、ママチャリで遠出して喫茶店巡りをしたり、銭湯の露天風呂でのんびり過ごすことも。

「インテリアの工夫も楽しい。家具や小物など好きなものに囲まれて過ごす“おうち時間”は、至福の時です」

 ブログは本の感想も多く、かなりの読書家。心豊かな暮らしぶりが伝わってくる。

すべてが計画どおりだったわけではなく、今後も何が起こるかわかりません。でも、無理せず自分らしく、暮らしていきたいと思っています

◆ショコラさんに聞く、自分らしく働くために役立ったこと

・そのときどきで必要な収入額を見極めて仕事を選択。
・パートでも社会保険に加入でき、年金額を増やせた。
・体力に合わせて仕事をシフトダウンした。

◆ショコラさんの1か月の支出額

・食費               20,000円
・日用品              4,000円
・衣料・美容関係          12,000円
・趣味・外食            15,000円
・医療費              5,000円
・交際費              4,000円
・水道・光熱費           9,000円
・携帯・通信費           8,800円
・保険料              5,800円
・その他(マンション管理費、税金など)  30,000円

 合計 113,600円

※マンションは頭金100万円、月々6万5000円にボーナス払いの35年ローンを組み、10年で完済。

◆切り詰めるばかりでなく、楽しみをつくる

 旅行費用は予備費から支出して贅沢に。写真は一昨年、山形の温泉宿とさくらんぼ狩りを楽しんだときのもの。「山形牛と露天風呂を満喫。大好きな佐藤錦も思う存分いただきました」(ショコラさん)

実録! 私たちもオーバー60で仕事をしています!(1)

 働くシニアのみなさんに、仕事を始めたきっかけや仕事の内容、やりがいなどをリアルに語っていただきました。

《福祉》

◯NPO非常勤職員(76歳)
〜第2の人生と思い、障がい者を支援〜

 16年前、60歳で図書館職員を定年退職。その後、友人から障がい者と共に働く福祉事業所でボランティアをしないかと誘われたんです。

 働き続けてきたので、社会的人間関係を持ち続けたかったし、障がい者支援にも関心があったので引き受けることに。週に3、4日、家から徒歩30分の事業所に通い始めました。いわば、「第2の人生へのソフトランディング」とでもいいましょうか。

 やがて、きちんと仕事をしたいと思うようになり、その福祉事業所を運営するNPO法人の非常勤職員になりました。

 職場は、近隣にある自然食品の店と古本と雑貨の店、公民館内の売店の、3店舗です。私の仕事は、自閉症や車いす生活の人などと一緒に店を運営すること。給料計算や仕入れ商品の支払い事務も担当しています。

 障がい者のみなさんが、時間はかかっても、確実によい方向に変化していく様子を目の当たりにすると、うれしくなりますね。

◯福祉事業の運営(64歳)
〜コロナ禍を見かねて福祉の仕事に復帰〜

 福祉の現場で30数年働いてきましたが、60歳の定年を期に退職。その後は福祉を離れ、パートで働きながら、のんびり過ごしていました。

 ところが、コロナ禍の現状を見るにつけ、いまこそ福祉の力が必要だと痛感。「私も力になりたい」という、自分の本心に気づき、福祉の世界でリスタートしようと決心したのです。

 関係者やまわりの人に、自分の気持ちを伝えるには勇気がいりました。また、時を待つことも必要でしたが、再びフルタイムで福祉の現場に立つことができました。

 子育ても介護も終えた今、何の足かせもなく仕事に集中できることに、あらためて生きがいを感じています。

※イラストはイメージです イラスト/水口アツコ

《医療》

◯診療所の受付(68歳)
〜患者さんとのふれあいにやりがい〜

 忙しくしていた地域活動に区切りをつけ、「これからはゆっくり老後を過ごそう」と思っていました。ところが、友人に頼まれて、近所の診療所で受付の仕事をすることになりました。

 診療所には毎日さまざまな患者さんがいらっしゃいます。みなさんとのふれあいを通して、人それぞれに人生模様があるのだと実感。自分が意外に世話好きなことも、この年になって発見できました。少しでも患者さんの助けになればと思い、やりがいを感じています。

実録! 私たちもオーバー60で仕事をしています!(2)

《販売》

◯子ども服販売員(76歳)
〜好きなブランドで売り上げに貢献できた! 〜

 専業主婦で、子どもたちも独立し、孫の送り迎えなども一段落したのが65歳のとき。空いている時間に何かできないかと考えていたところ、孫の服をよく買う外資系カジュアルブランドの店で、同年代の女性が接客しているのを見かけたんです。

 自分もやってみたいと思い、問い合わせると、年齢制限も定年もないとのこと。面接に合格し、ベビー&トドラー売り場に配属。週に1、2日通っています。

 同年代のお客さんは話しかけやすいようで、孫へのプレゼントを相談されることも。若いお母さんからは子育ての相談を受けたりして、何度か売り上げトップで表彰されました。850円の時給も今は1250円に。一度、頼まれて勤務を増やしたところ体調を崩し、元のシフトに戻してもらいました。やはり体力は以前のようにはいきませんね。

 1日に数時間の仕事なので収入は多くはありませんが、もともと子どもも洋服も好きなので楽しいです。職場には若い人も多いので、こちらの気持ちも若々しく元気でいられるような気がします。

※イラストはイメージです イラスト/水口アツコ

◯古着リフォーム店の販売員(63歳)
〜初めての仕事も楽しく続けています〜

 知人が古着や着物で作った洋服を販売するショップをオープンしたのですが、店頭に立ってもらえる人がいないとのこと。それで、お願いできないかと頼まれたんです。古着のリフォームには関心があったので、手伝ってみることにしました。

 店頭販売の経験はなかったので、最初は不安もありました。でも、もともと興味があった分野でもあり、思っていた以上に楽しんでいます。

《観光》

◯観光ホテル客室係(62歳)
〜アパレルから観光業へ〜

 服飾デザインの仕事をしていましたが、体力の限界を感じてやめることに。その後、10年ほど前に観光ホテルの客室係に転職をしました。

 コロナ禍の前は海外からのお客様も多く、なかなか国際色豊かな職場でした。この仕事を始めて、語学をもっと勉強したいと思うようにもなりました。コロナが収まり、また海外のお客様を迎える日のために、勉強を続けています。いくつになっても何か新しいことを始めるのは、楽しみでワクワクしますね。

※イラストはイメージです イラスト/水口アツコ

●シニアワーカーの落とし穴に注意
《自分の健康は自分で守る!》


 加齢による体力の衰えは、個人差はあるにせよ、だれもが逃れられないもの。体力に応じて仕事を調整したり、食事や睡眠、運動といった生活習慣を見直すなど、健康管理にはこれまで以上に気をつけたい。

 松本すみ子さん(前出)も、シニアが働くためには「健康が最も大切」と強調する。「社員時代は会社で健診を受けていた人も、退職後は自分で積極的に受けるようにしてください」(松本さん)。

教えてくれたのは……松本すみ子さん
1950年生まれ。シニアライフアドバイザー、キャリアコンサルタント、産業カウンセラーとして、セカンドライフの提案や情報提供を行う。著書に『55歳からのリアル仕事ガイド』(朝日新聞出版)、『定年後も働きたい。人生100年時代の仕事の考え方と見つけ方』(ディスカヴァー21)など。

教えてくれたのは……人気ブロガーショコラさん
1956年生まれ。60歳から始めたブログがPV数ランキング上位になり話題に。著書に『58歳から日々を大切に小さく暮らす』(すばる舎)『65歳から心ゆたかに暮らすために大切なこと』(マガジンハウス)がある。
ブログ「60代一人暮らし たいせつにしたいこと」URL:https://lee3900777.muragon.com/

《取材・構成/志賀桂子》