家森医師の“令和食”。朝食ではヨーグルトを食べ、免疫力をしっかりつけて

「日本は世界一の長寿大国だと思っていませんか。でも今や世界のトップは香港なんです。長寿大国・日本は今、危機に直面しています」

 そう語るのは、世界中の長寿食を調べた家森幸男先生。

世界一の長寿国から転落した日本

「香港と日本には大きな違いがあります。それは高齢者の栄養状態。香港は高齢者の栄養状態がよいのに比べ、日本人は決してよい状態とは言えません。そのため、日本人は“平均寿命”こそ84歳と長いですが“健康寿命”は74歳程度なのです」(家森先生、以下同)

 健康寿命とは“寝たきりや病気などで日常生活が制限されることなく、元気に過ごせる期間”のこと。

「日本人は、長生きしても病気や寝たきりの人口がとても多いのです。平均寿命と健康寿命の差は10年間あります。この10年間を寝たきりや認知症の状態で過ごす。これでは単なる“長命”であって“長寿”ではありません

 2000年代に入ってぐんぐん平均寿命を延ばし、世界一の長寿国となった香港。

「香港といえば、油と調味料をたっぷり使った中華料理を食べている。そう思っている人が多いでしょう。ところがそうではありません。香港は食文化のレベルの高い広州の向かいに位置し、野菜や果物も豊富な地域で、新鮮な食材が手に入ります。豆腐や豆乳などの大豆製品も日常的にとっています。海に面した香港には、魚介類もふんだんにある。日本人が考える中華料理とは別物を食べています」

 野菜、果物、新鮮な海の幸に大豆製品。これらの長寿食を摂取しているのは日本人も同じ。特に日本人は、納豆や魚料理が好きな人も多いのだが……。

大きな違いは塩分です。日本人のほうが塩分の摂取量が多いのです。香港では、新鮮な素材を使うため、塩で濃い味つけも必要ないし、食材が豊かなので塩による保存食にも依存しない。“適塩”を守った食生活をしているおかげで、香港と広州にはほとんど高血圧の人がいないのです

 いくら日本人が魚と大豆を摂取しているといっても、冷ややっこや焼き魚にじゃぶじゃぶしょうゆをかけてしまっては元も子もないわけだ。

究極の長寿食の秘訣3つのSで長寿に

「私は“食が寿命に及ぼす影響”、つまり食塩と脳卒中の関係を調べるためにWHO(世界保健機関)に研究センターを創設し、30年間、25か国61地域を回りました。その結果“食と寿命の関係”が明らかになりました。それは“3つのS”です」

 長寿食の秘訣である3つのSとは減塩=SALT、魚(魚介類)=SEA FOOD、大豆=SOY

【10年寿命を延ばす“3つのS”】

●SALT(塩)
食塩を減らすだけで脳卒中、胃がん、認知症などさまざまな病気が予防できる
●SEA FOOD(魚介類)
魚に含まれるタウリンが血圧を下げ、ストレスを緩和、心筋梗塞や脳卒中のリスクを減らす
●SOY(大豆)
大豆イソフラボンには血圧低下、心臓病予防、更年期の症状緩和などさまざまな働きが!

塩分を控え、海産物、大豆を食べることが究極の長寿食です。塩は寿命を大きく左右する。世界中どこに行っても、塩分をとりすぎる地域は短命です。塩分を控えることで予防できるのは脳卒中だけではありません。胃がんの発生率も下げ、脳卒中からの寝たきりが原因で発生する認知症も予防できる」

 魚を食べる習慣のある地域の人々は肥満・高血圧、高脂血症の割合も低く、長寿。魚介類に含まれるタウリンは、さまざまな健康増進効果があり、まさに長生きの栄養素だ。

日本の伝統食こそ理想に近い長寿食

「また、大豆は畑の肉と呼ばれるほど良質のアミノ酸を含んでいます。魚と大豆を多くとる和食には、健康長寿のためのエッセンスがほぼすべてそろっています」

 30年以上かけて世界中を回った結論は、日本の伝統食こそ理想に近い長寿食だということ。ただし、和食にも食塩が多いという欠点が。この和食の欠点を補い、なおかつ世界の長寿食のいいところを取り入れた究極の長寿食こそ、“令和食”だ。

「“令”は美しいという意味で“和”はバランスを意味。美しいバランス食であることから令和食と名づけました」

 従来の伝統的な和食をベースとしながらも、適塩で、西洋の長寿食(ヨーグルト)を取り入れた和洋いいとこ取りの令和食。

【令和食の5大ルール!】

野菜、果物をたっぷり食べる
野菜や果物に含まれるカリウム、マグネシウムはナトリウム(食塩)の害を打ち消す
●適塩を心がける
1日の塩分を7gに抑えると脳卒中による死亡率はほぼゼロに!
●脂質は控えめにする
脂肪のとりすぎは動脈硬化を招き、心筋梗塞などを引き起こす原因に
●主食、主菜、副菜をバランスよく食べる
ご飯を中心におかずを食べる和食は余計な脂肪摂取を抑えることができる
●「まごわやさしいよ」食材をとる
下で解説する8種類の食材を1日1回はとることが大事!

【「まごわやさしいよ」の8つの食材】

『ま』豆類(特に大豆、大豆製品)。豆腐や納豆、豆乳なども含まれる
『ご』ごまなどの種実類。ごまあえなどはもちろん、間食にはくるみなどナッツを!
『わ』わかめなどの海藻類。昆布やもずく、特有のねばねば成分には腸内環境を整えるフコイダンも
『や』野菜。1日350gとることが厚生労働省で推奨されている。効率的な摂取を
『さ』魚。タウリンを多く含む。和食でだしをとるなら、そのまま具材として食べるのがおすすめ
『し』しいたけなどのキノコ類。低カロリーで食物繊維が多く、うまみ成分もたくさん!
『い』イモ類。ナトリウムの排出に不可欠なカリウムがとれる。ビタミンC、食物繊維も豊富
『よ』ヨーグルト。カルシウム、マグネシウム、カリウムを含み認知症の予防にも!

イラスト/くぼあやこ(『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』より

 次からは令和食の本の監修者・東海大学准教授、森真理先生が指導した、家森先生の食生活をチェック!

1日1食の令和食を実践 家森スタイルを拝見!

■朝食はカスピ海ヨーグルト!

コロナ禍、高齢者はヨーグルトを食べて免疫力をしっかりつけて

「私の朝食はカスピ海ヨーグルトを250ml。これにいろいろとトッピングします。きな粉やナッツ、黒ごま、じゃこなども入れます。おかげで風邪や便秘と無縁。ヨーグルトにはさまざまな健康増進効果がありますが、長寿と関係が深いのは、年齢とともに衰える腸内フローラを整える整腸作用や塩分の害を打ち消すミネラルの効果、血糖値の上昇を抑えるメタボ予防効果。そして免疫力を上げる効果も。ウイルス性疾患は免疫力が低下するとかかりやすくなります」

毎朝、1時間かけて弁当を作り続けている妻も現役の医師です

■昼食は愛妻“令和”弁当!

「昼は家内が作ってくれる弁当を仕事場に持参。これは“1日1食”の実践です。食材は平均20品目が入っており、野菜は蒸し野菜。野菜の甘みで調味料も不要です。ご飯は麦や玄米、雑穀を混ぜることも。ご飯の上には昆布の佃煮。塩味が効いたものが少量あるとアクセントになって、ほかは薄味でも十分満足できる。

 今では出張の際にもこの弁当を持参しています。

 作ってくれる家内、指導してくれた監修者の森先生のおかげで健康寿命が10年は延ばせていると感謝です」

栄養満点のお弁当
栄養満点のお弁当

 例えばある日は「ま」=豆、「ご」=すりごま、「わ」=とろろ昆布、「や」=蒸しキャベツ、「さ」=鯖、牡蠣、「し」=しめじ、エリンギ、「い」=トウモロコシ(イモ類ではないが澱粉)と、必須食材が勢ぞろい。卵焼きに、青えんどう、大豆、赤インゲン、黒豆、ひよこ豆の5種の豆類を入れるなどの工夫も!

■夕食は外食も多い!

「夜は付き合いで外食することも多いですが、昼食で令和食をしっかりとっているので夜はあまり気にせず和洋中と何でもいただきます。“1日1食”の効果は、ボランティアの協力による研究で実証ずみ。働き盛りの中高年男性に1日1食の令和食を提供したところ、4週間後、肥満度と血圧の低下、善玉・悪玉コレステロールが大いに変化したのです。私もおかげさまで病気知らず。毎日、勤務先まで元気に通っています」

各国料理やお酒もたしなむ家森先生

■お酒もこう飲めばOK

 お酒を大量に飲む人には高血圧、心筋梗塞、狭心症などの心臓疾患が多い。適量を飲む分には血圧を下げるが、大量に飲むと、心拍数が上がる。血圧の下がりすぎを防ぐため、心臓が速く動いて心拍数を上げる、これが心臓には大きな負担になるのだ。つまり、心拍数が上がるまでお酒を飲んだら飲みすぎ。

赤ワインをヨーグルトで割るのは先生のおすすめ。レーズンをのせ、くるみをアテにすればさらにヘルシー

■スマートウォッチを活用!

「私の場合は、お酒を飲むときはスマートウォッチで心拍数(脈拍)を確認しています。スマートウォッチは時計機能のほかに健康管理機能を備えており、いつも腕につけて自分の心拍数をチェックするには最適。だいたい平常時の脈より30以上上がったら“飲みすぎ危険信号”です」

お酒を飲むときはスマートウォッチを活用 イラスト/くぼあやこ(『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』より)

“食育先生”森真理先生に聞く「令和食の実践」

 令和食は1日1食でも効果があります。ご飯にごまをかける、かつお節を利用する、わかめや昆布、豆腐や納豆、具だくさん味噌汁でキノコ類を食べるなど、むずかしくありません。次世代への提案ポイントは“なるべく簡単に!”でないと実践につながりません。

 簡単な料理としては、具だくさん炊き込みご飯と、豆乳や牛乳を加えた具だくさん汁物。これにつきます。お弁当で家族から喜ばれたのは、蒸し野菜をスライスチーズで味つけするチーズあえ。適塩を意識するには、だしで調味料を割る。酢や香辛料を利用する。1週間、1日1食でも適塩生活を続けると、薄味に慣れ、味覚が変わっていくのが実感できますよ!

【令和食にプラスしてウォーキングは1日8000歩】

「健康長寿を達成するためには運動も重要。私は1日8000歩を歩くようにしています。これは高齢者の運動と健康に関する研究結果で、1日8000歩、そのうち20分を早歩きすることで、高血圧症、糖尿病、認知症などを防ぐことがわかったからです」(家森先生)

イラスト/くぼあやこ(『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』より)

「大豆+魚」で認知症を予防

「健康長寿食材で卓抜しているのは魚+大豆です」(家森先生)

 2016年に兵庫県で得られたデータでは、魚と大豆それぞれの摂取量の多いグループから少ないグループの3つに分け、葉酸値を測定した。最も葉酸値が高かったのは、魚と大豆を多くとっているグループだった。葉酸は、ビタミンB群の一種で脳の発達に深く関係しており、認知症の予防に効果があるとされている。

「実際にオックスフォード大学で葉酸が認知症予防にどれだけ効果があるか研究されました。結果、葉酸をとっていたグループはそうでないグループに比べて明らかに脳の萎縮が少なかったのです

究極の手抜き料理で令和食を実践!

 監修者の森真理先生に、簡単な令和食の作り方を聞いた。

基本ルールはたった2つ。(1)蒸し野菜や乾物類で“まごわやさしいよ”を料理に取り入れる、(2)しょうゆの代わりにだしやお酢、スパイスなどを活用する。これだけです。炒めたり煮たりすると油や塩が必要となりますが、蒸し野菜はそれらが不要。その蒸し野菜をかつお節であえたり、お酢やしょうがで味つけして適塩の副菜に。

そうすれば、あっという間に1日に必要な野菜(350グラム)を摂取できます。蒸し野菜たっぷりの副菜を食べて、わずか1か月で高血圧、中性脂肪、コレステロール値が改善されたケースもあります」(森先生)

“遺伝子が喜ぶ”食べ方を

「生物は海から生まれました。海水の中に溶け込んでいるマグネシウムを使って、生物は体内を維持する仕組みを作り上げたのです。その後、一部の生物が陸に上がった。海から陸という環境に適応するためには浸透圧の変化に対応する必要があります。タウリンには、浸透圧を調整し、身体のバランスを維持する働きがあります。

 そんな進化の過程から考えても、私たちにはマグネシウムとタウリンがとても重要なことがわかる。2つの生命のもと、マグネシウムとタウリンを摂取する。それこそ私たちの身体に脈々と息づく“遺伝子が喜ぶ”食べ方なのです」(家森先生)

 タウリンは魚介類や海藻など「海のもの」に多く含まれ、マグネシウムは大豆などの豆類、精白されていない穀物、野菜など「山のもの」に多く含まれている。海の幸、山の幸を食べ、適塩を守る。そんな令和食で長寿体質を目指そう!

『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』(集英社インターナショナル刊・森真理東海大准教授監修)※記事の中で画像をクリックするとamazonのページに移動します
教えてくれたのは……冒険病理学者 家森幸男先生
医学博士。武庫川女子大学国際健康開発研究所所長、京都大学名誉教授。30余年24時間、マサイ族から各国先住民族まで世界中の尿を集め分析。その研究結果をまとめた『遺伝子が喜ぶ「奇跡の令和食」』(集英社インターナショナル刊・森真理東海大准教授監修)ほか著書多数。

(取材・文/ガンガーラ田津美)