身近なものや不用品を利用して作られた「おかんアート」の作品たち (撮影/都築響一)

 どこかで見たことがあるような、ないような……ゆるくてかわいい、でも素材や造形にどこかおかしみも感じる……そんな作品が一堂に会した展覧会「Museum of Mo
m's Art ニッポン国おかんアート村」が現在、東京都渋谷公園通りギャラリーで開催中だ。

「MuseumofMom'sArt・ニッポン国おかんアート村」の会場風景。おかんたちの巨大パネルが並ぶ

 家の中に花を添えるためや、サスティナブルもとい“もったいない”の観点から、主にお母さんやおばあちゃん=“おかん”世代と呼ばれる人たちが作っている、リメイクやリサイクルを中心としたファンシーな作品群。あなたも作ったことがあるのでは?

どこか懐かしい?実家感が凝縮された「おかんアート」の魅力とは

 日本人の心の中の「実家感」が凝縮されたような展覧会がいま、リアル、ネットともに大きな話題に! そんな「おかんアート」の魅力について、本展のキュレーターのひとりである都築響一さんはこう語る。

「実家に帰ると、そのたびに手作り感のある置物が増えていたりしますよね。私たちはそれを認識しながらも、特に気に留めていません。しかし、世界中の“おかん”がこの瞬間もおびただしい量の作品を生み出し続けています。最も広く、多く作られているものがなぜ無視されてきたのだろう、ということから今回の展覧会を企画しました」(都築さん、以下同)

「おかんアート」が持つ破壊力

色とりどり、個性の塊のおかんアートたち。圧巻!

 誰もが見たことがあるはずなのに、意識されてこなかった“おかんアート”は、よく見ればそのひとつひとつに強烈な個性や、ある種の“抜け感”を持っていることに気づかされる、と都築さん。

「アートとは人の心を震わせる“破壊力”だと考えます。おかんアートが持っている“破壊力”は計り知れません。例えば安藤忠雄建築のようなシンプルでモダンな空間に、ひとつおかんアートを置くと、強烈な違和感が生まれるでしょう。まさにアートなんです」

 素材を見れば、余り布や毛糸、タバコのパッケージや酒瓶、チラシ、軍手などなど……身近なものや不用品を利用しながらも、すべてのしがらみから解放された自由な作品たちは見ていて思わず笑みがこぼれるし、力強さも感じる。

 今回の展示は、主に神戸の“おかんアーティスト”の作品を集めたものだが、全国津々浦々で同じような作品が作られており、そこに個人差はあれ地域性のようなものは驚くほど少ないのだという。

「今回の展示でもひとつのコーナーにしているのですが、手芸店で扱っているキットや、昔はたくさんの出版社から出ていた手芸本などが発想や技術の源流になっています。そこにおかん独自の生活スタイルや個性が関わってくるのが面白さのひとつです

 作り上げたら、まずは自宅に。そして子どもや孫や友人に。そしてある程度自信がついたら公民館や病院の待合室などに置いてもらう。時にはバザーや道の駅などの直売所で売られたり─。それが主な流通経路だ。

心揺さぶる「おかんアート」の作品例

キューピーの服(香坂司登美、作者不詳)
キューピーの服・撮影/都築響一

 何にでもお洋服を着せてあげたくなるのがおかんスピリット。キューピーちゃん、電話ちゃん、ドアノブちゃん……なんでも包んで寒くないように保護してあげる、これこそが愛!?(※ニュースサイト、ニュースアプリでこの記事をご覧の方は週刊女性PRIME本サイトで写真が見られます)

アマビエ様 (作者不詳)
アマビエ様(作者不詳)

 トレンドにも敏感なのがおかん。疫病退散の化身を人にあげて喜ばせたい、そんなピュアな思いがこもったアマビエ様も、おかんにかかればたちまちファンシー化。(※ニュースサイト、ニュースアプリでこの記事をご覧の方は週刊女性PRIME本サイトで写真が見られます)

男性の作るものとは対照的な「おかんアート」

 このような“おかんアート”は、男性の作るものとは対照的な点があると都築さん。

「男性はなにかものづくりを始めると、“道”に入ってしまいがちなんですね。お父さんたちは名刺をなくした瞬間にコミュニティーを失ってしまう人が多いので、趣味を見つけるとだいたい1人で黙々と完成度を高めていく」

 それに対して、多くの女性たちは、集まっておしゃべりやお茶を楽しみながら、みんなでものを作ること自体を楽しんでいるという。

「女性の平均寿命が男性よりも長いのは、年齢を重ねても気兼ねないコミュニティーを保つことができるからなのかもしれません」

 この瞬間にも、全国津々浦々……いや、全世界で笑顔の中から“おかんアート”が生まれ続けている。ひとたび気づいてしまえば「うちにもあった!」「ここにもあった!」と、日常にはアートがあふれていたことを認識できるはずだ。

「『週刊女性』の読者の方にも“おかんアーティスト”がたくさんいると思います。子どもやお孫さんにあげて困惑されることもあると思うのですが(笑)、気にしないでわが道を歩んでください。あなたはアーティストなのですから」

 昨今の「おうち時間」にもぴったりの、見ればハッピー、作るのもあげるのも楽しい、でももらうほうは置き場所に困ることもある(笑)という、広くて深く、そして何より楽しい気持ちにあふれた“おかんアート”の世界。これを読んでいるあなたも、もうすでにアートの世界に足を踏み入れているかも……。

「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」
キュレーション:都築響一+下町レトロに首っ丈の会
開催中〜4/10(日)
東京都渋谷公園通りギャラリー 11:00-19:00 入場無料
休館日:3/21を除く月曜日・3/22
主催(公財)東京都歴史文化財団 東京都現代美術館 東京都渋谷公園通りギャラリー

教えてくれた人は……都築響一さん
●1956年東京都生まれ。作家・編集者・写真家。欧米のアール・ブリュット/アウトサイダー・アートの動向をいち早く日本に紹介した草分け的存在。会員制の有料メルマガ「ROADSIDERS' weekly」を毎週水曜配信中。

〈取材・文/高松孟晋〉